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新設分割とは?メリット・使われる場面・手続き方法・事例をとことん解説!

2023年03月10日

 

新設分割」という言葉をご存知でしょうか。新設分割は手法の1つで、会社分割という手法に包括されます。会社分割の他の手法として吸収分割があります。

この記事では新設分割の基本的な概要を始めメリットとデメリット、必要な手続きなどを解説します。

 

 

新設分割とは、新設会社に事業を承継するM&A手法

まず、新設分割とは新設する会社に事業を承継する手法であり、新設分割にて承継する対象は「事業に関して有する権利義務の全部または一部」とされています。

具体的には、会社が持つ資産、負債を始めとして、雇用契約、顧客基盤、事業ノウハウなどが含まれます。

 

新設分割と吸収分割の違い

新設分割吸収分割との違いは、事業の譲渡先として新しく会社を設立するかどうかという点にあります。

吸収分割では新しく会社を設立せず、既存の会社に事業を承継させます。

また、吸収分割と比べて新設分割は、会社を設立するため手続きが煩雑になる傾向があります。

 

会社分割と事業譲渡の違い

事業譲渡もM&Aの手法の1つであり、事業を譲渡する点で会社分割と似ていますが、実施の際に従う法律や承継する事業の対価の形に違いがあります。

会社分割が会社法上の組織再編行為とされるのに対し、事業譲渡は取引法上の契約とされています。会社分割では事業に関する権利義務がまとめて承継されますが、事業譲渡ではそれらの権利義務を1つずつ個別に承継します。負債などを承継しなくても良いというメリットがありますが、手続きに時間がかかる点がデメリットです。

また、会社分割では事業の対価として株式と現金のどちらかを用いますが、事業譲渡では現金を対価として取引されることが一般的です。

 

 

新設分割のメリットは主に3つ

新設分割にはいくつかのメリットがあります。

ここでは、新設分割を実施することのメリットの中で代表的なものを3つ紹介します。

 

(1)資産・契約をまるごと引き継げる

新設分割では債権者から個別の承諾を得ることなく、承継元の会社から資産や契約を全て引き継ぐことが可能です。全ての関係者と合意形成を図ることは容易ではありません。その点で新設分割は迅速に事業を承継する手法であるといえます。

 

(2)資本金を集めやすい

新設分割では、承継元の会社から資産を包括的に承継することが可能です。そのため、資本準備金や資本剰余金も含めて引き継ぐことができます。

新設分割では会社を新規に立ち上げる必要がありますが、承継元の会社から資本金を引き継げるため、新たに資本金を集める必要がありません。少ないコストで新規に会社を立ち上げたい場合にも、有効な手法といえるでしょう。

 

(3)税負担が軽くなる可能性がある

新設分割には税負担の軽減というメリットもあります。

新設分割は会社法上の組織再編行為に分類され、組織再編税制の適格要件を満たせば特例的に減税措置が受けられます。新設分割の対価が新設会社の株式のみであることなど適格条件を満たすことで、新設分割における譲渡益、みなし配当が課税対象から外れます。適格条件の詳細については新設分割の税務の部分で解説します。

 

 

新設分割のデメリットも

新設分割にはいくつかのメリットがある一方で、デメリットも存在します。ここでは、同じ会社分割の手法である吸収分割とも比較しながら、新設分割の代表的な3つのデメリットについて解説します。

 

(1)譲渡された株式の現金化が困難

新設分割における対価は主に新設会社の株式となる場合が多いですが、新たに設立されたばかりの会社の株式は株式市場で売買することはできず、個別に買い手を探す必要があります。早期に現金化することのは難しいでしょう。

また、吸収分割の場合と異なり、承継先の会社はビジネスの実績がないことから、売却できるほどの価格にならない可能性もあります。このことから、吸収分割と比べて対価となる譲渡株式の現金化は難しいといえるでしょう。

 

(2)吸収分割よりも時間がかかる

新設分割では権利義務の承継をスムーズに進めることができますが、新たに会社を設立する以上、そのための手続きが必要となります。

一方で吸収分割は既存会社が継承先となるため新会社設立の手続きは発生しません。また、税務の観点でも新設会社は既存の会社に比べて減税措置を受けるための適格要件が細かく定められており、その確認に時間を要することが考えられます。

 

(3)偶発債務を引き継ぐ可能性がある

先述の通り、新設分割では承継元の会社から包括的に事業に関する権利義務を引き継ぐことができますが、当然ながら債務なども含まれます。これらの債務には将来的に発生する可能性のある偶発債務や帳簿に記載されていない簿外債務も含まれており、新設分割における潜在的なリスクといえるでしょう。新設分割を実施する際には、承継元の会社の債務には特に注意を払う必要があります。

 

 

新設分割が多用されるシチュエーション

メリットもデメリットもある新設分割ですが、実際にはどのようなケースで活用されているのでしょうか。主に新設分割が活用されるケースとしては以下の4つが考えられます。

 

【新設分割が活用されるケース】

・企業グループ内部で組織の合理化を目的として再編を行う場合

・共同事業の立ち上げなどを目的とした合弁会社を設立する場合

・第二会社方式によって経営不振に陥った企業の再生を図る場合

・事業の選択と集中などを目的として一部の事業を他社へと譲渡する場合

 

これらが新設分割を行うことが多い場合です。状況に合わせてスキームを選択し、事業を譲渡しましょう。

 

 

 

新設分割の方法は譲渡会社の数によって異なる

 

新設分割の中でもいくつか手法があり、1社のみで行うか複数社共同で行うかなどのケースで分かれます。さらには、1社のみで行う場合にも物的か人的かなどの軸で細かく分類されます。ここでは、新設分割の手法についてケース別に解説します。

 

1社の場合(物的・人的)

事業を譲渡する会社が1社の場合は、物的(分社型)人的(分割型)という複数の進め方が存在します。これらの違いは、新規分割の結果生じる対価の受け手が承継元の会社かその株主になるかという点です。

 

物的(分社型)新設分割

物的新設分割は、事業を譲渡した対価である新会社の株式を承継元の会社が受け取る手法です。この場合、承継元の会社が新会社の株式を保有するため両社に親子関係ができ、新会社は承継元の会社により完全子会社化されます。

新設分割の完了後も、承継元の会社が新会社を経営面でコントロールしたい場合は、物的新設分割が選択されることが多いでしょう。

 

人的(分割型)新設分割

人的新設分割は、事業を譲渡した対価である新会社の株式を承継元の会社の株主が受け取る手法です。人的新設分割では、新会社の株式の受け手が譲渡会社ではなく、その株主となるため新会社と承継元の会社の間に支配関係はできません。

たとえば、同じ企業グループ内部で兄弟会社を設立したい場合など、新設分割で新たに設立する会社を対等な関係にしたい場合は人的新設分割が選択されることが多いでしょう。

 

2社以上の場合(共同新設分割)

承継元の会社が複数に及ぶ新設分割は、共同新設分割と呼ばれます。たとえば、新たな事業を複数社で協力して進めるためにジョイントベンチャーを設立する際には共同新設分割の手法が活用されます。共同新設分割は複数企業間の資本提携の一環としても活用される手法です。

 

 

新設分割が完了するまで、最短で2週間

新設分割は権利義務の承継に個別交渉が不要なため、比較的迅速に進められる手法ですが、具体的には完了までどれぐらいの期間を要するのでしょうか。

まず、新設分割には株主総会での議決や債権者異議手続きが必要です。一般的には新設分割の完了まで2ヵ月程度かかるとされていますが、例外的にこれらの手続きを省略することができれば、2週間程度にまで短縮できる可能性があります。ここからは、新設分割を進めるために必要な5つの手続きについて解説します。

 

新設分割契約の締結

新設分割を進めるためには、まず新設分割契約の締結が必要です。会社法では新設分割契約書に必須で記載する事項について定められています。

ここでは主な記載事項について紹介します。

【新設分割契約書への主な必須記載事項】

・継承される資産、債務、雇用契約を始めとした権利義務に関する事項

・譲渡した会社が受け取る対価に関する事項

・譲渡した会社と新設会社の組織体制に関する事項

・新設会社の新株予約権に関する事項

・手続きの進行スケジュール

 

これらの記載事項は、定められた期日までに事前開示書類という形で開示する必要があります。

 

株主総会での承認

新設分割において承継元の会社では株主総会における特別決議を経る必要があります。新設分割は会社の組織体系に大きな変化をもたらす手続きであり、株主の利害に関わる事項とされているためです。

ただし、譲渡対象となる資産が総資産の5分の1以下である場合は簡易分割に該当し、株主総会の開催は不要となります。

 

株主への通知等及び株式買取請求

承継元の会社は、新設分割に関する株主総会での承認を得てから、2週間以内に株主に新設分割を実施することを通知しなければなりません。中には新設分割を行うことに反対する株主が出ることも考えられますが、このようなケースでは反対する株主に対する株式買取請求権が認められています。

そのため、承継元の会社は株主に対し、新設分割を行う旨や、新規に設立する会社や共同承継元の会社の商号と住所について、通知および公告が必要です。

 

債権者保護手続き

新設分割で新たに設立される会社の債権者に異議申し立ての機会を与えることを債権者保護手続きと呼びます。承継元の会社から継承する債務が存在しない場合、債権者保護手続きは不要とされていますが、実際にそのようなケースはほとんどありません。そのため基本的に債権者保護手続きが必要と考えておいた方がよいでしょう。

また、分割型新設分割においては常に債権者保護手続きが必要なことにも注意が必要です。

 

新設分割に関する書面等の備置

承継元の会社、新設された会社の双方で、新設分割の効力が発生してから6ヵ月間は、新設分割に関する書面をそれぞれの本店で保管する必要があります。書面は紙、もしくは電磁的記録として保管します。

また、双方の会社の株主、債権者などの利害関係者は、営業時間内であればいつでも書面の開示を請求することができるので注意が必要です。

 

 

そのほか登記や労働契約の手続きについて

これまで紹介したもの以外にも、新設分割では登記や労働契約における手続きが発生します。会社分割では、資産に留まらず労働契約も継承するためです。

ここでは、新設分割に伴って発生する登記と労働契約の手続きについて解説します。

 

登記手続きの流れと必要書類

新設分割をするには、承継元の会社と、新設される会社のそれぞれで登記手続きが必要です。ここでは登記関連の手続きの流れや必要書類について解説します。

 

登記手続きの流れ

新設分割において、承継元の会社では変更登記、新設される会社では設立登記を同時並行で実施する必要があります。

登記の期限は、新設分割の手続き完了後または新設会社の設立日のいずれか遅い方から、2週間以内と定められています。また、承継元の会社と新会社で法務局の管轄が同じ場合は、同時に登記手続きを進めることができます。異なる場合には新設会社の本店で申請を行わなければならないため、注意が必要です。

 

登記に必要な書類

新設分割における登記手続きに必要な書類は主に以下の通りです。

 

【新設分割の登記手続きで必要となる書類】

・新設分割契約書

・新会社の定款

・承継元の会社の登記事項証明書

・代表取締役の印鑑証明書

・新設分割の承認があったことを証明する書類(株主総会の議事録等)

 

状況によっては他にも必要書類が増える可能性があるので、M&Aの専門家に相談するようにしましょう。

 

労働契約関連の手続きの流れと通知内容

新設分割では労働契約も新会社に継承するため、労働契約に関する手続きも必要となります。ここでは、労働契約関連の手続きの流れと通知内容について解説します。

 

労働契約関連の流れ

新設分割を始めとした会社分割では、個々の雇用契約を1から結び直すことまでは求められていませんが、労働者の権利を保護するための手続きが必要です。

まず、労働組合を始めとした労働者側と協議を行い、新設会社での労働条件や承継される債務について労使間の合意形成を図ります。次に合意した内容について所定の書面で労働者側に通知し、労働者側から異議申出がある場合には対応するという流れになります。

 

労働者・労働組合への通知内容

新設分割における労働契約関連の手続きでは、労使で合意した内容について労働組合及び労働者への通知が必要です。通知すべき内容は主に以下の通りです。

 

【新設分割において労働者に通知する内容】

・労働契約が承継されるか否か

・新会社に引き継がれる債務に関する事項

・新設分割に対する異議申出の機会があることとその期限

 

 

【新設分割において労働組合に通知する内容】

・労働協約が承継されるか否か

・承継される対象の労働者

 

これらの通知を必ず行いましょう。

 

 

新設分割の税務業務は2種類に分かれる

新設分割においては減税措置を受けるために、税務上の手続きも必要となります。ここでは、新設分割で必要となる2つの税務手続きについて解説します。

 

課税に関する原則的に必須な業務

新設分割による事業の譲渡では、承継元の会社に利益が発生した場合は、利益分の株式や現金が課税対象です。

また、株主に譲渡の対価が支払われる人的新設分割においても、株主への対価となる現物配当や全部取得条項付種類株式に対しても配当所得として課税されます。

税法において新設分割における対価は、株主の出資に由来する資本金と会社の利益に由来する利敵積立金に分けられ、後者はみなし配当という形で課税対象となり、申告する必要があります。

 

適格条件を満たす場合の特例業務

先述の通り、新設分割で発生した対価は課税対象となりますが、いくつかの適格条件を満たす場合は組織再編税制という減税措置の対象となります。対象か非対象かの基準は、承継元の会社と新設会社の間に支配関係があるか否か、また支配率が何パーセントかなどで細かく決められており、支配率が低いほど満たすべき要件が多くなります。1つでも適格要件を満たさない場合は減税措置の対象から外れてしまい、意図せずに申告漏れという事態に陥る可能性があるため、適格要件を満たしているか判断に迷う場合は専門家に相談するのがおすすめです。

 

 

新設分割の事例:ワークスアプリケーションズ(米国)

新設分割によるM&Aにはどのような事例があるのでしょうか。ここでは、新設分割が経営難を救った事例を紹介します。

 

システム開発のワークスアプリケーションズは2019年に経営難に陥り、収益の柱であった人事システム事業を米国の投資ファンドであるベインキャピタルに新設分割の形で譲渡しました。このM&Aによって、従来は約4.6億ドルと見積もられていた人事システム開発事業は約9.1億ドルで譲渡され、ワークスアプリケーションズは経営を立て直すための資金確保に成功しました。

 

 

新設分割はM&A仲介企業と相談しながら進めていくのがおすすめ

企業の新設分割には、新設分割そのものの手続きに加え、パートナー企業や従業員との交渉、契約手続きも発生するため、手続きが非常に煩雑かつ長期に及ぶことが予想されます。慣れない手続きを進めていくためには専門家の支援が必要になるでしょう。

 

そこでおすすめしたいのが、M&A仲介サービスであるバトンズです。

バトンズではM&A案件の紹介や仲介といったサービスに加え、専門家の支援を受けることができるため、企業の新設分割において強い味方となるでしょう。

 

 

まとめ

新設分割は会社分割の1つの手法であり、譲渡した事業の受け手を新たに設立した会社にすることが大きな特徴です。事業譲渡に比べて手続きに時間がかからないというメリットがありますが、承継元の会社の債務も引き継ぐため、その点には注意が必要となります。この記事を通して新設分割についての理解を深め、今後のビジネスに役立てていただけると幸いです。

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