▼この記事では生産設備製造会社の承継に際して、承継対象となる当該会社の財務デューデリジェンス(DD:Due Dilligence。以下「DD」と略します)をする場合に見るべき分野とDDレポートで気をつける点について解説します。
生産設備製造会社と言われてもピンとこない方もいらっしゃるかもしれません。例えば、オークマ、ヤマザキマザック、DMG森精機、ジェイテクトなどが挙げられます。
このような会社では顧客から個別に受注を受けてから生産します。このような生産形式の会社で注目すべきは原価・棚卸資産と売上・売掛金であると考えています。以下で詳しい内容を記載します。
生産設備製造会社の原価・棚卸資産
1 仕掛品の滞留状況
生産設備製造の会社にとって仕掛品とは、顧客に売る前の製作途中の在庫になります。生産設備なので、通常は製作に1か月以上、長いものによっては1年以上かかるものもあるかもしれません。DDの際には期末日時点の仕掛品の明細を閲覧します。その明細中に仕掛品1つ1つに対して製作開始年月日の記載があるはずで、それに注目しましょう。
そして、DD会社担当者に平均的な製作期間を聞き、それを大きく外れる仕掛品については個別にヒアリングを実施し、事情を把握します。すなわち、例えば、平均的な製作期間が3か月で、ある仕掛品が1年たってもまだ仕掛品のままという場合は必ず事情を把握します。ここで「当初の顧客が品質に満足できず、買ってくれない。でも、他の会社が買ってくれるかもしれないからそのまま持っている」といった回答を会社がしたとしましょう。当初の顧客とは異なる顧客が買うという取引事例がほぼないのでしたら、当該仕掛品の評価はDD上ゼロになります。滞留している仕掛品があれば、それが今後売れる見込みがあるかどうかを検討しましょう。
2 製品の棚卸状況
生産整備製造の会社では期末日時点で棚卸をしているはずですので、棚卸リストと現物をチェックしている資料を確認します。まず注目すべきは棚卸対象外とされているものです。例えば、自社工場にあるものではあるが、すでに顧客に売ったものという理由で棚卸対象外とされた場合があったとしましょう。顧客に売った生産設備なので、普通は顧客の工場にあるはずです。異常な状況であるということを認識しましょう。
先方は当該棚卸資産について、「自分たちのものである。しかし、現状仕事の関係で自社工場に置くことができないので預かってもらっている」といった預かり依頼書が提出されていれば何も問題はありません。そういった文書が出ていない場合は更に追加の確認をする必要があります。先方の了解を得ていることを十分に確認できない場合は、DDの評価上は売上の取消となり、棚卸資産の追加計上となります。
3 原材料費・労務費・経費の製品・仕掛品への原価集計方法
製品を製造するにあたっては、製品の原材料の購入費用だったり、工場で働く従業員の労務費だったり、機械油やドライバーなどの消耗品の購入費用などの原価が発生します。できた製品にかかった費用がいくらなのかは製造工程で原価を測定する仕組みをあらかじめ導入していないとわかりません。ということで、会社はルールを定めて仕掛品や製品に原価を割りつけているはずです。まずはそのルールを確認しましょう。ここで、工場で発生した労務費は全て仕掛品に計上するなど、原価の発生状況から合理性がないと判断される場合はDDの評価上、一部は製造原価にするなどの対応が必要です。
そして、次に決めたルール通りに運用できているかも確認が必要です。
生産設備製造会社の売上・売掛金
1 売上・売掛金のカットオフ
売上・売掛金については、まずは会社が得意先との取引のどの段階で売上を認識するかを決めているはずですので、その文書を確認します。公認会計士が監査をしている会社であれば、この文書を公認会計士が閲覧し、その妥当性を検討しているはずなので、会計上は妥当であるとしても問題ない可能性が高いです。しかし、公認会計士が監査していない会社である場合は以下のような問題がある可能性があります。
日本の多くの会社では、売上の認識基準として出荷基準をとっています。出荷基準とは、製品ないし商品を出荷した時点で売上を計上する収益認識方法のことをいいます。生産設備製造会社で、この出荷基準を採用している場合は本当にそれが妥当であるのかを疑う必要があります。というのは、出荷基準を取れる製品ないし商品とは受け取った顧客がそのまま使用できる場合です。生産設備についても、一般の家庭用電化製品のように受け取った顧客が設置して利用できるようなものもあるかと思いますが、会社の従業員が顧客の工場に行って、据え付け工事、初期設定、試運転をして、顧客が使用できることを確認したうえで、納品になることがほとんどではないかと思います。この場合ですと、売上は顧客が使用できることを確認したタイミングで認識すべきです。会社の計上基準に誤りがある場合は以下の売上取引の検討においても、正しいものに会社の基準を置き換えて以下の検討を行います。
話を元に戻します。次に期末日近傍の売上取引を抽出し、会社の決めた売上認識基準と整合しているかを確認します。全ての売上取引の確認は困難な場合が多いと思いますので、DDの評価に大きな影響を与える金額の大きなものに限定します。会社の決めた売上認識基準と不整合なものについては、DDの評価上は売上と売掛金の計上を取り消すことになります。
2 売掛金の滞留状況
一般的には生産設備製造会社では量産品を製造・販売している会社と比較して、売上取引の数が少なく、1件あたりの金額が高くなります。そのため、期末日時点で会社が当期純利益になるか当期純損失になるかの分かれ目が1件の売上取引を計上するかどうかにかかってくる場合もあります。顧客の工場の生産設備は毎年更新していくものではなく、数年~数十年に1回更新するものです。そのため、年間売上の多い得意先をランキング形式で並べた場合には、毎年順位が大きく変動することが特徴の1つであったりします。とは言っても、期末日近くに多額の売上を計上している得意先で、しかもその得意先がほぼ初めての売り先である場合は要注意です。お試しで生産設備を使ってもらっているだけだったり、架空の取引先であったり、するかもしれません。そういった本来売上でないものを無理やり売上として計上していると、相手勘定の売掛金は滞留します。そのような特殊な状況でなくとも、単に財政状況が悪い会社に製品を売っても売掛金は滞留します。売掛金が滞留している場合は、会社担当者へのヒアリング、得意先との商談記録・約束文書の閲覧をして、回収見込金額を見積もります。DD評価上は、回収見込金額を上回る部分は売掛金を減額し、損失を計上します。
生産設備製造会社のDDレポートで気をつける点
一般的なDDレポートでは、エグゼクティブ・サマリーに書かれていることがDD実施によりわかった特に重要なポイントとなります。生産設備製造会社を買う会社にとっては、上記で解説した原価・棚卸資産、売上・売掛金が関心の高い分野になりますので、これらについて、書くべきです。管理状況がよく会社の作った財務諸表通りの実力であるならばその旨を書くべきですし、実態が大きく乖離するならばその旨を書くべきでしょう。
DDレポートは通常パワーポイントでまとめますので、字はなるべく少なく、グラフや図を多用することにより、わかりやすいものにすることが大切です。そして、何よりも大切なのは報告対象者の意思決定に資するものを提供することを心掛けることです。
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