企業と企業の提携にはいくつかの形態があり、業務提携(事業提携)というのは、そのうちの1つです。経営戦略の一環として検討し、実施する企業は少なくありません。
業務提携は、何を目的とするかでどのタイプを選択するかが決まり、他の企業と提携関係を結ぶ際に気を付けたいポイントもあります。特に、契約書についてはきちんと知っておく必要があります。今回は、スタートアップ企業が業務提携するときの流れと注意点を解説します。
業務提携/事業提携とは
「業務提携」と「事業提携」とは何でしょうか? その意味について、くわしく解説していきます。
字面のイメージから想像できるかもしれませんが、業務提携とは複数の異なる会社が協力して業務を行うことを指します。技術や人材などを提供し合うことで双方の事業を強化するなど、お互いに利益をもたらすことを目標とします。
とはいえ、資本関係を結ぶわけではなく、”企業の独立性は保たれた状態のままである” という特徴があります。「事業提携」という言葉も、業務提携とほぼ同じようなニュアンスで使われます。
業務提携にはいくつかの種類があるので、確認しておきましょう。
技術提携
まずは「技術提携」です。
技術提携というのは技術力をベースとした提携で、一方の企業の既存技術をもう一方の企業の製造工程で利用することや、共同で新技術を開発することなど、いくつかの形態が含まれます。
既存の技術を提供するケースでは、知的財産権の利用を認める「ライセンス契約」を結ぶのが一般的です。技術を提供される側の企業にとっては、独自で新技術を開発するためにリスクをとって投資をする必要がなくなります。一方で技術を提供する側の企業にも、ライセンス料を得ることができるなどのメリットがあります。
複数の企業が共同での技術開発を行うケースでは、「共同研究開発契約」が結ばれます。異なる複数の企業の知見を組み合わせて研究開発に利用できるため、新技術を生み出せる可能性が高まるほか、開発のリスクを分散することができ、費用負担を軽減することができるといったメリットもあります。
生産提携
業務提携には「生産提携」という形態もあります。
生産提携というのは生産過程の一部を他社に委託することで、「製造委託契約」を結ぶのが一般的です。
委託する側の企業にとっては、生産能力の向上が見込め、自社で生産するための設備やそれにかかる投資が不要になったりするというメリットがあります。また、委託される側の企業にも、生産量が増加して売上増加に貢献することができ、製造ラインを効率的に利用できるようになったりするといったメリットがあります。
注意点としては、委託される側の企業では品質管理が非常に重要となることです。トラブルを避けるため、万が一不良品が生じてしまった場合の対応や責任の所在などを契約時に取り決めておく必要があるでしょう。
販売提携
販売面での提携を行う「販売提携」という業務提携もあります。
販路の強化や拡大を目指して、すでに販売ノウハウや販売ルートを持つ企業に対して販売の委託をする形態の提携です。
販売提携は、さらにいくつかの種類にわけることができます。販売者が自身の責任で仕入れた商品を販売する「販売店契約」、販売者は仕入れをせずに製造者の代理や仲介となって販売するという形をとる「代理店契約」、製造者が販売者のブランドで製造を行う「OEM契約」、加盟店が対価を払うことで事業本部の経営ノウハウやブランドの利用などといった独占的な権利を得る「フランチャイズ契約」などが代表的です。
販売提携は、たとえば海外の消費者にも商品を届けたいなど、今よりも大幅にマーケットを拡大したい状況で検討されるケースがよく見られます。
スタートアップが業務提携する目的
ここまで業務提携の意味や種類について説明してきました。では、スタートアップ企業が業務提携をする目的について解説します。
スタートアップ企業にとっての業務提携は成長戦略の1つでもある
業務提携をするメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
そもそも外部の企業と提携を行うのは、単独で事業を行うよりも他の企業と協力した方が大きな成果が見込めるからです。事業を進めるにあたって発生した課題をすべて独自に解決できるのであれば、わざわざ手間をかけてまで提携する必要はありません。
しかし実際には、独自では解決しきれない経営課題はたくさんあるでしょう。他の企業にサポートしてもらい複数の企業で力を出し合って研究を進める方が、経営上の様々な課題に対処しやすくなります。課題を解決し、そこからさらに事業を発展させていくための手段として、企業は業務提携を検討するのです。
特にスタートアップ企業にとっては、業務提携は事業拡大をするための非常に有益な方法です。新しいビジネスモデルに挑戦するスタートアップ企業は、事業を展開していく中で課題に直面する機会が一般の企業よりも多いはずです。
しかし、資金も少なく、創業間もないため、最低限の経営資源しか持っておらず、見つかった課題に対して効果的な対処ができていないというケースもあるでしょう。もしも、他の企業が持つ技術や経験・知見などを利用することができれば、高い壁も突破しやすくなります。
スタートアップ企業が事業を拡大するためには、業務提携が欠かせないと言っても差し支えないでしょう。業務提携は、経営を新たな段階へと進めるための成長戦略の一環でもあるのです。
業務提携に必要な資料の作成方法
実際に業務提携をするためには、業務提携契約を締結する必要があります。そのときに用意しなければいけないのが業務提携契約書です。
業務提携には大きなメリットがある一方で、自社の機密情報を他社に開示することになるなどのリスクも生じるため、契約の段階でできる限りリスクを管理しておく必要があり、契約書がその土台となるからです。
業務提携契約書に記載する内容
業務提携契約書に記載する内容は、大まかに2種類にわけることができます。
ひとつは提携する目的や具体的な内容、提携の期間など、業務提携そのものに直接関わる内容です。業務提携を成功させるために記載する内容と捉えることもできるでしょう。
もうひとつは、秘密保持や成果物の所有権がどこに帰属するかなどのルールで、生じる可能性のあるトラブルに対応するために必要となる内容です。
ただし、記載されるすべての内容がこの2つのどちらかに明確に分けることができるというわけではありません。ほとんどはどちらの要素も持っており、それぞれが重要な項目なのです。
インターネットで検索すると、業務提携契約書の雛型を見ることができます。これは実際に契約書を作成する際の参考になりますが、そっくりそのまま使うのは控えた方がよいでしょう。むしろ、雛形通りの契約を結ぶことなど不可能です。すべての業務提携にはそれぞれ個別の事情があるため、既成の契約書では対応しきれないからです。
契約書は、個々のケースに合うようにきちんと作り変えるべきです。
業務提携契約書の具体的な項目
業務提携契約書に記載すべき具体的な内容を確認しておきましょう。
主な項目は以下の通りです。
・業務提携を行う理由や目的を記載
・提携する業務の内容や互いの役割の範囲、企画開発・運営・営業・宣伝などの分担、トラブルが発生した場合の対応者などの責任の所在を記載した「内容と役割」
・片方の企業による独占を防ぐために重要となる「成果物や知的財産権の帰属」
・片方の企業が成果物などを他方の同意なく第三者に売却したり譲渡したりすることを防ぐための「譲渡の禁止」
・業務の提携により知った互いの企業秘密の取り扱いや、企業秘密を提携に関すること以外の目的で利用することを禁止することなどを定めた「秘密保持義務」
・双方の企業の寄与度や貢献度に応じて定められた「利益の分配」
・かかる費用について、それぞれ各自の分担は各自で負担するのか、あるいはほかの負担割合にするのかなどを定めた「費用の分担」
・業務提携の契約履行中に一方の企業が買収された場合などに備えて、企業の支配者が変わった場合には契約を解除することができる旨を記した「支配権の変更」
・業務提携がいつまで継続されるのかについて取り決めた「契約期間」
上記の項目はほとんどの業務提携契約書に記載される代表的なものです。しかしこれがすべてというわけではなく、通常はさらに個々の取り決めなども追加されます。
実際に契約書を作成する際は、弁護士や行政書士など専門家のアドバイスを受けるとよいでしょう。
業務提携・事業提携する際に必要な取り決め内容
契約書に記載すべき内容について確認しましたが、なかでもポイントとなる点をもう少し詳しくまとめておきましょう。
業務の範囲を明記する
契約書には、業務の範囲を明確に記載する必要があります。その範囲において、どの部分の業務をどちらの企業が担当するのかも取り決めておきましょう。責任の所在をはっきりさせておくことで、何か問題が起きたときに対応すべき人物がわかるため、解決に時間がかかってしまうことを防ぐことができます。
利益分配と費用負担の割合を決める
業務提携の結果として得られた利益については、双方が事業に寄与した程度によって分配の割合を決めることが多くなっていますので、前もって合意しておきましょう。また、提携事業を進めるためにかかる費用負担の割合についても、取り決めておく必要があります。費用の負担割合は、最終的な利益分配の割合にも影響を与えるのが一般的です。
金銭面に関しては、業務提携で最もトラブルになる可能性の高い範囲です。詳細まで明確に取り決め、きちんと契約書に記載することで、不要なトラブルは防ぐようにしましょう。
成果物の帰属を決める
成果物とは、業務提携によって生産された製品や開発された新技術などを指します。これはまさしく業務提携の成果であり、収益にも直接的につながる部分です。この成果物がどちらの企業に帰属するのかは、前もって決めておく必要があります。
利益にも直結し、今後の事業展開にも影響を与えるため、合意事項は契約書に明記してトラブルや悪用を防ぎましょう。
秘密保持義務
業務提携を行う一番のリスクは、ほかの企業に自社の企業秘密を開示しなければいけない点です。もしもこれが提携企業を越えて流出してしまうと、業務提携がうまくいかなくなるだけでなく、企業の経営そのものにも悪い影響がでる危険があります。お互いに抱える不安は同じはずなので、秘密保持義務についても双方が納得できるような話し合いをしておきましょう。
情報の管理に関する取り決めや目的外利用の禁止などのほか、秘密保持義務の有効期間についても契約書に記載するとよいでしょう。
下請法に則って検討する
契約を締結する際には守らなければいけない法律や決まり事がありますが、なかでも注意が必要なのは「下請法」です。下請法とは、業務提携契約を締結するときに親事業者となる企業に求められるルールで、下請法が適用されるかどうかは、それぞれの企業の資本金の額で決まります。
たとえば、取引内容が物品の製造や修理委託であるようなケースでは、「資本金3億円超の親事業者と資本金3億円以下の下請事業者が取引をする場合」や「資本金1千万円超3億円以下の親事業者と資本金1千万円以下の下請事業者が取引をする場合」に、下請法が適用されることとなっています。
下請法では、親事業者に対して製品の受領拒否や下請け代金の減額の禁止などの制約が課されます。適用されるかどうかを調べるために、まずはそれぞれの企業の資本金を確認してみましょう。
スタートアップ企業が業務提携を行う場合は、親事業者ではなくむしろ下請事業者の立場となることの方が多くなります。下請法は、力が強い立場の企業が守らなくてはいけないルールです。下請事業者となる場合には、スタートアップ企業は法律により守られる側なので、それほど細かいことについては気にしなくてよいかもしれません。
しかし、このような法律の存在を認識しておくことで、規模の大きな企業と提携するときも足元を見られずに契約することができます。
また、提携する相手企業によっては親事業者の立場となる可能性もあるので、一度は確認しておきましょう。
詳細については、公正取引委員会のホームページ上で見ることができます。
(https://www.jftc.go.jp/shitauke/index.html)
変化の激しい業界こそ業務提携・事業提携も視野に入れた経営を!
他社との業務提携は、限られた経営資源という制約から飛び出す機会を与えてくれます。他の企業のサポートを得ながら、経営面での課題を解決し、事業のさらなる拡大を目指すことができるのです。
ゼロから新技術を開発し、新たなノウハウを得ても、変化の激しい業界では、すぐに外部環境が変わってしまいます。この場合、せっかく時間をかけて得たものが無駄になってしまいます。単独での課題解決や事業拡大にこだわるのではなく、別の企業がすでに保有している既存の技術やノウハウを活用することで、ビジネスの新たな段階への発展を要領良く目指しましょう。
ただし、業務提携を実現させるためには、双方にとってメリットのある関係を築くことができなければいけません。相手企業にはどのような価値を提供できるのか、という視点も忘れないようにしてください。
業務提携は、目的ではなく手段です。他の企業と提携することで今後どのように自社を成長させていきたいのか、そのビジョンを明確に描けるようにしておくことが、業務提携を成功させる近道です。
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