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ベンチャーがオープンイノベーションを活用すべき理由と注意点

2022年02月09日

世の中である企業の製品・サービスが広く浸透すると、今度はそのブランドを維持するために、“常に世に新しい製品・サービスを提供し続けること”を求められます。

しかし、常に新サービスをリリースし続けることは企業にとって容易ではありません。そこで、ここ数年、他社と提携して研究開発のスピードを上げる取り組みとして注目されているのが、「オープンイノベーション」です。

オープンイノベーションとは、企業が外部リソースとの連携を通して新しいアイデアを生み出し、そこに新たな付加価値を見つけサービス化に繋げることです。「サムスン」や「P&G」といった大手企業も、オープンイノベーションに積極的に取り組み成功を収めています。その流れは国内の大手企業とベンチャー企業の間で徐々に注目されています。

今回は、オープンイノベーションとはどのようにして生まれるものなのかを解説するとともに、企業の実際の事例や注意点を紹介します。

 

オープンイノベーションとは

近年、よく聞くようになったオープンイノベーションとはどういったものなのでしょうか。その成り立ちや定義について紹介します。

オープンイノベーションの起源

オープンイノベーションは、ハーバード大学経営大学院の教授だったヘンリー・チェスブロウ氏によって提唱された概念です。組織内でイノベーションを促進するために、企業内部と企業外部で、アイデアや技術の流動性を高めることで、組織内で作られたイノベーションを組織の外に展開するイノベーションのモデルを指します。

オープンイノベーションの定義

ヘンリー・チェスブロウ氏は、1990年代頃まで盛んだった、自社に人材を囲い込み、研究開発を行いながら自社ですべてを推進する自前主義で垂直統合型のイノベーションモデルクローズドイノベーションと名付けました。しかし、近年では、この手法は競争環境の変化や自社内での研究開発を続けて成果を出すという不確実性と莫大な研究開発費、株主などから求められる短期的な成果の要求など、外部環境の変化によって、全てを推進していくことが困難になってきたという背景があります。

そこで、クローズドイノベーションとは逆に、他社技術のライセンス許諾を受ける、外部から広くアイデアを募り、社外との連携を積極的に強化していく流れが生まれました。これをオープンイノベーションと定義しています。あるいは、クローズドイノベーションを自社内の研究開発だけでなく、既存の社外連携(サプライヤーなどとの協業など)も含めたものとして捉え、その中で不足するアイデアや技術力を持っている相手に協業先を拡げる活動をオープンイノベーションと定義する場合もあります。

 

オープンイノベーションが大企業で求められている

最近ではアップルやユニクロなどの超大手企業もオープンイノベーションに取り組む機会が増えています。その背景には、「競合他社との競争激化」「プロダクト・ライフサイクルの短縮化」があげまれます。

例えば、最近の消費者はインターネット上で複数の商品特徴を細かく吟味したうえで商品を購入するため、競合他社の製品と比較されやすくなっています。そのため、多くの企業はユーザーの求める商品を提供するため、必然的に短期間で製品を改良し続け、販売しなければなりません。商品の改良頻度が多くなるということは、それだけプロダクト・ライフサイクルも短くなるということになります。

とは言っても、製品の企画や開発には時間がかかり、企業にとってはなかなかリソースを割きにくいもの。さらに、大手企業は技術革新だけでなく、社会的な価値の想像を含めたイノベーションを意識しています。こうした目的を達成するための手段として、オープンイノベーションに取り組む企業が増えています。

また、オープンイノベーションの対義語としてクローズドイノベーションという考え方もあり、手法によって性質が異なります。それぞれの手法を詳しく解説していきます。

日本企業を急成長させた「クローズドイノベーション」

企業が基礎研究から技術開発までを内部で行い、価値の想像を目指すのがクローズドイノベーションです。従来の日本企業はクローズドイノベーションにより切磋琢磨し、日本の経済成長に貢献してきました。

昔は、競合他社との競争が現在ほど激しくなかったため、製品の開発のスピードも遅く、社内で研究開発を行うのが中心で、自前主義でも十分に利益を増やせました。

実際に「パナソニック」や「ソニー」といったメーカーは、自社技術を保護して開発することでイノベーションを実現してきました。いわゆる、知的財産を保護するブラックボックス化戦略が有効だったのです。

しかし、現在はクローズドイノベーションによって開発効率が下がり、自前主義で収益を増やし続けるのが難しくなってしまいました。先述したように、消費者の購買行動の変化とテクノロジーの発達により、自社だけでニーズのある製品を開発するハードルが高くなっているためです。

価値観の多様化が進んだ現代にもとめられる「オープンイノベーション」とは

そうした市場の変化を受けて、企業は自社だけでノウハウや技術を囲い込むのではなく、より良いアイデアを求めて、外部との連携を求めたイノベーションの必要性に気づき始めました。

実際に研究開発機能があまりないシスコ社が、外部資源を活用して技術開発を進めてきた事例もあります。シスコ社の場合、M&Aや協業により研究所などの開発拠点を所有せずに、マーケットを開拓していきました。

 

ベンチャー企業と大手企業のオープンイノベーション事例

アメリカで確立されたオープンイノベーションですが、今や国内の大手企業も積極的に取り組んでいます。これから、そうした国内企業の事例を紹介します。

森永製菓×アンジー「おかしプリント」

森永製菓は、外部の組織と連携して食料や健康といった分野でのイノベーションを目的とする、森永アクセラレーターというプログラムを実施。2016年に同プログラムを実施した結果、ベンチャー企業と共同開発した「おかしプリント」という事業が生まれました。

おかしプリントはユーザーがスマホで撮った写真や画像を利用して、お菓子のオリジナルパッケージを作れるWebサービスです。このオープンイノベーションでは、お菓子以外の分野への進出も視野に入れて、画像加工やWeb制作を担当するベンチャー企業とコラボ。結果的に、ベンチャー企業側にもよい影響をもたらしました。

「おかしプリント」リリース後も、ベンチャー企業側がサービス改善を続け、顧客満足度やユーザー体験が高いサービスへと進化しています。

三菱UFJ信託×スマートアイデア「信託クエスト」

大企業とベンチャー企業の協業により、アプリケーションを開発した事例は他にもあります。三菱UFJ信託銀行のお客様向けアプリ「信託クエスト~剣と魔法とお金の物語~」はオープンイノベーションにより誕生したサービスです。

信託クエストは、スマホやPCからプレイできるWebサービス。ストーリーを進めることでユーザーがお金の知識を学べ、NISAやiDeCoといった資産運用を理解できるようになっていきます。三菱UFJ信託の「お金の、育て方」コンテンツとして提供されています。

三菱UFJ信託はお金に関するノウハウを提供し、共同したスマートアイデア社は、スマートフォンアプリ開発の技術提供やコンテンツ作りの技術を提供することで1つのサービスが生み出されました。同プロジェクトにより、従来までにリーチし難かったターゲット層へアプローチすることができ、資産運用に興味を持ってもらい、投資に関する知識を高めてもらうための役割を果たしています。

 

途上国からアイディアを逆輸入!?「リバースイノベーション」

オープンイノベーションのように外部から技術やノウハウを取り入れる手法として、リバースイノベーションという概念もあります。この手法はダートマス大学のゴビンダラジャン教授とクリス・トリンブル教授の両者が理論化したことが始まりだと言われています。

ここからは、リバース・イノベーションについて詳しく解説します。

リバースイノベーションとは

リバース・イノベーションは、新興国や途上国に開発拠点やマーケティングの拠点を置き、ゼロから開発した製品や商品などを先進国に展開させる戦略のことを指します。

新興国や途上国だからこそ生まれる視点をもとに、新たな発想や需要を見出し、市場開拓や新しい技術を創出していけるのが特徴です。

企業がグローバル展開を進める際、現地での人員確保が最大の課題になりがちです。そこで、比較的に進出しやすい新興国、途上国の優秀な人材を活用し、リバースイノベーションに取り組むことで、先進国とはまた違った視点でサービスや製品開発を行えることが期待されます。

リバースイノベーションが注目される理由

従来は、先進国で製造された商品の廉価版を製造して、企業は途上国に製品を展開していました。しかし、この方法で開発・製造した商品は、新興国に適した商品を供給できず、多くの人々から廉価製品が受け入れられなかったのです。

新興国、途上国では、インフラが不安定ななかで安定的に製品が稼働できたり、どんな人でも扱えるよう機能操作の分かりやすさ等といった点で優秀でなければなりません。そうした点は、実は先進国の消費者にとっても価格以外の新たな価値として見出され、広くマーケットに浸透しやすいという素晴らしい特徴があるのです。

 

リバースイノベーションによる事例

リバースイノベーションの国内での事例を紹介します。

LIXILの事例「みんなにトイレをプロジェクト」

LIXILは、リバースイノベーションによって水洗トイレが普及していない発展途上国の消費者に向けて、節水型水洗トイレ「SATO」を開発しました。シンプルなデザインで低価格、かつ少量の水で洗浄できる点が、発展途上国のトイレ事情にマッチしました。

途上国では、多くの人々が野外や汲み取り式トイレで排泄するため、衛生面やプライバシーなどの課題があります。そこで、LIXILはSATOという簡易的な水洗トイレの仕組みを開発。人々が排泄したあと水を流すと便器内の弁が開閉するため、嫌なにおいや害虫の発生を防げるようになりました。

2014年から節水型水洗トイレの実証実験を始めて、2019年には約200万人以上の衛生環境を改善しているそうです。

「SATO」は途上国のために開発したトイレですが、下水道のインフラコストが問題となっている一部の先進国でも、「SATO」の導入が検討されているそうです。

PayPayの事例「インド初のキャッシュレス決済」

大手携帯キャリアのソフトバンクとIT企業のヤフーが共同出資しているPayPay株式会社。PayPayは、2018年10月からQRコード決済アプリを展開していますが、インドの大手IT企業「Paytm」と提携して開発が行われました。

途上国では「現金を持っていると盗難に遭う可能性がある」「偽札を渡される」といったリスクがある一方で、少子高齢化が進む日本では人手不足やコストにより、現金を管理するのが難しいという実情があります。こうしたお互いの事情がマッチして、より便利な決済を実現するためインドの企業と提携るすことになりました。

高い還元率や手数料無料などのキャンペーン、手軽な導入コストにより、PayPayはユーザー数や取り扱う事業者を拡大しています。

 

企業がオープンイノベーションを活用することのメリット

ここまでさまざまなイノベーションに関する事例を紹介しました。市場が成熟しているほど、サービスに新しい付加価値を創造するためにオープンイノベーションのニーズが高まっていることを理解いただけたでしょうか。

次に、企業がオープンイノベーションに取り組むことで実際にどのようなメリットが得られるのかを紹介します。

新しい技術を効率よく取り入れることができる

外部の資源を最大限に活用することで、今まで社内のみでは採用されることはなかった考え方や技術を新商品の開発と共に取り入れることができます自社に足りないリソースを効率よく確保でき、事業の成長に活かすことができるようになります。

自社の強み・弱みを把握することができる

オープンイノベーションにより外部資源を取り入れることで、自社の強み・弱みが明確になります。客観的になにが自社の強みで何が自社にとって弱みなのかを把握できるため、強みをより伸ばしていくべきなのか、弱みを克服するために改善に力を入れるべきか、今後の事業方針を決めやすくなります。

多角的な面から消費者のニーズを把握できる

消費者のニーズはどんどん多様化しています。開発している間にニーズが先細ってしまったり、期待されていた市場が成長しなかったりと、今後は最適な商品を最適なタイミングで世に出すのがさらに難しくなっていくでしょう。

常に変化していく消費者ニーズをうまく取り入れる意味でも、オープンイノベーションは外部の情報を効率よく取り入れるチャンスです。ニーズを的確にとらえ、自社だけではなく他企業のノウハウも取り入れ、ビジネスの最適化を図ることができます。

 

オープンイノベーションに取り組む際の注意点

様々な可能性を秘めたオープンリノベーションですが、他社との共同である以上、ある一定のリスク管理と覚悟が必要です。

すべてをオープンにすべきではない

外部企業との提携によりアイデアや技術を共有すると、必然的に自社のノウハウを共有すべきタイミングもあるでしょう。提携後に、提携した企業が自社のノウハウを活用して商品開発するリスクもないとは言えません。

情報漏洩を防ぐために情報を開示する範囲を決めたり、機密保持契約を結んでおくことが重要です。

体制構築への労力を覚悟しよう

必ずしも社内の全ての人々がオープンイノベーションに賛同してくれるとは限りません。また、オープンイノベーションを実践する体制が社内に出来ているとも限りません。外部との交流を進めるために、社内でオープンイノベーションに対する理解を得ることや、事業を推進していくための体制構築への労力を、あらかじめ覚悟しておきましょう。

短期的な成果に結びつくものではない

オープンイノベーションは決して短期間で成果が出るものではありません。提携が進まなければビジネスにならず、周りから不信感を抱かれるリスクもあります。周囲の理解を得るために、事前に根回ししておくなど、取り組みを理解してもらう努力が必要です。

収益の分配を決めておこう

もしオープンイノベーションが成功し、商品やサービスを世に出せた場合、収益の分配を考えておかなければいけません。収益の分配はトラブルになりやすいので、あらかじめ分配については決めておきましょう。

 

ベンチャーが大手企業に必要とされる時代

プロダクトサイクルが短い昨今は、国内でも企業が外部組織と提携してオープンイノベーションを実施する事例が増えています。また、短期間かつ低コストで新商品を開発できる手法は、ベンチャーにとっても魅力的です。

ぜひ、企業間の交流会や業界内外のイベントへ参加するなど、アンテナを広げて相性の良いパートナーを探してみてください。これまでになかったようなアイデアと自社事業がマッチングして、新たなビジネス価値を生み出せるかもしれません。

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