一般的にエネルギー業界は、安定した業界だといわれます。しかし、昨今は大きな変化の渦中にあります。主要産業である電力やガスなどのインフラへの自由参入が法律で認められたことで競争が激化し、エネルギー業界の安定神話は、崩壊しつつあります。
そこで、エネルギー業界でのM&Aを検討している場合に知っておきたい現状と課題、今後の同行について考えていきます。
エネルギー業界の現状
エネルギー業界は、電力・ガス・石油の主要な3つの業種で構成されています。市場規模はどう変化してきたのか、また、コロナ禍による影響はあったのか、就職事情やM&A動向なども交えながらそれぞれの業種の現状について解説します。
電力
まずはもっとも大きな割合を占める「電力」についてです。電力は、長らく安定した業種とされてきました。その背景は、決められた地域の配電権利を独占する「地域独占型」のビジネスが認められてきたことにあります。しかし、2016年4月、「電気小売全面自由化」が認められたことで、多数の企業が参入して競争が激化していきます。
電力を作る方法は、火力、水力、原子力などさまざまですが圧倒的に多いのは火力発電です。経済産業省が発表している2020年度の発電電力量シェアは、火力発電が全体の82.6%を占めています(※1)。
また、環境汚染が世界的な問題になりつつある昨今、二酸化炭素排出削減につながるとして注目されている「新エネルギー」は、5.8%とシェアを伸ばしています(※1)。新エネルギーの代表格である太陽光発電はピーク時よりも数字を落としていますが、代わりに風力・地熱・バイオマスによる発電が主要となってきています。
(※1:https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/electric_power/ep002/pdf/2020/0-2020.pdf)
ガス
ガス会社は、昔から東京ガスや大阪ガスなど都市ガスを主に扱う会社が大きな勢力となっています。2011年に発生した東日本大震災では、原子力発電所の停止が命じられ、火力発電へと切り替える動きが起こりました。結果として、燃料となるガスの販売量が増加し、業者にとっては追い風となっています。
しかし、ガスにも電力と同じような価格競争が起こっています。2017年4月に都市ガスの小売事業が自由化されたことによる新規業者の参入が主な原因です。
経済産業省が発表している2021年11月分の都市ガス販売量は、前年比2.4%増加した。販売先の内訳を見ると、家庭用ガスは前年比3.2%減少していますが、商業用ガスは前年比0.6%減少しています。また工業用ガスは、前年比4.2%増加となっています(※2)。
(※2:https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/gas/ga001/2021/2021_11.html)
石油
石油は、自動車に入れるガソリンや、工場のボイラーで使われる重油など、生活面でも産業面でも必要不可欠な存在です。
経済産業省によると、2020年度の燃料油販売量は前年比6.4%減少しており、7年連続で前年を下回っています(※3)。背景にあるのは「給油所」の激減です。1994年をピークに減少傾向が続き、現在はピーク時の半分にまで減少しています。
(※3:https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shigen_nenryo/sekiyu_gas/sekiyu_shijo/pdf/007_02_00.pdf)
エネルギー業界における第4の柱「水素」
昨今、エネルギー業界の第4の柱として「水素」が掲げられるようになっています。水素は、環境への悪影響が少ない燃料として世界中から注目を集めているエネルギーです。詳しく見ていきましょう。
水素エネルギーとは
水素エネルギーとは、水素を用いて作られるエネルギーのことで、燃焼しても二酸化炭素が発生しないため環境に優しいエネルギーといわれています。
また、水素は地球上にある多くの物質の中に含まれています。水素という名前の通り、水から取り出すこともでき、石油や石炭などの資源にも含まれます。また、生ゴミなどのバイオマスからも取り出すことができます。
現在の主要エネルギーである石油や石炭などの化石燃料は、枯渇の危機に晒されており、歯止めをかけるためにも、水素エネルギーに期待が寄せられています。
水素業界の市場規模と世界が注目する「水素社会」の到来
菅義偉元首相が、2050年までのカーボンニュートラル・脱炭素社会実現の目標を掲げたことで、水素エネルギー関連ビジネスはさらなる脚光を浴びました。
2018年の統計における一次エネルギー自給率は経済協力開発機構(OECD)の加盟国(当時35ヵ国、現在38ヵ国)の多くが50%を上回っている中、日本は11.8%で34位、化石燃料依存度は85.5%(※4)となっています。環境汚染物質を多く排出している現状があり、カーボンニュートラルの実現のために根本的な変革が急務とされているのです。
前述の通り、水素エネルギーは、いろいろな物資から作ることができる将来性・安定性が高いエネルギーです。加えて、環境に負荷をかけずに使用でき、脱炭素社会に向けた切り札として、生活・経済活動に水素を使うことが一般化した「水素社会」を目指す動きが広がっています。
(※4:https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyissue2020_1.html)
水素業界の現状市場規模
水素業界の市場規模は、拡大傾向にあります。富士経済が2021年10月19日に発表した「日本国内の水素関連市場の調査結果」を参照してみていきましょう
同調査によると、2021年度の水素業界の国内市場規模は、前年度比4.6%増の183億円(※4)でした。また、2035年度には水素燃料全体の市場規模は4兆7013億円にまで拡大すると見込まれています。この数字は、2020年度比の268.6倍。水素業界への期待値の高さを物語る数字です。
(※4:https://energy-shift.com/news/f9c89dc5-d5c0-49f6-bd31-ecd0f44268c1)
エネルギー業界で注目されるそのほかのエネルギー
エネルギー業界の脱炭素化に貢献すると考えられるエネルギーは、水素だけではありません。風力、地熱、バイオマスなどの「再生可能エネルギー」にも、大きな注目が集まっています。
再生可能エネルギーの現状
再生可能エネルギーのメリットのひとつは、自国でまかなえることです。石油や石炭など、自国で採掘できない分は輸入するしかありませんが、再生可能エネルギーは自国にある資源で作ることができます。しかし、再生可能エネルギーの利用は現状ではほんのわずか。一次エネルギー全体の利用量に占める割合は、最も高い「水力」でさえ全体の中では低い水準となっています。
FIP制度の導入で普及が加速する可能性も
国内における再生可能エネルギーの普及を目指して、2012年、「FIT制度」が導入されたことで再生可能エネルギーは急速に拡大しました。FIT制度とは一般家庭や事業者が再生可能エネルギー設備によって発電をした場合、その電力を電力会社が買い取るというものです。そして2022年4月には、再生可能エネルギーの導入をさらに促進すべく「Feed in Premium(フィードインプレミアム)」制度が施行されます。FIP制度が始まると、現行のFIT制度と違い、卸電力取引市場で自由に電力を売ることができるようになります。投資性を付与したり、市場価格と連動させたりすることで、再生可能エネルギーの販売をより自立したものへと変えていく狙いです。
世界でも再生可能エネルギーは注目されており、国際エネルギー機関(IEA)によると、2035年には、再生可能エネルギーは発電におけるエネルギー比率の32%を占めるようになると言われています。
エネルギー業界の課題と今後の動向
最後に、各エネルギー業界における今後の動向について考えていきましょう。
電力
前述のように、電力業界では「電力小売全面自由化」をきっかけに多くの企業が市場に参入し競争が活発化しています。しかし、現状は旧来の電力会社の優位性は揺らいでおらず、依然として大手の電力会社が高いシェアを占め続けています。
また、日本では再生可能エネルギーの導入と普及が進んではいますが、「枯渇することがない」「環境汚染物質を排出しない」などのメリットがある反面、高額な運用コストや安定供給が困難である点で課題が残ります。
さらに、電力消費に対する国民の意識は「無断な電気を使わない」という考え方が広く浸透しており、電力会社は利益構造の再編を求められるでしょう。
ガス
2011年の福島原発事故をきっかけに、多くの原子力発電所が現在も停止されています。代わりとして火力発電への需要が高まり、その燃料であるガスの需要も高まっています。この流れは今後も続いていく見込みですのため、ガス業界の直近の動向はかなり好調であるといえるでしょう。しかし新規事業者参入の影響で、激しい競争に勝っていく必要が生じています。
石油
石油は、消防法の改正や人口減少によって厳しい局面を迎えています。
実際に、石油の販売量は2015年度に1.8億キロリットルまで落ち込み、その影響で中小企業は廃業に追い込まれ、経営力のある大手企業が生き残るという事態となっています。
前述のように、東日本大震災以降、原子力発電所が停止され、火力発電設備の需要は高まっています。しかし、燃料としての石油の構成比率には大幅な低下が見込まれており、今後も石油需要の減少は続くと考えられています。
水素エネルギー
水素エネルギーは、環境に優しいエネルギーとして脚光を浴びている一方で製造や輸送にコストがかかる上、安全性にも課題を抱えています。社会に浸透するエネルギーになるまでには数年間を要すると考えられていますが、世界規模で研究が進んでいるため今後、技術の発展により課題を解消し、大きく拡大していくことが予想されます。
まとめ
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