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法人格否認の法理とは? 関連する判例やM&Aで適用されるケースについて解説!

2023年06月06日

法人格という概念は、ビジネスでさまざまな解釈ができるため、不適切に用いられることがあります。法人格に関するトラブルを防ぐための考え方が「法人格否認の法理」です。M&Aのトラブルを回避するためにも重要な法理であり、経営者であればよく理解しておく必要があります。

今回は、法人格否認の法理の概要をはじめ、関連する判例やM&Aで適用されるケースについて解説します。

 

法人格否認の法理とは何か?

法人とは、法律上で人と同じように権利・義務を持つことが認められた組織です。そして、法人が持つ権利能力を法人格といいます。法人格という概念があるおかげで、私たちは会社同士で契約・取引を取り交わすことができます。

株式会社は法人であり、株主とは異なる人格を持ちます。ただ、状況によっては法人格を認めることで、紛争や事件の解決が難しくなる場合があります。また、法人格が悪用され、正義・公平の原則に反してしまうことも少なくありません。
そのため、一定の場合に会社の法人格を否定する「法人格否定の法理」が存在しています。

法人格否定の法理は、特定の事案において法人の存在を認めながら法人格というヴェールを取り去り、見えてきた実態に即して法律的な対処をする考え方です。
会社の法人格を全面的にはく奪して、法人の存在を否定するわけではありません。絶対的否認ではなく、相対的否認であることを理解しておきましょう。

参考:滞納処分における法人格否認の法理の適用について(広島国税局徴収部徴収課)

 

法人格否定の法理が認められるケース

法人格否定の法理が認められるケースは主に下記の通りです。

・法人格が形骸化している場合
・法人格が濫用されている場合

 

それぞれのケースについて解説します。

 

法人格の形骸化

法人格の形骸化とは、会社が実質的に株主の個人営業で成り立っている状態をさします。具体的に下記の傾向があると、法人の形骸化とみなされるといわれています。

・株主総会や取締役会の不開催
・株券の違法な不発行
・帳簿記載や会計区分の欠如
・業務の混同
・財産の混同

たとえば、株主が社長一人しかいなくて、社長が会社の財産と個人の財産を混同している場合、法人格が形骸化している可能性が高いです。

 

法人格の濫用

法人格の濫用とは、法律の適用を回避するために法人格が悪用されている状態をさします。
学説上では、濫用を判断するための要件として、支配要件目的要件の2つが挙げられています。

要件 内容
支配要件 会社を自己の道具として用いることのできる支配的地位にある背後者が法人格を利用している
目的要件 違法な目的で法人格を利用している

 

違法な目的としては、法人格の利用による法律回避契約義務回避債権者詐害などが該当すると考えられています。背後者が会社を完全に支配して会社と株主の分離原則を無視する場合は、目的要件を満たさなくても法人格の濫用とみなされるようです。

参考:「法人格否認の法理」に関する訴訟法的考察(立命館大学)

 

法人格否認の法理の判例

法人格否認の法理について解説しましたが、実際に適用された事例を確認しないと、効果についてイメージしづらい方もいるでしょう。

ここからは、法人格が形骸化しているとみなされた場合と、法人格が濫用されているとみなされた場合に分けて、法人格否認の法理が適用された実際の判例を解説します。

 

法人格の形骸化に関する判例

複数の法人を実質的に支配する貸主(代表取締役)が、法人を巧みに利用して貸付をおこない、利息制限法違反の利息を取得していた事例です。

貸主は最終的に、会社に対する過払い金返還請求権を有している個人に対して、当該債務の連帯支払を命じられました。
著名な租税回避地に形式的な本店を置き、僅少といえる資本金で複数の会社を設立しており、関連会社の営業自体が曖昧であったことから、法人格が形骸化しているとみなされています。

参考:判例時報 No.2162(判例時報社)

 

法人格の濫用に関する判例

社会保険労務士が強制執行から逃れるために、社会労務士法人を設立した事例です。

社労士は当初、法人の設立を不要という認識を持っていました。しかし、自身の財産に対して差し押さえの危険が生じると知り、早急に法人を設立します。設立された法人は、社労士の商号と類似しており、連絡先や所在地も同じでした。

形式的には社労士と別個の形態ですが実質的には同一であり、法人格の濫用として法人格否認の法理が適用されました。最終的に法人の責任が認められています。

参考:判例タイムズ1476号 11月号(判例タイムズ社)

 

M&Aで法人格否認の法理が適用される場面

M&Aを実施するときには新たな法人を立ち上げることがあります。当然、法人を不適切な目的で利用する場合、法人格否認の法理が適用されてしまう恐れがあります。

M&Aの実施にあたってトラブルを回避するためにも、法人格否認の法理が適用される場面を押さえておきましょう。引き続き、M&Aにおいて法人格否認の法理が適用される場面を解説します。

 

事業譲渡による不当解雇

過去に新設の別法人を設立して事業譲渡をするとき、一部の労働者が不当解雇された事例がありました。新関西通信システム事件と呼ばれています。

実態としては、新たな法人の設立は組合嫌悪目的で行われており、労働者の解雇が解雇法理を潜脱するとして、法人格否認の法理が適用されています。

M&Aによって事業を譲渡するとき、会社にとって不都合な従業員を解雇する場合は、法人格否認の法理が適用される恐れがあります。事業譲渡をするときは、トラブルを回避するためにも、不当な理由で従業員を解雇しないことが最重要です。

参考:労働事件における法人格否認の法理 p63(日本大学法学部)

 

債務回避のための会社分割

債務回避のために会社分割が行われるケースがあります。たとえば、会社分割のスキームについて残存債権者と準備を進めていた会社が、突然残存債権者の債権を承継させない形で会社分割を実施した事例がありました。

新設法人の株式譲渡や増資などの一連の手続きについて、債務を免れようという不当な目的があるとして、法人格否認の法理が適用されました。最終的に、新設法人に対する債務履行の請求が認められています。

M&Aでは、債務回避を目的とした会社分割を実施しないように注意してください。

参考:福岡地判平成22年1月14日(中本総合法律事務所)

 

M&Aのトラブルを回避するには専門家に相談!

今回は法人格否認の法理について解説しました。法人格否認の法理は、特定の事案において法人の存在を認めながら法人格というヴェールを取り去り、見えてきた実態に即して法律的な対処をする考え方です。M&Aでも法人格の捉え方を誤ると、トラブルが生じる恐れがあります。法人格否認の法理を理解したうえでM&Aを実施しましょう。

M&Aの実施に少しでも不安があれば専門家に相談することも重要です。BATONZ(バトンズ)では、専門スタッフがM&Aの成約まで安全なサポート体制で支援しています。M&Aを検討している方は、ぜひBATONZまでご相談ください。

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