公開日 | 2023/10/16 |
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記載者 | 株式会社ステラコンサルテ... |
M&A
M&Aによる従業員の承継に関するポイント②
バトンズ認定アドバイザー
認定バトンズDD調査人
会社名の”ステラ”はイタリア語で星を意味しています。空に輝く星のようにそれぞれの企業が輝く支援、すなわちそれぞれの企業に適したご支援をさせていただきます。
専門分野
M&Aアドバイザー(全般相談)
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対応可能エリア
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〇 合併や会社分割に伴うM&Aによる雇用関係の承継
前回に引き続き、M&Aによる従業員の承継について、解説します。今回は、合併や会社分割に伴うM&Aによる雇用関係の承継について取り上げます。(以下では雇用関係のことを「労働関係」、従業員を「労働者」といいます。)
〇 合併における労働関係の承継
合併とは、2以上の会社が合一して1つの会社になることをいいます。合併には、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させる吸収合併(会社法第2条第27号)と合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併により設立する会社に承継させる新設合併(会社法第2条第28号)があります。
合併によって消滅する会社の有するすべての権利義務関係は、合併後存続する会社や合併により設立する会社に当然に承継されます。(これを包括承継ないし一般承継といいます)したがって、労働関係も労働者の同意を要することなく、当然に承継されることとなります。
もっとも、もともとは別の会社であったため、労働条件が異なるのは一般的であることから、合併の前後に就業規則等を変更して労働条件の統一を図ることとなります。
〇 会社分割における労働関係の承継
会社分割とは、事業に関する権利義務の全部又は一部を他の会社に承継させることをいいます(会社法第2条第29号・第30号)。会社分割には、既に存在する会社に事業を承継させる吸収分割と新たに会社を設立して承継の相手方とする新設分割があります。
合併と異なり、会社分割は権利義務の『一部』のみを他の会社に承継させることができます。すなわちα事業とβ事業を営むP社がα事業のみをQ社に吸収分割させるということが可能です。具体的にどの範囲を承継させるのかは、吸収分割の際は分割契約(会社法第758条)、新設分割の際は分割計画(会社法第763条)によって定められます。その一方、分割契約や分割計画で権利義務が承継されるものは当然に承継されることとなるため、労働関係についても労働者の同意を要することなく承継されます(この点から、会社分割は『部分的』包括承継であるということがあります。)。
そうすると、会社分割の場合は、会社が自由に承継の範囲を定めることができ、かつ労働関係の承継に労働者の承諾が不要である以上、会社による恣意的に労働関係を承継する労働者の選別がなされるおそれがあります。(なお、事業譲渡により労働関係が譲渡会社から譲受会社に承継するためには、各労働者の承諾が必要とされています。(民法第625条))
このことを踏まえ、会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(以下「労働契約承継法」といいます)において、会社分割における労働関係の承継に関する規律が定められています。
〇 労働契約承継法の規律
労働契約承継法は、労働者が承継される事業に主として従事しているかどうかに応じて会社分割における労働関係承継の規律を設けています。労働者が承継される事業に主として従事しているかどうかは、当該労働者の業務内容などから客観的に判断されますので、会社が恣意的な選別をすることができなくなっています。
具体的には、承継される事業に主として従事している労働者については、当該労働者の同意なく労働関係が承継されることになります(労働関係承継法第3条)。他方で、承継される事業に主として従事しているのに分割契約等において承継の対象とされていない労働者は、所定の期間内に異議を申し出れば、労働関係が承継されます(労働関係承継法第4条)。
また、承継される事業に主として従事していないにもかかわらず分割契約等において承継の対象とされている労働者についても、所定の期間内に異議を申し出れば、労働関係は承継されません(労働関係承継法第5条)。
〇 承継される事業に主として従事している労働者は残留を拒否できない?
承継される事業に主として従事している労働者については、当該労働者の同意なく労働関係が承継されることになる以上、労働者は拒否できないのが原則です。
しかし、会社は会社分割に伴う労働関係の承継について、所定の期限までに承継される労働者と協議する義務を負います。(改正前商法附則5条第1項。この協議を5条協議といいます)5条協議は、個々の労働契約の承継について決定するに先立ち、当該労働者の希望等をも踏まえつつ分割会社に承継の判断をさせることによって、労働者の保護を図るためのものです。
このことからして、5条協議が全く行われなかったときや、協議が行われても会社からの説明や協議の内容が著しく不十分である場合は、労働関係の承継を争うことができるとされています(日本アイ・ビー・エム事件:最判平成22年7月12日民集64巻5号1333頁。なお、会社は、会社分割に当たり、その雇用する労働者の理解と協力を得るよう努めるものとされていますが(労働関係承継法第7条。7条措置といいます)、7条措置違反は、5条協議義務違反の有無を判断する一事情となるに過ぎないとされています。)
したがって、承継される事業に主として従事している労働者であっても十分な説明をしなければ労働関係の承継を否定されるリスクが生じることとなります。この意味でも、会社分割において恣意的な労働関係の承継を行うのは得策ではないということになります。
〇 労働者との十分な協議を尽くすことが紛争防止の第一歩
本稿では、合併や会社分割における労働関係の承継について解説しました。会社分割はもちろんのこと、合併においても労働者や労働組合との十分な協議を尽くすことが紛争防止の第一歩につながります。
本稿が参考になれば幸いです。
弁護士・中小企業診断士 武田 宗久
http://stella-consulting.jp/archives/564