「無税償却」は、回収不能になった金銭債権を損金として税金をかけずに処理できるため、税金面で有利な償却方法です。しかしながらその要件や種類、有税償却との違いなど分かりにくい部分もあります。
この記事では、無税償却の概要や有税焼却との違い、種類、適用できる要件などを解説します。
無税償却とは
無税償却とは、貸出先の経営不振などにより回収できなくなった金銭債権(いわゆる不良債権)を、税金がかからない形で処理する手続きのことです。ここでの金銭債権とは、受取手形や売掛金、貸付金などのことです。
無税償却では、不良債権を会計上は損失として計上するとともに、税務上は損金として扱うことで、課税対象となる収益(益金)から不良債権を差し引くことができます。
損金とは原価や費用、損失のことで、益金から損金を引いたものが法人税の課税対象となります。
不良債権は原則としては損金にできないので、無税償却は税金面で大変有利です。
そのため、無税償却は脱税行為に利用される恐れがあり、それを防ぐために適用できる要件が詳細に定められています。
無税償却と有税償却の違い
不良債権の処理方法には、大きく分けて無税償却と有税償却があります。
有税償却とは、会計上は不良債権を損失として計上するものの税務上は損金とみなさない処理方法です。損金ではないため、その不良債権は課税対象になります。
会計上損失とするのは無税償却・有税償却両者に共通で、そのうえで税務上損金とするのが無税償却、損金にしないのが有税償却です。
つまり税金がかかるか、かからないかの違いですが、それ以外にも「目的の違い」という面もあります。
無税償却の目的は、貸倒れの事実をきちんと認めて処理を終わらせることで、次の新たな融資を受けやすくすることなどです。
一方で有税償却は、不良債権を引当金に計上することで経営実態を正確に表し、健全な貸借対照表を作成する目的があります。
無税償却の種類
無税償却は、さらに「直接償却」と「間接償却」の2つに分類できます。両者は処理方法や適用できる要件に違いがあるので、正しく理解しておくことが大切です。
直接償却
直接償却とは、不良債権の全額を貸借対照表から消去したうえで、税務上は損金として扱う処理方法です。不良債権が貸借対照表から消えるので、少なくとも帳簿上は財務状況が改善したことになります。
なお、資産や負債を貸借対照表から消去することを「オフバランス化」といい、オフバランス化自体は負債だけでなく資産に対して行われることもあります。
直接償却は債務を全額踏み倒してなかったことにしてしまう手続きなので、これが認められる要件は大変厳しくなります。直接償却が認められるのは、私的整理・法的整理などのいわゆる倒産手続きが認可された場合、もしくは債権売却を行った場合などです。
間接償却
間接償却とは、不良債権を「貸倒引当金」という勘定科目で貸借対照表に残したうえで、税務上は損金として処理する手続きです。直接償却は不良債権が貸借対照表に残らないのに対して、間接償却は貸借対照表に残るのが主な違いとなります。
貸倒引当金は、貸し倒れが起こると思われるときにそれに備えて計上するものなので、民事再生などの手続きが認可された時点だけでなく、申し立てが行われた時点で実行できるのが特徴です。
貸し倒れが起こると思われる時点で貸倒引当金を計上し、その後実際に貸倒れが起こったら、そこで貸倒引当金を取り崩して消滅させます。
直接償却は不良債権を全額損金にできるのに対して、間接償却は貸し倒れが起こると見込まれる額のみを損金にできる、つまり限度額があるのも重要な違いです。
限度額がいくらになるかについては要件ごとにルールが決められており、これに関しては次章で解説します。
無税償却の要件
無税償却は有税償却より税金面で有利なので、定められた要件を満たしたときしか実行できません。直接償却と間接償却では要件が違うので、それぞれの要件を理解しておくことが大切です。
直接償却の要件
直接償却を実行できる要件は、大きく分けて「法律上の貸倒れ」「事実上の貸倒れ」「形式上の貸倒れ」の3つになります。
法律上の貸倒れ
法律上の貸倒れとは、会社更生・民事再生・特別清算が認可されることです。再生計画等により切り捨てられると決定した債権の全額について、原則として直接償却が認められます。
他には、債権者・行政や金融機関などの第三者・その他関係者のいずれかによる協議決定、および書面による債務免除の決定も直接償却の対象となります。
協議決定は合理的基準によることが必要で、書面による免除は、債務超過が相当期間(一般には3年以上程度)継続し、弁済不能と認められる場合に限るのが注意点です。
事実上の貸倒れ
事実上の貸倒れとは、法令にもとづいた手続きにより債権放棄したわけではないものの、実態として回収不可能と認められる状態のことです。
このケースは全額回収不能と認められる場合のみ適用されるのが注意点で、一部でも回収可能な場合は対象外となります。
また、担保や保証人がある場合は、それらの処分や取り立てを行った後でないと適用されません。
形式上の貸倒れ
形式上の貸倒れとは、以下の2つのケースの総称を意味します。
2.債務者に支払いを督促しても弁済が行われない
「2」のケースに関しては、同一の地域の債務者への不良債権の総額が、その取り立て費用を下回る場合のみが対象となります。また、形式上の貸倒れは売掛金のみが対象で、貸付金などは対象外となるのが注意点です。
間接償却の要件
間接償却の要件は大きく分けて「民事再生計画の認可決定など」「破産手続き開始の申立てなど」「実質的基準を満たす」の3つで、損金算入できる限度額が要件によって異なるので注意しましょう。また、前提として、貸倒引当金の無税償却が認められるのは中小法人等のみとなります。
民事再生計画の認可決定など
民事再生・会社更生・特別清算の認可決定、または私的整理による協議決定で合理的基準を満たすと認められるものは、間接償却の対象となります。
私的整理は当事者間のみによるものだけでなく、行政機関や金融機関、その他第三者のあっせんによるものも含まれます。
この要件では、5年以内(正確には翌事業年度の開始日から5年以内)で弁済できる予定額を除いた、残りの額のみが損金算入の対象となります。
破産手続き開始の申立てなど
破産・特別清算・民事再生・会社更生の申し立てが行われた時点で、まだ認可決定されていなくても間接償却の対象とすることができます。
また、電子交換所(かつての手形交換所のこと)・電子債権記録機関(「でんさい」などのこと)による取引停止処分が行われたときも、同様に間接償却の対象となります。
このケースでの損金算入限度額は、対象となる債権金額の50%です。
実質的基準を満たす
法的整理や私的整理が行われていなくても、債務超過が長期にわたり回収見込みがない場合、または災害や経済事情の急変などで回収不能になった場合は、取立不能と見込まれる額が損金算入できます。
無税償却と債権放棄について
2013年に新しい私的整理指針が発効される前は、金融機関は無税償却ができなかったので、中小企業に対して債権放棄がしづらく、倒産した中小企業の再生が阻害される問題がありました。
しかし、2014年以降は無税償却が認められたため、中小企業が再出発しやすい状況が整備されつつあるといえます。
また、経営者保証の負担を軽くするという点でも、無税償却は重要な役割を果たしています。
2013年以前は、回収できる資産がある状態で金融機関が債権放棄すると、寄付金扱いとなり損金算入ができず、さらに中小企業側も債務免除益として課税対象となっていました。
そのため、経営者保証をしている経営者は弁済のために住居や生活費なども失うことになり、これが経営者の大きな負担となっていました。
しかし、近年は無税償却が認められたため、経営者の生活費などを残した状態で債権放棄できるようになり、経営者保証の負担が軽くなりました。
サービサーを活用した無税償却
サービサー(債権回収会社)とは、債権の管理や回収を行う民間企業のことです。金融機関が不良債権をサービサーに譲渡することで、サービサーが代わりに回収業務を行ってくれます。
弁護士法では債権管理回収業は弁護士(および弁護士法人)しか営むことができませんが、不良債権の処理を促進するために、法務大臣の認可を受ければ民間企業でも営むことができるようになりました。
サービサーに債権を譲渡した際の譲渡価額と、その債権の簿価との差額は損金にできる、つまり無税償却できるのが重要な点です。
たとえば、簿価1,000万円の債権を400万円でサービサーに譲渡した場合、400万円分の回収にかかるコストをサービサーが請け負い、差額の600万円は売却損として損金計上できます。
グループ会社への債権は「寄附金課税」に注意
グループ会社同士での債権放棄は、条件によっては寄付金として処理され、課税対象となることがあるので注意が必要です。
どのケースが寄付金になるかの要件は多少込み入っているので詳細は割愛しますが、大まかに言うと、債務者(子会社)の倒産や多額の損失を回避するために、やむを得ず債権放棄する場合は寄付金から除外されます。
寄付金として取り扱われた場合、寄付した側(親会社)は寄付した額の一部しか損金にできず、寄付を受け取った側(子会社)は法人税がかかるので、無税償却より不利になります。
ただし、親会社が子会社の全株式を保有している(完全支配関係)場合は、無税償却しなくてもグループ全体としては課税が生じない制度になっています(グループ法人税制)。
まとめ
無税償却は不良債権を課税されないように処分する方法で、有税償却より税務および財務面で大変有利です。しかし、適用できる要件は厳しく、基本的には債務者の倒産やそれに準ずる状況の時のみとなります。
債務者の倒産などにより不良債権が生じた場合は、それが無税償却の対象となるかを確認することが大切です。
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