AI・人工知能のビジネス活用は、さまざまな業界で進んでおり、導入を始めている企業も増えてきています。医療の分野でもAIを使ったシステムの開発が盛んなことはご存知でしょうか。医療の現場の多様な場面で、AI・人工知能の導入が進む背景や、注目されている最新技術・ベンチャー企業を紹介します。
AIとはなにか?
AIは「Artificial Intelligence」の略で、日本語に訳すと「人工知能」となります。人工知能の定義は1つではなく、コンピュータを使って人間に代わって知的な情報処理や問題解決、言語の理解などを行う「知能」のこと、またその「知能」を活用したシステムのことを指します。
広い意味でのAI「コグニティブ・コンピューティング」
「コグニティブ」は、「認識」「認知」という意味の単語です。人工知能が人の脳の再現をしようとしているのに対し、コグニティブ・コンピューティングは人間の意思決定の補佐をしたりするなど、人間のサポートに主眼を置いた技術です。あいまいな問いかけに対する答えを推測したり、答えに対するフィードバックを学習し、次の回答への精度を高めたりなど、機械学習の要素も持っています。
AIビジネスの盛り上がり
2010年頃から「ビックデータ」などのワードが登場し、機械学習の活用が盛り上がってきました。始めはチェスや囲碁などのボードゲームで注目を集めたAIは、今ビジネスの分野での開発・導入が盛んになっています。人間の脳を模倣していながら、人間よりも早く正確に判断・計算ができるAIは、多くの業界で人材不足が課題になっている中で、「24時間稼働ができる知能」として注目されています。ロボット技術と組み合わせて、人間の代わりに作業をする技術など、応用できる分野は多岐に渡ります。
医療分野のAI関連市場が注目されている
AIの導入は業界を問わず行われていますが、なかでも医療分野での活躍は非常に期待されています。医療分野でのAI導入について詳しくご紹介します。
なぜAI技術が医療分野で進んでいるのか
医療現場で課題になっていることの1つに、人による判断ミス、医療ミスがあります。これは医師や看護師の技術不足・知識不足によるものではないことがほとんどで、実際の主な原因としては深刻な人材不足があげられます。人材が不足することで、長時間労働をせざるを得なくなり、疲労などから判断・作業ミスが起きています。
この人材不足を解消するために、医師や看護師の業務を補佐する、AI技術が注目されているのです。
また、地域格差の問題も背景にあります。地方ほど医師・病院数は少なくなっており、医師や看護師1人あたりにかかる負担が大きくなっています。地方の医師不足・病院不足に対処するため、医師の負担を軽減するような技術の開発や導入が進んでいるのです。
診断支援システム/類似症例検索システム
医療機関には既に、過去の症例のデータや、レントゲン、MRIなどの画像データが蓄積されています。それらのデータに医師の診察結果を加えた情報と、新たな患者の症状や、撮影した画像を照合することによって、医師の診断をサポートすることがAIの導入により可能になります。具体的には、診断支援システムや類似症例検索システムの導入という形でAIが導入されてきており、医師によって技術・知識に偏りがでる分野や、経験の浅い医師がいるケースにおいて、これらのシステムを活用することで、診断のクオリティを一定以上に保つことが期待されています。現在活用できる症例や部位は限定的ですが、今後、さまざまな症例で導入されていくと考えられます。
病院業務効率化
患者の問診票やカルテ、投薬の情報などもAIをはじめとするコンピュータが管理することで、病院内の業務効率化が図れます。医師や看護師が、単純な事務作業に時間を割くことなく、より専門的な知識や技術が求められる仕事に集中することができます。人材不足や、労働時間の問題などへの解決策として注目されています。
AIを活用した創薬にも期待
製薬の分野でもAIを使った技術の開発が進められています。過去の実験結果や論文データ、レセプトデータなどのビッグデータを活用し、新たな創薬に結びつけるシステムです。化合物の選定や、作業効率化、副作用の予測などへの応用も試みられています。創薬技術の競争力の維持に有用であり、2025年の市場規模は約70億円になると推測されています。
「AI×医療」の事例
ここまで、AIが何なのか、医療分野においてどの様に期待され、活用されているのかを解説してきました。では、実際に医療の現場でAIが活用されている事例を紹介します。
富士通が進める画像認識技術を活用した診断や経過観察を複合的にサポートする「REiLI(レイリ)」
富士通では、強みであるカメラや画像処理技術を活かし、内視鏡やX線技術など、医療分野での開発を行ってきました。これらの画像認識の技術を使い、CTやMRIの画像から医師の診断をサポートするシステムを開発しています。診断のみでなく、経過観察や副作用のデータなど、複合的に情報を集め、「REiLI(レイリ)」というブランドで展開していく予定です。
凸版印刷が進める画像認識技術を活用した「患者の見守り」
凸版印刷では、センサーとAI技術を組み合わせ、トイレやお風呂・シャワー内での転倒などを検知するシステムを開発しました。検知した情報はクラウドを経由してナースステーションで確認することができ、緊急時の検知パターンを蓄積することにより、患者の異常事態発生時には、警報を出す仕組みです。一部医療機関で実験を兼ねた導入が始まっています。
two XARが進めるAIによる新薬開発
ソフトバンクグループが出資していることで日本でも注目が集まっているベンチャー企業two XARは、新薬開発の分野でAIを活用している企業です。膨大な数の化合物の選定にかかっていた時間を大幅に減らすことができるため、新薬の認可を得るまでの時間も短縮することができ、より有効な薬を早く届けることができます。
「AI×医療」の市場規模の予測
ここまで説明したように、AIは医療現場の課題を解決できるものとして研究・開発が進められています。また、すでに限定的ではありますが、導入を開始している医療機関や企業もあり、この動きはこれまで以上に活発になっていくでしょう。今後、医療分野におけるAIの市場は更に大きくなっていくと考えられています。では、どれくらい大きくなっていくのか、市場規模の予測をふまえて解説していきます。
2016年の国内のAI×医療分野市場規模
AIの医療分野における市場は、2016年では37億円となっており、主にAI創薬の分野と、MRの営業支援技術によるものでした。画像認識による診断サポートの需要が限定的であることに対し、創薬へのニーズの高まり、MRの病院訪問の規制などにより、この2分野への需要がありました。
2025年の国内のAI×医療分野市場規模予測
現在のAI創薬分野の伸びに加え、診断支援システム/類似症例検索システムの需要の伸びが予想され、国内の市場規模は2025年には、全体で150億円に達すると予測されています。システムそのものの精度の向上だけでなく、AIによる診断や業務の補助も報酬の対象になってくるとされており、これにともなう医療機器の新商品開発が更に進むと予想されています。
世界ではさらに大きな市場に
世界規模の市場を見ると、2018年には20億ドル(約2000億円)であるのに対し、2024年には170億ドル(約1兆7000億円)まで成長すると見込まれています。一番大きな市場は北米で、技術力と、健康への関心の高さに加え、医療ミスによるコストが問題になっていることから、需要が高いと考えられます。急成長しているのはアジアで、画像認識などの技術に加え、ウェアラブル端末を用いた健康管理や病状の確認などの技術も開発が進んでいます。
「AI×医療」注目のベンチャー企業!
注目の「AI×医療」の分野に参入する、勢いあるベンチャー企業をご紹介します。
AI×画像認識技術を使い内視鏡開発を行う株式会社AIメディカルサービス
株式会社AIメディカルサービスは、画像認識の技術を使い、消化器官内の診断サポートを行う内視鏡開発に特化した会社です。内視鏡では15~30%の病変は見逃されてしまいます。株式会社AIメディカルサービスは、診断にAIを活用することで、病変の発見率を上げることを狙いとしています。代表取締役の多田智浩氏は、自身の臨床医としての経験から、内視鏡による症状の見逃しに課題を感じており、AIを使った内視鏡の開発をするため2017年にこの会社を創業しました。開発段階ではありますが、論文発表、特許の出願を積極的に行っています。
株式会社AIメディカルサービスのHP:https://www.ai-ms.com/
AI×遠隔医療技術の開発を行うCirrusMD
CirrusMD社は、アメリカのベンチャー企業で、遠隔医療技術の開発を行っています。高額な医療費が問題になっているアメリカで、自宅にいながら医師とチャットをすることができるシステムを導入することで、患者と病院、両方のコスト削減を図っています。患者の診療データや音声、テキストメッセージが管理されており、実際に病院に行ったほうがいいか、緊急性が高い症状なのかを判断します。救急隊員であった Blake McKinney氏が2012年に創業したこの会社は、米株式市場SeriesBで2019年5月に1,500万ドル増資しています。
CirrusMD社のHP:https://www.cirrusmd.com/
AI×ディープラーニング技術で新薬開発を行うInsilico Medicine
Insilico Medicine社は、アメリカのバイオテクノロジー企業で、AI創薬を行う企業です。CEOの Alex Zhavoronkov氏は2014年にこの企業を設立し、AIとディープラーニングの技術を使って、新薬の開発に必要な材料の組み合わせの分析や、副作用の可能性の計算など行うシステムの開発を行っています。他者とのコラボレーションも積極的に行っており、医療用の薬の他にスキンケアの開発も行っています。2019年には、新薬の素材候補の選定を21日間で終えた研究成果を学術誌Nature Biotechnologyに発表しています。
Insilico Medicine社のHP:https://insilico.com/
AI×3Dプリンティング技術の開発を行うaxial3D
axial3D社は、3Dプリンティングの技術を活用しているイギリスの会社です。患者の内臓や骨の状態を撮影し、3Dモデルを作成することにより、患者とのコミュニケーションを円滑にし、治療に活かすことを目指しています。Daniel Crawford氏により2014年に設立されたこの企業は、2019年9月には、The European DatSci Awardsの’Best use of Data Science/AI in Health/Wellbeing’(健康医療分野でのAI利用への表彰)に選出されています。
axial3D社のHP:https://www.axial3d.com/
AIドクターの開発を行うBabylon Health
Babylon Health社は、2013年にイギリスで設立された企業で、「AIドクター」の開発を行っています。一般の開業医が受ける試験を受験し、人間の平均点を大きく超えるなど、診断の正確性が証明されています。現在は法規制などもあり医師の判断をサポートする役割にとどまっていますが、将来は医師の代わりに診断を行うことも期待され、またチャットボットによる低コストかつ患者にとっても手軽な診断を実現することができるでしょう。
イギリス国内のみならず、医師不足が深刻なアフリカ・ルワンダでも事業を展開しています。また医療大国であるアメリカ、中国や中東などにもサービス提供を目指しています。
Babylon Health社のHP:https://www.babylonhealth.com/
投資家も「AI×医療」に注目
市場規模の拡大が予想され、大手企業から勢いあるベンチャー企業までが参入するAI×医療の分野ですが、投資家もこの分野の成長に注目しています。
投資家が注目する「AI×医療」
AI×医療といっても、その分野は多岐にわたります。世界でもベンチャー企業を始めとする企業が開発を進めており、臨床実験や、一部の病院への導入が既に進んでいます。人材不足や地域格差、医療費の課題があるなかで、AIを活用した医療技術の開発は今後も進んでいくと考えられます。日本においては、既に医療機器の世界シェアが高い分野も多く、AIを組み合わせた機器の開発を進めることにより、海外での競争力がより高まっていくと予想されます。
ベンチャー企業がこのように新たな分野に挑戦するには、投資家から出資を受けることが事業スピードを加速するためのポイントになります。すでにベンチャーキャピタルや個人投資家はこのテーマに注目し投資を行っていますが、市場規模の拡大に伴い今後も投資額が増加すると予想される一大テーマです。
AI×医療は、多くの人命を救う可能性を秘めている!
まだまだ開発段階の技術も多いですが、絶対的なニーズやAIの認知拡大によって確実に需要が高まっていく分野です。
成長分野であるだけでなく、多くの人命を救う社会的インパクトが残せる可能性を秘めています。医師とエンジニアがコラボレーションしたベンチャー企業も国内外で出てきており、注目の分野といえるでしょう。
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