公開日 | 2020/09/11 |
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記載者 | 奥富進介公認会計士事務所 |
M&A
廃業(清算)するなら売りなさい(某出版者風)
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逆張りタイトルにスモールM&A業界を想う
皆様は電車の出版広告で「~するなら、~しなさい」とか「その~は間違いだ」とかの、やたら大上段から断定するかのような逆張りタイトルを目にした事はないだろうか。あまりにも大胆な断定口調で確かに目を引く手法であり「痛風治したいならビールを飲め」というタイトルには確かに惹かれたりもした。
現状は当初のインパクトは薄れ、さながらマンション売り出し時のポエムのように大喜利的な状況となっているが、肝腎の内容といえば至極全うで高圧的なタイトルからは想像もできない柔らかい文体となっているものが多い。
本稿のタイトルは即ちこの手法のなぞり、「ん?」と思われる方や「センスないなぁ」という思われる方におかれましては何卒ご容赦頂きたく。
廃業・清算その前に
この項をご覧の皆様は少なからず、ご自身での事業の継続に困難を感じられ結果、選択肢として廃業・清算を考えるに至ったと思います。その過程には様々な葛藤があったと推察しますが、その意思決定の前に廃業・清算の特性を考慮する必要があります。
廃業・清算とは一般に「会社を解散した後に会社の財産を換金・分配する手続」を指します。この定義に従うならば解散の後に財産が残る状態で経営者が主体的に行う意思決定であり、解散後に財産が残らず(債務超過)、追い込まれて発生する「倒産」とは明確に異なる事象です。(廃業)清算は健全な会社の事業を自らの意思で将来にわたり永久に停止する手続きです。
この(廃棄)清算ですが他にもっと「安全・安価・有利」な選択肢が経営実務上普通にあります。事業も継続するしお金もたくさん入ります。以下に(廃業)清算の前に必ず知っておくべき選択肢をお知らせします。
廃業・清算のデメリット
(廃業)清算は、健全な会社しかできません。即ち社会の経済活動のレギュラーと周知されており関係各社(者)は利害関係を有します。
(廃業)清算が周囲に及ぼす影響は以下のとおりです
・取引先、顧客⇒供給元の消失による安定供給の途絶、売上機会の減少
・仕入れ先 ⇒顧客の喪失による売上先の減少、ビジネスの縮小、資金繰りの悪化
・従業員 ⇒働く場所の喪失による生活の不安定化、生活困窮
・地域社会 ⇒法人・個人の納税源資の喪失による税収の減少、行政サービスの低下
・業界 ⇒ノウハウ・技術蓄積のプレイヤー喪失による、衰退化
(廃業)清算以外の出口戦略
唐突に出てきた「出口戦略」という言葉に馴染みのない方もおられるかもしれません。経営実務上では市場もしくは企業の経営・所有からの撤退時に経済的損失を最小限にすることを指します。
(出口戦略なのに)入り口からネガティブな前提ですが、反面投資において投下した資本を最大限に回収することも出口戦略といいます。中小企業においては投資主体はオーナー経営者です。事業というのは言ってしまえば資金調達をして投資することです。
創業時に資金調達をして仕入れ・設備投資・雇用をし売上を上げる。利益は投資に対するリターンです。当初調達した資金以上の資産が手許に残っていれば投資の成果は出ていることになります。上記の投下資本を最大化するところの意味は自身が投下した資本を手仕舞いした際のお金を最大化することです。この手仕舞いの仕方で手許に残るお金は変わります。当該手仕舞いの方法を出口と呼称し手許に残るを最大化する方法を選択する事が出口戦略なのです。
出口戦略は投資対象である事業の引継先の有無や引継先の性質により以下に分類されます。
➢引継先がいる
・引継先が(身内等の)後継者 ⇒事業承継
・引継先が第三者 ⇒M&A
➢引継先がいない
・残余財産があり、主体的 ⇒(廃業)清算
・残余財産がなく、追い込まれて ⇒倒産
上述したとおり(廃業)清算を選択する状況にいる場合には追い込まれての撤退戦ではないため、投資の回収という視点を取り入れる必要があります。
創業者利益とは
(廃業)清算は健全な会社しかできません。しかし2019年度の東京商工リサーチ調べでは全国で休廃業・解散をした企業は43,348件であるのに対し、倒産は8,383件であり実に5倍以上の件数です。これは財務的に体力のある会社が事業の継続を断念している事の一つの現れであり、この状況は少子高齢化に端を発する「後継者不足」であると言われています。上述した出口戦略の内、後継者がいないケースは第三者承継(M&A)であり(廃業)清算と比較されることになります。
表題の創業者利益とは、平たく言ってしまうと創業オーナ経営者が経営から手を引いた時に残る事業によって得られた利益です。当初の投下した資金が長年の事業によって利益を出し続けていれば、当該利益が創業者利益となります。
さて、先ほどお知らせした(廃業)清算と第三者承継のケースですが創業者利益はどう変化するのでしょうか。まず(廃業)清算の場合ですが、「会社を解散した後に会社の財産を換金・分配する手続」である以上は過去に事業で得た利益以上の額は得られません。一方で第三者承継の場合には一般に譲渡先との相対で事業の譲渡価額がきまります。譲渡先は当然に事業取得による利益を期待しています。通常はこの期待値分が事業の譲渡価額に乗せられます。つまり事業を引き継ぐことにより得られる財産よりも事業そのものが持つ、 「稼ぐ力」に重きを置いているのです。従いましてその「稼ぐ力」の評価分、創業者利益が増加することになります。
また、税務面でも清算時は法人で生じる売却益に課税されたうえに清算時の財産の分配が配当所得として課税され法人税・所得税で二重に課税されるのに対し、第三者承継の場合には株式の譲渡所得に対する課税のみです。
このように創業者利益という点においては第三者承継が圧倒的に有利と言えます。
出口戦略により変わる創業者利益
以上のように、(廃棄)清算と比較して第三者承継は事業の継続の可能性や、創業者利益の最大化という点から検討する価値があります。仮に結論が変わらないにしても(廃業)清算という意思決定に納得するためには必須の手続きです。事業を展開することによって築き上げてきた信頼に応える責任は経営者にしか全うできないのです。
もう一つ、(廃棄)清算という非常に大きな意思決定を視野にいれるならばそれは気力、体力に余力がある時に検討する事をお勧めします。追い詰められた状況下での意思決定は自分自身に納得を得られず後悔の種になります。リタイア後の人生もまだまだ本番であり事業から離れることは人生の途中の出来事です。今後のより良い人生のためにも納得を全てにおいて優先してください。
大事なのは
・事業の継続による利害関係者に対する責任
・投資の回収という俯瞰した視点
・そして何より余力を残す判断
です。