「廃業するために、亡き父の後を継いだんです」と話すのは、丸升運輸有限会社の代表を務める鈴木綾子様。高齢だった当時の社長であるお父様を助けるため、今年で創業47年を迎える老舗の運送会社で手伝いを始めたのは、今から5年ほど前のことでした。
そして昨年11月、お父様が他界されてからは会社を閉じるための顔として代表を務めることにしたと話す鈴木様に、どのような経緯で廃業から会社譲渡へと意思決定が変わったのか、どのようなプロセスを経て譲渡先を決めたのか、詳しくお伺いしてまいりました。
譲渡企業 | |
---|---|
社名 | 丸升運輸有限会社 |
業種 | 運送業 |
拠点 | 神奈川県 |
譲渡理由 | 後継者不在 |
譲受企業 | |
---|---|
社名 | 株式会社ハンディーズ |
業種 | 運送業 |
拠点 | 神奈川県 |
譲受理由 | 取引先拡大、新規エリアへの進出 |
廃業することをゴールに、他界した父の興した事業を引き継いだ姉妹
丸升運輸有限会社の創業は西暦1975年で、鈴木様のお父様が創業1代目。主軸の事業は一般貨物を取り扱う運送業で、特定の顧客から鋼材や建設資材などを受け取り、関東圏内に配送を行うというものでした。
経営自体は順調で、鈴木様のお兄様が2代目としてご活躍されていたものの、今から5年ほど前に急逝されたことを受け、お父様の年齢を考えると続投は難しいだろうということで、事業を畳もうという話がその時初めて持ち上がったのだそうです。
しかしながら、当時の従業員の皆様から鈴木様に「自分達が仕事をとってくるので、事務的なところだけお願いしたい」との依頼があったそうで、彼らの生活を考えると断ることもできず、丸升運輸有限会社に参加することになったのでした。
そして昨年の11月、お父様が他界されたタイミングで、いよいよ本格的に廃業の決心を固められ、そのための手続き等で社長としての「顔」が必要だろうという理由で代表を務めることにされたのが、丸升運輸有限会社に女性社長が生まれた背景でした。
「自分は、運送業のことも営業のことも全くわからない人間なので、本当にただの“顔”としての存在でした。そんな中、ベテラン社員の持病が悪化して、今年の3月に退職となり、その後任が見つけられないままに3か月が経ってしまいました。
労働集約型の事業ですから、人が減ればその分売上に直接影響します。それでも、廃業することを前提として事業を運営していたので、借金はせずに個人の資産を入れて繋いできました。でも、それももう限界が近づいていたんです。
そこで、銀行に事情をお話ししたところ、廃業ではなくM&Aという形で事業を売りにだしてはどうかという話になって。そうして、勧められるままに会社の譲渡先を探すことになったんです。」
こうして鈴木様の廃業検討は、事業の譲渡先検討へとフェーズを変えていったのでした。
ゼロ解答だった初回案件で諦めモード、2社目の面談でまさかの満額解答
M&Aに取り組み始めた鈴木様でしたが、当初はM&Aに対して懐疑的だったそうです。
「うちは特殊な技術を持っているわけでも、突出した業績を残しているわけでもない、何の取り柄もない小さな運送会社です。そんな会社のことを欲しいと思ってくれるところはあるのかという疑問は常にありました。
そもそも会社譲渡ということ自体、これまで考えたこともありませんでした。考えていたことといえば、従業員にいつ廃業の話を切り出そうか、どうやって車庫を更地に戻して大家さんに返そうか、費用はどのくらいかかるのだろうか、といったことばかりでした。
ですから、初めて銀行の方に勧められた時にはお断りしたんですが、やるだけやってみてはどうかと言われ、投入していた自己資金にも底が見えてきたこともあって、期限付きで始めてみることにしたんです。」
そうして問い合わせのあった買い手候補のひとりと面談をしてみたものの、そのお相手とはなかなか折り合いがつかなかったそうで「私が会社を譲渡するにあたって提示した条件は、当時まだ残っていた2名の従業員の雇用を継続してもらうことと、創業時からお付き合いがある得意先との取引を切らずに繋いでもらうことでした。これまで、ずっと丸升運輸を支えてくれた人やお客様を守りたかったんです。
ですが、初めて面談した買い手候補の方は、こちらが提示した金額よりもだいぶ低い金額で交渉してきて、雇用や取引の継続についても承諾できないという回答でした。それを聞いて、M&Aってこんなものか、と残念な気持ちになりました。だったら、お金はかかるけど手続きさえすれば確実に前に進む廃業の方が楽だな、と思っていた時に、私を手伝ってくれていた妹が “もう1件だけ話を聞いてみよう” と言い、アドバイザーの方にも次の面談を勧められたので、あまり期待せずに2件目の面談を受けたんです。
すると、次の会社とはひとつも交渉がないまま、調印までいきまして。どうせダメになるだろう、金額面でも条件面でも折り合いがつかないだろうと、後ろ向きの気持ちしかなかったので、スムーズに話しが進んでいった事にとても驚きました。
満額解答をしてもらえたことが最後まで信じられなくて、アドバイザーの方に、値引き交渉がなかったけど大丈夫なのでしょうかと聞いてしまったくらいでした。こうして、絶対無理だと思っていた会社譲渡が願ってもいない形でまとまって、本当によかったと思っています」とお話しいただきました。
丸升運輸とご縁で繋がったのは、創業80年を超える老舗の運送会社である八潮グループの傘下にある株式会社ハンディーズ。代表を務める宮地 宙様はこれまで積極的にM&Aを実行しながら事業を拡大してきており、その経験に裏打ちされる自信に満ち溢れた若き実業家というのが、鈴木様の中での第一印象だったそうです。
そして、そんな宮地様であればきっと丸升運輸をよい方向へ導いてくださるだろうと思い、譲渡を決断することができたのだそうです。
「自分の会社の魅力は、自分達には見えないこともある」M&Aはそれに気付ける良い機会
こうして、最初は期待せずに受けた面談だったところから願ってもいない譲渡先に巡り会えたという鈴木様に、一連のM&Aを通じて印象的だったことをお伺いしました。
「印象的というか、一番大変だったのは、従業員に事前に話せなかったということです。自分としては、彼らのためにも譲渡した方がいいと考えて下した決断でもあったのですが、実際に会社譲渡の事実を伝えると強い反発を受けました。その後、時間をかけて説得して一定の理解を得たのでよかったのですが。
あとは、うちみたいな小さな普通の会社でも価値があると思ってくれて、求めてくれるところがある、というのが非常に印象的でした。今回のM&Aを通じて、自分の会社の魅力は自分達には見えないこともあるんだと思いました。
私たちの会社には、真面目な従業員と創業からの付き合いがある顧客しかありませんでしたが、それが価値だと考え活かしていただける会社と出会えて、彼らに次期を託せられるというのは、本当に嬉しいことだと思っています。」
今後は、会社譲渡にあたっての残務処理に集中し、その後はお孫さんとの時間を楽しんだりと少しのんびりした時間を過ごしたいとおっしゃる鈴木様は、廃業から一転、従業員や取引先に対する責任を果たし、肩の荷が降りて心から安堵されているご様子でした。
鈴木様と丸升運輸有限会社の今後の更なるご活躍を、バトンズ一同、心より応援いたしております!
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