公開日 | 2023/06/04 |
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記載者 | 藤澤文太税理士事務所 |
財務・税務
【認定医療法人】事業承継に際しての出資の暦年贈与と持分放棄の比較
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はじめに
皆さんこんにちは。税理士の藤澤文太です。
今回は、親族内で医療法人の事業承継を行うにあたって、出資持分あり医療法人の出資持分を後継者に承継する方法としての典型的な方法である「暦年贈与」と、厚生労働大臣認定による持分放棄の方法の比較を事例を交えて行ってみたいと思います。
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ある医療法人の理事長へのご提案
金融機関からのご紹介で、ある医療法人の理事長に、医療法人の事業承継についてご提案させていただく機会をいただきました。
厚生労働大臣による認定を受けたうえで、贈与税課税を受けずに持分なし医療法人に移行して事業承継する方法をご提案しましたが、理事長から「顧問税理士に任せているから」とのことで、はじめは私のご提案に懐疑的でした。
詳しくお聞きすると、毎年出資持分をご子息に暦年贈与する方法をとられているとのことでした。
本件における暦年贈与の問題点
この医療法人の純資産(=貸借対照表の総資産ー総負債の金額)は直近の決算書上で10億円を超えており、経営状況が赤字が続いていたこともあり出資持分の相続税評価額も純資産額に近い状況でした。
例えば、出資持分の相続税評価額が9億円で、30年間かけてご子息に贈与される場合、9億円÷30年=3,000万円分毎年贈与することになります。
この場合、贈与税が年間約950万円課税されることになり、トータルで約2億8,500万円の贈与税となります。
こちらの理事長は、ご自身の役員報酬の大半をこの贈与税を納税するために費やしていらっしゃるとのことでした。
役員報酬には所得税が課税されますので、所得税が課税されたお金で贈与税を納税していることになります。
また、ご子息から次の代の方へ事業承継される場合も同様に贈与税や相続税が課税され、事業承継を繰り返すたびに半永久的に課税され続けることとなります。
分散して贈与することの問題点
贈与税は超過累進課税ですので、1人の方に贈与するより、ほかの親族の方にも分散して贈与したほうが納税額は少なくてすみます。
また、医療法人の場合は、出資と議決権は分離していますので、出資を贈与しただけでは医療法人の議決権が移らないことも分散贈与の利点として考えられます。
ただし、分散贈与には将来的に下記の2つの問題点が生じる可能性があります。例えば後継者と非後継者の二人に同額の出資持分を分散して贈与した場合を考えてみましょう。
第1に、経営を引き継がれた後継者が経営をたてなおして出資持分の評価額も上がると、後継者の出資持分のみだけではなく、非後継者保有の出資持分の評価額も上がることになります。つまり、後継者が経営を頑張れば頑張るほど、非後継者にとってはご自身のあずかり知れないところで将来の相続税や贈与税が増えていくことになってしまいます。
第2に、こちらの非後継者の方が医療法人の社員でもある場合は出資持分の払戻請求をすることが出来ますが、後継者の方が経営を頑張れば頑張るほど払戻請求権の金額は大きくなり、実際の払戻請求がされた場合の医療法人の資金繰り悪化による経営リスクが増すことになります。
令和5年度税制改正による影響
令和5年度税制改正により、令和6年以降に暦年贈与により取得した財産の相続税の課税価格へ加算期間について、その相続開始前3年以内であったのが、4年間延長され同7年以内となります。
つまり、(延長された4年間は100万円の控除はあるものの)贈与がなかったとされる期間が3年間から7年間に延長されることから、暦年贈与による効果も減少することになります。
M&Aとの比較検討
本件においては、理事長のご子息は医師ではあるものの、医療法人を承継されるかどうかは不確実であり、経営が不安定であることも考えると第三者へ贈与することも検討されていました。
持分なしでもM&Aは可能ですが、持分がある方がM&Aにおけるスキームの選択肢は広がりますので、持分なしにすべきか悩まれていました。
そこで、最悪のシナリオと最良のシナリオをそれぞれ整理してお示ししたうえで、今後の医療法人の進むべき道を検討していただくこととしました。
・最悪のシナリオ:出資について現状の贈与を続けている途中でご自身に相続が起こり、多額の相続税が課税されてしまう。また、相続の際に(親族内でもM&Aでも)後継者が決まっていない状態。
・最良のシナリオ:出資について持分なしにしておいて将来の相続税や贈与税の課税の問題は解決したうえで、ご子息が医療法人を承継される、もしくはM&Aにより適切な承継者に承継していただく。
今後の方向性
最初は私のご提案に懐疑的であった理事長も、税務上のメリットデメリットの理解を深めていただき、そのうえで上記の最悪のシナリオを避けて最良のシナリオに医療法人を導くために、下記のとおり進められることとなりました。
①厚生労働大臣の認定を受けて、持分なし医療法人に移行する。
②ご子息が医療法人を承継するために最適な環境を整える。
③もしくは、ご子息が承継されない場合に備えてM&Aについても両にらみで進める。M&Aに際しては認定の6年間の要件に留意したうえで進める。
最後に
医療法人に限らず、事業承継は①親族内承継②従業員への承継③M&Aによる第三者承継④廃業の4つの選択肢になります。
いずれの場合でも、まずは「制度内容や現状の正しい認識」、「将来起こりうるリスクの把握」、「希望する事業承継の選択肢」を現経営者の方が正しく認識する必要があります。
今回の事例は、制度内容を理解していただくところから入り、結果的に現状把握を行うことが出来たと思われます。
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