現在の事業開発のトレンドは、最小限のリスクで新規事業を立ち上げ、リカバリー可能な失敗を何度も繰り返しながら事業の成功を目指すスタイルです。
スタートアップ企業は大企業と比べてビジネスを小さく始めやすく、顧客との距離の近さから商品やサービスに「生の声」を反映させやすい環境にあります。
後半で詳しく解説する「リーンスタートアップ」も、スタートアップ企業が事業開発を行うにあたって採用しやすく、成功への確度が高い事業開発のスタイルです。
今回はスタートアップ企業の成功するための事業開発について、詳しく見ていきましょう。
スタートアップ企業の事業開発プロセス
事業の規模や分野に関わりなく、事業開発は以下のプロセスで進行することが一般的です。
・ビジョン・ミッションの明確化
・事業ドメインの確定
・ビジネスプランの策定
・KPIの設定
各プロセスについて詳しく解説します。
ビジョン・ミッションの明確化
まずは事業開発のビジョン(未来像)とミッション(目的)を明確にします。両方ともプロジェクトに参画する社員の理由や動機づけになります。スタートアップで事業を開始する場合、最初にビジョンやミッションの明文化をせずに、経営しながら自社の事業の存在意義を考えていくケースが多いのではないでしょうか。
しかし、どちらか片方だけ、あるいは両方とも明確にしないまま事業開発を進めると、プロジェクトが行き当りばったりとなり、事業開発の成功はもちろん、プロジェクトに参画する社員の団結も難しくなります。
ビジョンとミッションが定義・周知されていると、チーム内でプロジェクトに対する共通認識を持つことができ、メンバーそれぞれがチームに参画し続けてもらう動機にもつながるため、チーム全員が1つの方向を目指してプロジェクトを進めることができます。
事業ドメインの確定
事業ドメインとは、事業を展開する領域のことを指します。事業ドメインを適切に設定してビジネスの範囲を絞り込むことにより、社員の目的意識を一致させ、経営リソースを上手く活用することにつなげることができます。
すなわち、自社の強みが活かせる得意分野を判別し、無謀な多角化やリソースの無駄遣いを避けることが事業ドメイン確定の意義です。
ビジネスプランの策定
ビジネスプランの策定は、「だれに」、「どんな商品・サービスを」、「どのように販売・提供するか」を検討するプロセスです。事業が継続的に十分な利益を上げられるかどうかが焦点となるため、「市場」と「事業の収益性」を慎重に検討しなければなりません。
市場は成長期にあり、十分な収益性のある規模であることが望まれますが、円熟期~衰退期の小規模な市場であっても、差別化やニッチ化を図ることで収益を上げられる可能性はあります。
また事業の収益性については、事業のターゲットとする顧客や競合他社を分析し、十分な収益を上あげられるビジネスプランを策定しましょう。
KPIの設定
KPI(Key Performance Indicator)とは、「重要経営指標」や「重要業績指標」と呼ばれる経営管理評価の重要な指標のひとつです。
具体的には「○月までに売上高○万円」や「○月までに新規顧客○人獲得」などのKPIを設定します。
KPI設定のプロセスでは、現状を踏まえて現実的に達成が可能と考えられる行動計画を策定することが重要です。
ただし、KPIが増加と減少を繰り返す売上と利益だけでは、現場のモチベーションを保てない場合もあります。重要なのは、その事業にふさわしい経営管理評価の指標を作ることです。
スタートアップ企業の事業開発失敗の原因とは
事業開発を進める際に、全ての事業が成功すれば良いのですが、当然、失敗することもあります。ただし、事前に失敗につながる原因を把握することで、事業開発を成功に導く確率を上げることができます。
ここでは、事業開発失敗の原因を紹介いたします。
資金不足
新規事業の開発は短期間で結果が出るものではありません。試行錯誤を繰り返しながら、利益の出ない状態が長く続くことも予想されます。その結果、資金不足に陥って事業が息詰まるケースも考えられます。
過去には、市場やユーザーに間違いなく期待されていた事業でありながら、資金不足でやむなくクローズした事例も少なくありません。確実に資金調達ができることを前提として、事業開発の体制が維持できる資金計画を立てることが重要です。
モチベーションの低下
スタートアップ企業が新規事業で市場の認知度を高め、結果を出すまでには、経験不足などの要因からどうしても時間がかかってしまいます。長い間、利益の出ない状態が続くことによって担当者のモチベーションが低下し、事業が行き詰まってしまうケースも少なくありません。
モチベーションを低下させないためには、例えば、短期間のサイクルでクリアできる小さな目標を設定する方法があります。それらの目標を利用しながらPDCAサイクルを回し続けることで、短期目標と事業の修正を並行して進めていくことができます。短期の目標を達成していくことが、事業の成功につながることを認識できれば、モチベーションは維持していくことができるでしょう。
これ以外にも、担当者の情熱を維持し続けるために、創業者や事業責任者は、モチベーションを維持できる仕組みを考えて実行していくことが大切です。
アイデア実現のタイミングを逸する
革新的なアイデアも新規事業としてスタートさせるまでに時間がかかってしまうと、市場のトレンドを逃したり、競合他社に先を越されたりするケースが少なくありません。リスク検討や体制構築など、新規事業のスタートは石橋を叩いて渡る慎重さも必要ですが、スピードも重要です。革新的なアイデアの実現は、競合他社も模索していることを認識しなければなりません。
慎重さとスピードを両立するには、必要最低限のコストで商品やサービスを開発し、競合の少ない市場に参入する「リーンスタートアップ」がひとつの対策となるでしょう。
準備不足
事業開発をスタートするには、市場・ニーズの調査やユーザーへの効果的なアプローチ方法など、情報収集や分析が必要です。準備不足のまま事業開発を始めてしまったために、想定外の事態に対応できず、事業が行き詰まってしまうケースも少なくありません。
前述のように事業開発はスピードも重要ですが、事前の準備を怠らないことも重要です。
経験不足
新規開発は手探り状態でスタートすることも少なくないため、担当者の経験不足、ノウハウ不足で新規事業が頓挫するケースがあります。特に新規参入の場合は過去の経験を活かすことができず、市場や顧客のニーズを十分に読みきれないことも多いのです。
全く新しい分野にチャレンジする場合は、
参入する市場に強い他者と連携したり、業界を知るプロに相談したりして、外部から知識や
ノウハウを取り入れることが重要です。
スタートアップ企業の資金調達方法
事業開発時の失敗の原因でも触れたように、多くのスタートアップ企業は遅かれ早かれ資金面で苦労するタイミングが発生します。ここでは、その問題を解決できるかもしれない資金調達について、解説します。
スタートアップ企業の資金調達方法には、次の3つがあげられます。
・エクイティファイナンス
・デットファイナンス
・クラウドファンディング
それぞれの資金調達方法について詳しく見ていきましょう。
エクイティファイナンス
エクイティファイナンスとは、企業がエクイティ(株主資本)を発行して、その収益によって事業資金を調達する方法です。
一般的には、企業が新株を発行して既存の株主や第三者に買い取ってもらい、エクイティの増加によって資金調達を行います。
また、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルなどから出資を受け、自社の株式を売却する方法もエクイティファイナンスにあたります。
エクイティファイナンスによる資金調達には、大きく分けると次の4種類があります。
・公募増資(時価発行増資)
・株主割当増資
・第三者割当増資
・転換社債型新株予約権付社債(CB)
エクイティファイナンスで調達した資金に返済義務はありませんが、業績が上がった場合は株主に対して配当金を支払う必要があります。
デットファイナンス
デットファイナンスとは、金融機関から融資を受けたり、取引先や従業員からお金を借りたりして資金を調達する方法です。
いわゆる借金によって資金を調達する方法ですので、貸借対照表では「負債」に分類されます。以下にあげるような資金調達方法がデットファイナンスに該当します。
・金融機関(銀行、ノンバンク、日本政策金融公庫等)からの借り入れ
・取引先からの借り入れ
・普通社債
・少人数私募債
デットファイナンスによって調達した資金は、決められた期間内に利息を付けて返済する義務があります。スタートアップにとっては厳しい資金繰りを強いられることになりますが、上手に活用すれば低コストでまとまった資金を調達できるだけでなく、信用の創造や節税にもつながります。
クラウドファンディング
クラウドファンディングとは、インターネットを通じて自社の商品やサービスを発信することで、発信者の想いに共感し、活動を応援してくれる不特定多数の個人から資金を募る方法です。
従来のクラウドファンディングは、多くの人たちから少額の寄付を募って出資を集める「寄付型」が主流でした。
現在は起業家や経営者がプロジェクトを実現するために必要な資金の提供を呼びかけ、資金提供後やプロジェクト完了後に資金提供者がリターンを受け取る「投資型」が主流となっています。
クラウドファンディングの活用例としては、「ホリエモン」の愛称で知られる堀江貴文氏が主催する「観測ロケットMOMO」が知られています。これまでにMOMO、MOMO2号の開発・打ち上げ費用がクラウドファンディングによって集められ、現在は同じようにクラウドファンディングによって資金提供を受けた、MOMO3号の開発が進められています。
現在までに「Readyfor」や「CAMPFIRE」など複数のサービスが開設され、クラウドファンディングの認知は徐々に広まりつつあります。
事業開発におけるリーンスタートアップ
リーンスタートアップ(Lean Startup)とは、Lean(痩せ型の、脂肪のない)とStartup(革新的な事業の想像)をかけ合わせた造語です。新しいビジネスを創出するためのモデルを指し、2008年にアメリカの起業家エリックリース氏によって提唱されました。
事業やプロジェクトを最低限のコストでコンパクトに立ち上げ、短いサイクルで効果検証を繰り返すことで、市場やユーザーのニーズを探りながら成果につなげていきます。
事業開発を失敗させないためのモデル
リーンスタートアップは、大きなコストをかけて事業開発を始めるのではなく、最低限のコストで小さく始めて、仮説検証を繰り返しながら製品やサービスを改良していくビジネスモデルです。具体的に、リーンスタートアップは以下の4つのサイクルで回していきます。
1.仮説市場やユーザーのニーズの「仮説」を立てる |
2.構築ニーズに答えるアイデアを「構築」し、顧客に価値を提供できる最小限の商品(MVP)を開発する |
3.検証ユーザーにMVPを提供して「検証」を繰り返す |
4.学習ユーザーのリアクションの結果を「学習」し、MVPを改良する |
以上の4つのサイクルを迅速に回し、コストを最小限にしながら革新的なビジネスを創造することを目指しています。
MVP(Minimum Viable Product)とは
MVP(Minimum Viable Product)とは、ユーザーに価値を提供できる実用最小限の製品のことです。いわばプロトタイプで、リーンスタートアップの第1ステップ「仮説」の成否を見極めるために作成します。MVPを活用すると、ユーザーのニーズに基づいた商品・サービスの検証を短期間でできるようになり、コストの削減にもつながります。
他社との協業も検討する
スタートアップが事業開発を成功に導くためには、コラボレーション、つまり「協業」という手段も有効です。
協業とは、事業開発を自社だけで行わずに、参入する市場について知識やノウハウがあり、すでに顧客も付いているような他社と業務提携するビジネスモデルを指します。協業には、スタートのコストを最小限に抑えたり、大きなシナジー効果を生んだりといったメリットがあります。
しかし、何の準備もなくスタートアップの勢いだけで他社と協業しても、肝心の事業開発は成功しません。スタートアップ企業が他社と協業するにあたっては、自社に足りない知識やノウハウ、リソースを明確にしたうえで、協業によってそれらを強化したり、新しい発想を取り入れながらビジネスの全体像を描くことが重要です。
まとめ:リソースが限られるスタートアップだからこそ、柔軟な姿勢でイノベーションを起こそう!
スタートアップは資金、人材、情報、ノウハウなどリソースが限られているため、自社だけで何とかしようとするとスタートが遅れることになります。事業開発で最も重要な課題は、どんなプロセスで進めるべきか、どんなフレームワークで取り組むべきか、何を持って評価するかなどの「情報」と言われています。リソースが限られているからこそ、最小限のリスクでそうした情報を得るためにリカバリー可能な程度の失敗を繰り返すことで、事業モデルを磨き、その先にある大きなイノベーションを掴みとるきっかけとなるのではないでしょうか。
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