M&A
115
2023/11/09

事業再生にも使える特定調停②

記載者情報
いわゆる日弁連スキーム
前回に引き続き、特定調停を利用した事業再生について解説します。今回は日本弁護士連合会が策定している「事業者の事業再生を支援する手法としての特定調停スキーム」(以下「日弁連スキーム」といいます。)を中心に解説します。 日弁連スキームとは、多額の金融機関(信用保証協会含む。)を債権者とする債務(金融債務)を負う企業のみならず、経営者保証ガイドラインに準じた内容で代表者個人の保証債務をも併せて特定調停手続により整理するものです。 したがって、企業にとっては買掛金などの取引先を債権者とする債務(取引債務)を巻き込んだ形の整理とはならず、事業の遂行に支障が生じにくいこと、経営者保証ガイドラインに準じて保証債務をも併せて整理できる点でメリットがあるといえます。 また、債権者たる金融機関にとっても、資産調査や事前協議が実施されたり、債権放棄する場合は貸倒損失として損金算入が可能であったりする等のメリットがあります。
日弁連スキームではどのような整理を行うのか
日弁連スキームにおいては、企業が負う整理の方法としては、リスケジュールのほか、DDSや債務免除等が考えられます。ここにいう債務免除としては、別会社に事業を引き継がせ、当該企業は事業の対価を原資として債権者に返済を行ったうえで清算を行うという第二会社方式によるものもあります。 また、日弁連スキームにおける代表者個人の保証債務の整理としては、自由財産(99万円)に相当する財産のほか、金融機関は、事業再生等の早期着手により法人からの回収見込額が増加した場合「一定期間の生活費」(雇用保険の考え方を参考に、年齢等に応じて約100万円~360万円)を代表者個人に残すこと、「華美でない自宅」について、代表者個人の収入に見合った分割弁済による所有やリースバック(自宅を第三者に適正価格により売却したうえで当該第三者から賃借すること)等により自宅に住み続けることを可能すること、保証債務履行時点の資産で返済し切れない保証債務の残額は、原則として免除することなどが考えられます。
日弁連スキームを利用できる要件
日弁連スキームを利用するための要件としては、おおむね以下のものが挙げられます。 以下のほか、法的手続によっては事業が毀損されてしまうなど法的整理ではなく、私的整理が相当であることや清算価値保障など債権者たる金融機関にとって経済的合理性があること、公租公課や労働債権などの優先債権については全額支払や取引債務について金融機関の協力があれば全額弁済可能であること、債権者たる金融機関が計画に合意する見込みがあることなどといった要件も求められています。(※ 清算価値保障とは、破産した場合よりも日弁連スキームを用いた方が多くの債権回収が可能であることをいいます。要するに「破産されるよりはまし」という理屈で債権者は債務免除に応じるのです。) ① 一定の事業価値があること ここにいう「一定の事業価値」とは、少なくとも約定金利以上は継続して支払うことができる見込みがあることを指します。仮に一定の事業価値がない場合は、廃業・清算の検討が視野に入りますが、その場合でも特定調停を利用することがあり得ます(日弁連で「事業者の廃業・清算を支援する手法としての特定調停スキーム」が策定されていますが、詳細は本稿では省略します。)。 ② 支払不能(破産法第2条第11項)、「破産手続開始の原因となる事実の生じるおそれがあるとき」(民事再生法第21条第1項)など、法的整理手続を行うことが可能な状態にあること 支払不能とは、債務者が支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものについて、『一般的』かつ『継続的』に弁済をすることができない客観的状態にあることをいい、破産手続開始の原因の一つとされています。 ③ ②の状態にある企業が自助努力のみでは、その状況の解決が困難であり、一定の金融支援が必要と合理的に予想されること 金融支援とは、具体的には、債務免除、リスケジュール、DDSなどが想定されています。 ④ 保証人について、弁済について誠実である、財産状況を適切に開示しているなど経営者保証ガイドラインが定める要件を充足していること 日弁連スキームを用いる場合は、企業は再生計画案、保証人たる代表者個人は弁済計画案を策定することになりますが、これらの計画は上記の要件の趣旨を踏まえたものである必要があります。
次回の予告
次回は、この日弁連スキームで実際にはどのような流れで特定調停が行われていくのかについて解説します。 弁護士・中小企業診断士 武田 宗久 https://stella-consulting.jp/archives/564
関連コラム