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M&Aの役員退職金、出すのと出さないのではどちらがお得?

2018年12月18日

▼事業譲渡やM&Aを行う際に役員退職金を出すかは悩みどころの一つです。というのは、役員退職金を支給するかどうかによって、譲渡の取引条件に違いが出てくるからです。今回は、M&Aで勇退する役員に退職金を出した場合と出さない場合とを比較し、売買価格や税金にどのような違いが出るのかを具体的に解説します。

 

 

株式を譲渡するとかかる税金

 

まず、株式を譲渡するとどのような税金がかかるのかについて確認しましょう。株式を譲渡したときの税金の計算は、売った価額から取得した価額を差し引いて税率を掛けるというシンプルなものです。この内、売った価額はM&A時の株式譲渡契約における売買価額と考えればよいでしょう。

一方、取得価額は条件によって算出方法が異なります。例えば、創業者が自分で資本金を投入して設立した株式会社であれば、当初の資本金の額となります。また、他者から譲り受けた会社であれば、譲り受けた当時の株式譲渡契約における売買価額が取得した価額となります。どうしても取得した価額がわからない場合には、売った価額の5%を取得した価額とすることもできます。

このように計算した譲渡所得に対して、20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)の税率を掛ければ、税金の額が算出されることになります。なお、この税率は譲渡所得の金額にかかわらず一律のものとなっています。株式にかかる譲渡所得は他の所得とは分離して課税される(これを分離課税といい、給与所得や事業所得など他の所得とひとまとめにして課税されることを総合課税といいます)ため、例えば、不動産所得や事業所得などで損失が出ていても、通算して税金を安くするようなことはできません。

役員退職金と株式譲渡価格の関係は?

 

上記のとおり、株式の譲渡益には約20%の税金がかかります。例えば、M&Aにおける株式の譲渡価額が1,000万円、過去に株式を取得したときの価額が300万円とすれば、譲渡益700万円に対して20%、すなわち140万円の税金がかかることになります。

さて、もしここで会社から創業者に対して退職金400万円を支給することを前提にM&Aの取引価額を決めたらどうなるでしょう。会社から400万円の現金が流出するので、単純に考えると株式の譲渡価額も400万円だけ安くするのが合理的です。

売主である創業者からすると、株式の譲渡価額として1,000万円を受け取るのか、株式の譲渡価額として600万円を受け取った上で会社から退職金400万円を受け取るのかという違いがあります。ただ、受け取る金額はいずれも1,000万円となります。

役員退職金を受け取ることのメリット

 

実は、創業者の税務面を考えると、退職金を受け取る方が有利になります。これは退職金にかかる税金が優遇されているからです。退職所得の金額は、原則として、退職金の額から退職所得控除額を差し引き、さらに2分の1を掛けて計算されます。

退職所得控除額は勤続年数20年までが年40万円、20年を超える部分が年70万円となります。仮に勤続年数25年の場合、1,150万円(20年×40万円+5年×70万円)の退職所得控除額を差し引けることになります。

先ほどの株式譲渡価額の例では、400万円の退職金を受け取る代わりに株式譲渡価額を400万円低くすれば、株式の譲渡所得も400万円減少し、税金が80万円(=400万円×20%)安くなります。一方で、退職金の方は退職所得控除額を差し引けば無税で受け取ることが可能です。

 

役員退職金は売主にも買主にもメリットに

 

上述の例は買い手からすると、株式の取得価額として1,000万円を支払うのか、株式の取得価額として600万円を支払った上で会社から退職金400万円を支給するのかという違いになります。

まず、対象会社に現預金があれば、この退職金は対象会社の現預金から支給されるため、買主にとってみれば最初の手出しが少なくなります。このとき、引き継ぎ後の運転資金を考慮することを忘れないようにしましょう。

さらに買主にとって、退職金を支給すれば会社では損金として処理できるため、法人税などが安くなるというメリットがあります。ただし、将来、この買主が株式を第三者に譲渡するときには取得した価額が低かった分、株式の譲渡所得が増えるので、その点には注意が必要といえます。

役員退職金の支給は、売主にとっても買主にとってもメリットになりやすい方法ですので、取引条件を検討する際には役員退職金の活用するとよいでしょう。

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