公開日 | 2020/09/16 |
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記載者 | 株式会社ステラコンサルテ... |
M&A
中小M&Aガイドラインの改定 ~売り手が知っておくべき2024年(第3版)の変更点
バトンズ認定アドバイザー
認定バトンズDD調査人
会社名の”ステラ”はイタリア語で星を意味しています。空に輝く星のようにそれぞれの企業が輝く支援、すなわちそれぞれの企業に適したご支援をさせていただきます。
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はじめに
2024年8月、経済産業省から中小企業向けのM&Aガイドライン第3版が発表されました。この改定は、中小企業がM&Aに取り組む際の透明性を高め、健全なM&A市場を維持することを目的としたものです。本コラムでは、改定の背景と主要なポイントを解説し、売り手が特に留意すべき事項を取り上げます。
1. ガイドライン改定の背景
中小企業の事業承継や成長戦略としてのM&Aは、後継者不足や事業拡大の手段として重要性を増しています。しかし、M&A市場において不適切な買い手の存在や、経営者保証に関するトラブル、さらにはM&A専門業者の過剰な営業や広告が問題となっています。この背景を受け、2024年8月のガイドライン改定では、これらの課題に対応し、中小企業がM&Aにおいて不利益を被らないよう、健全な環境を整備するための対策が盛り込まれました。
2. 改定の主なポイント
(1)仲介者・FAの手数料と提供業務に関する事項の明確化
M&Aにおける手数料体系や業務内容の不透明さが、中小企業にとって大きなリスクとなっています。今回の改定では、中小企業が手数料や業務内容を事前に確認できるよう、仲介者やFAには次のような様々な義務が課せられました。
①手数料の詳細説明:報酬率、報酬基準額(譲渡額、純資産額、移動総資産額など)、最低手数料、成功報酬などの算定基準や支払時期について、詳細な説明が必要です。
②業務内容の具体的説明:プロセスごとに提供される業務(マッチング、バリュエーション、交渉支援など)を具体的に示し、担当者の資格や経験年数、成約実績も含めた説明が求められます。
(2)広告・営業の禁止事項の明確化
過剰な広告や営業活動が中小企業に対して負担を与えるケースが多発しています。改定により、広告・営業の実施は次の点に従うことが義務付けられました。
①広告・営業の停止義務:売り手が広告や営業を希望しない場合、即座にそれを停止する義務があります。
②不正確な情報提供の禁止:M&Aの成立可能性や条件について、事実に反する情報を提供することは禁じられています。
(3)利益相反に係る禁止事項の具体化
M&Aのプロセスにおいて、利益相反となる行為を防止するために、次の行為の禁止が明確化されました。
①リピーターへの優遇や譲渡額の誘導:リピーターとなる顧客や買い手を不当に優遇する行為、譲渡額を意図的に低く誘導する行為は禁止されます。
(4)ネームクリア、テール条項に関する規律の強化
ネームクリアとは、譲り渡し側の名称を買い手に開示する手続きです。「実名開示」といわれることもあります。この手続きに関して、事前に譲り渡し側の同意を取得することが義務化されました。また、テール条項(仲介契約終了後も一定期間、手数料を仲介対象先に請求できる条項)についても、対象範囲が厳格に限定され、専任契約がない場合の扱いが明確化されました。
(5)最終契約後の当事者間のリスク事項について
M&Aの最終契約後、クロージング時に当事者間でトラブルが発生するリスクを低減するため、次の対応が求められています。
①リスク事項の具体的説明:「売り手の経営者保証の扱い」「デューデリジェンスの非実施」「表明保証の内容」など契約後のリスクについて、中小企業に対して具体的に説明し、リスクの顕在化に備えることが義務付けられました。
(6)売り手の経営者保証の扱い
M&Aにおいて、売り手側の経営者保証の解除や買い手への移行が課題となります。今回の改定では、次の対応が推奨されています。
①経営者保証の解除または移行の準備:士業等専門家や事業承継・引継ぎ支援センター、金融機関への事前相談を通じて、経営者保証の解除や買い手への移行を確実に実施するための準備が求められます。
(7)不適切な事業者の排除
不適切な買い手やM&Aプラットフォーマーを排除するため、買い手の調査と報告が義務化されました。さらに、業界内での情報共有の仕組みの構築が進められ、不適切な行為に対する慎重な対応が求められています。
3. 売り手が留意すべき事項
今回の改定により、中小企業の売り手として特に以下の点について留意しましょう。
(1)仲介者、FAの手数料や業務内容の確認
事前に提供される情報を基に、納得できない場合には手数料の交渉も視野に入れましょう。
(2)経営者保証の解除や移行の準備
M&Aのプロセスの早い段階で、士業等専門家や金融機関への相談を行い、経営者保証に関する対応を検討することが重要です。
(3)リスク事項に関する事前理解とトラブル防止
契約締結後のリスクについて仲介者や専門家と十分に相談し、将来のトラブルを未然に防ぎましょう。
4. まとめ
2024年8月に改定された中小M&Aガイドライン第3版では、手数料の透明性やリスク事項への対応、不適切な事業者の排除などが強化されており、M&Aプロセスの透明性と安全性が強化されています。売り手は、ガイドライン第3版を理解し、士業など適切な専門家のサポートを得ながら、安心してM&Aを進めましょう。
アナタの財務部長合同会社 代表社員 伊藤一彦(中小企業診断士)
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