スタートアップが取り入れるべき特効薬「オープンイノベーション」とは?
2022年04月19日
2022年04月19日
日本では2015年ごろより「オープンイノベーション」というキーワードが注目を集めています。
このオープンイノベーションという考え方は大企業を中心に取り組みが進められていますが、急激なグローバル化が進む市場においては、スタートアップ企業ほどオープンイノベーションを取り入れるべきと考えられます。
今回はオープンイノベーションとは何か、オープンイノベーションに取り組むにあたって考えるべき課題や成功するためのポイントなどについて解説します。
そもそもオープンイノベーションとは何なのか、スタートアップ企業がオープンイノベーションを取り入れるべき理由とは何かを考えていきましょう。
「イノベーション」とは、オーストリアの経済学者シュンペーターの著書『経済発展の理論(1912)』の中で「新しいものを生産する、あるいは既存のものを新しい方法で生産すること」と定義しています。
さらに、シュンペーターはイノベーションの例として、
を挙げています。
時代は下って2000年代の初め頃、アメリカの経済学者ヘンリー・チェスブロウがイノベーションの概念の一つとして、「オープンイノベーション」を提唱しました。
オープンイノベーションとは、異業種の企業やベンチャー企業はもちろん、大学などの研究機関、起業家といった外部から新たなアイデアやノウハウ、技術を募集・集約し、革新的な製品やサービス、ビジネスモデルを開発するイノベーションを指しています。
企業が社内のリソースのみに依存する自前主義から脱却し、既存の枠組みの外にアイデアや技術を求めることで、市場の高度で多様な要求に応えるとともに、事業開発の時間短縮を図ります。
従来の事業開発は自社のリソースのみで研究・開発を行い、市場のニーズに応える製品・サービスをリリースすることが一般的な姿勢でした。
しかし、昨今は急激なグローバル化によって市場から求められるレベルが高まり、さらには事業開発にかけられる時間やコストが短縮傾向にあるため、自前主義から「既存のネットワーク外のアイデア・技術を活用する」という発想に切り替わりつつあるのです。
スタートアップ企業は大手企業と比べて社内のリソースも乏しく、事業開発の時間やコストにも余裕がありません。だからこそ、オープンイノベーションによってスタートアップ企業が大手企業と連携し、Win-Winの関係でビジネスをすることが、競争の激しいグローバル化社会で生き残るための手段となるのです。
オープンイノベーションは、日本ではあまり耳慣れない言葉ですが、その概念が生まれたアメリカでは日本の約1.5倍実施されています。ここでは、オープンイノベーションの協業相手とそれぞれの事例を解説します。
複写機、レーザープリンターの製造販売で知られる富士ゼロックス株式会社は、オープンイノベーションによるプロジェクト「四次元ポケットPROJECT」を展開しています。
「四次元ポケットPROJECT」は、国民的アニメ『ドラえもん』に登場する「ひみつ道具」を、実際に中小・ベンチャー企業6社と共同で開発した、オープンイノベーションのプロジェクトです。
同プロジェクトでは「セルフ将棋」「望遠メガフォン」「室内飛行機」といった、ドラえもんのひみつ道具のような革新的な製品がリリースされています。それらは、富士ゼロックスと中小・ベンチャー企業のオープンイノベーションによって発想と技術力、ノウハウを集約して開発された製品ばかりです。
ひみつ道具は、中小・ベンチャーが持つ技術力を富士ゼロックスが旗振り役となって集約したからこそ完成した、大手と企業中小・ベンチャー連携のオープンイノベーションの成功例と言えるでしょう。
サプライヤーとはバイヤーの対義語で、製品を供給する人や企業、原料を輸出する業者や国のことを指します。
企業とサプライヤーのオープンイノベーション事例としては、大手化学メーカーとして知られる「花王」が世界初のインク技術「水性インクジェット用顔料インク」で、プラスチックフィルムや紙など柔軟性に富む基材から構成される「包装軟包装用フィルム印刷」を実現した事例が挙げられます。
この技術は2017年からは大手食品メーカーの食品パッケージや包装資材の企画・印刷に活用されています。
教育機関もオープンイノベーションに積極的に取り組んでいます。これまで、東京大学や早稲田大学、慶應義塾大学など8大学が、オープンイノベーション支援対象として選ばれています。
たとえば東北大学の「オープンイノベーション戦略機構」は、総長直下に設置し、経営トップ配下の強力な権限で、学内の独立した組織として産学連携を集中管理する体制を構築。企業戦略に深く関わる事業化フェーズのオープンイノベーションを展開する、プラットフォーム構築に取り組んでいます。
東北大学の強みである「ライフサイエンス(未来型医療)」と「マテリアルサイエンス(材料科学)」の2分野を対象とした大型産学連携拠点を形成しています。
海外では競合する企業同士が市場のニーズを満たす製品を共同開発するオープンイノベーションの事例もあります。
P&Gは競合であるCloroxと合弁会社「The Glad Products Company」を設立。おむつの研究を行っていたP&Gが開発した新技術を元に、破れにくいゴミ袋・食品用ラップを開発しました。
企業が一般の顧客やユーザーからアイデアを募り、製品やサービスを開発するオープンイノベーションの事例もあります。
「レゴブロック」でおなじみの「レゴ」は、ファンサイト「LEGO IDEAS」でレゴのユーザーが作ったオリジナルモデルを公開、投票を受け付けるシステムをリリースしています。多くの投票を集めたモデルはレゴが実際に開発し、製品化されています。
また、海外の大手家電メーカー「GE」は、オープンイノベーション専用ページ「GE open innovation」を設立。一般公募アイデアの中でコンペティションを勝ち抜いたアイデア提供者を発表、表彰する取り組みを行っています。
事例からもわかる通り、オープンイノベーションによって事業開発を行うには、他社や研究機関などとの連携が必要不可欠です。
では、初めてオープンイノベーションに取り掛かる場合、何からはじめたら良いのでしょうか?
アクセラレータープログラム(Accelerator Program)とは、加速装置の「アクセル」から派生した英単語で、大手企業がベンチャー企業やスタートアップ企業に対して協業・出資を行い、事業共創の加速と達成を目的とした取り組みのことです。
大企業主催のビジネスコンテストとして実施されることが多く、ベンチャー企業やスタートアップ企業、起業家がプログラムを通してビジネスプランをブラッシュアップさせます。
優れたビジネスプランに選出されたスタートアップや起業家は、大企業からの資金調達やリソースの獲得といったインセンティブが得られます。
大企業側にとっては、社内だけでは生まれ得なかった発想や技術を数多く得ることができ、オープンイノベーションによって事業を推進することで、新たな市場への進出が可能となります。
一方のスタートアップ企業や起業家側にとっては、大企業の豊富なリソースを活用して自社のビジネスを加速させることができ、メンターによるビジネスプランへのアドバイスや大企業からの出資といったメリットを得ることができます。
スタートアップ企業のEXIT戦略のひとつにM&Aが挙げられますが、これは買収した企業、すなわち大手企業からすればオープンイノベーションのひとつの方法となります。
M&Aによるオープンイノベーションの事例としては、グーグルが知られています。グーグルは検索エンジンだけのサービスを提供していましたが、メール機能やカレンダー機能など短期間で次々と新たなサービスを追加してきました。この多くは、自社開発ではなくサービスを提供していた既存のベンチャー企業を買収して自社に取り込んできた背景があります。
スタートアップ企業は、EXIT戦略としてのM&Aだけでなく、オープンイノベーションの観点からM&Aを選択肢として検討してみるのも良いでしょう。
オープンイノベーションに取り組むといっても、多くの企業や人材の中から自社が本当に必要とする連携先を探せなければ、いいアウトプットは生まれません。
そこで、多くの連携先の中から、自社のオープンイノベーションの加速に貢献してくれる人材や企業を見つけ出すマッチングプラットフォームを活用するという方法もあります。
オープンイノベーション・マッチングプラットフォームを以下にまとめました。
国内の大手企業・ベンチャー企業: | eiicon、Linkers、Creww、Open Idea |
研究者・技術者: | PLANET AIDeA、NINE SIGMA |
海外企業: | agorize Japan |
これらのマッチングプラットフォームには、それぞれに強みや特色があるため、事業開発の規模や内容に合ったプラットフォームを使い分けることが重要です。
オープンイノベーションは企業の戦略的発展のために非常に有効である一方、考慮しておくべきリスクも挙げられます。
オープンイノベーションは外部のアイデアや技術を取り入れることになりますが、同時に自社の知識や技術、アイデア、ノウハウなども外部に提供することになります。
自社の特許技術や知的財産、機密情報が外部に流出するリスクが考えられますので、どの組織と提携するか、社外にどこまで情報を開示するかなど、秘密保持について徹底したルール作りが重要です。
オープンイノベーションで得た収益は、自社と提携先で分配しなければなりません。収益は出資した資金を考慮することも大事ですが、アイデアを提唱した者、基幹のビジネスモデルを考案した者など、知的財産に関する権利や適正な収益の分配について議論しておかなければなりません。
これらの点をしっかり考慮しておかなければ、アイデアや技術を盗用したとして訴訟問題にも発展しかねません。
オープンイノベーションには社内だけでは生み出せないリソースやアイデア、技術、ノウハウが得られるというメリットの反面、情報や技術が外部へ流出しやすいというデメリットもあります。
メリット・デメリットの両方を十分に把握しておくことで、オープンイノベーションの導入前に効率の良い体制づくりや、情報流出を防止するためのセキュリティ対策など、硬軟織り交ぜた事業開発をスタートすることができます。
次に、オープンイノベーションの取り組みを成功させるためのポイントをご紹介します。
オープンイノベーションに取り組むためには、外部の組織との連携が必要不可欠です。
外部ネットワークとの連携には自社ホームページでの呼びかけする他に、前述したアクセラレータープログラムやマッチングプラットフォームといった支援サービスがあります。
自社のオープンイノベーションの目的を達成できる連携先と出会うには、各支援サービスの強みや特色を見極めることが重要です。
オープンイノベーションを成功させるためには、社内に専門の部署を組織し、担当者を固定することが大切です。
スタートアップにありがちなのが、オープンイノベーションを任された担当者が財務など別の部署に属し、事業開発に専念できる環境にないことです。また、オープンイノベーション担当者が頻繁に入れ替わるような状況では、安定した事業開発は実現しにくいでしょう。
事業開発のスタートからリリースまで、同じ担当者が責任を持って担当することで連携先との意思疎通もスムーズに行うことができます。
昨今の急激なグローバル化にともなって、大手企業であっても自社のリソースだけでは、市場が求める多様なニーズに応える革新的な製品やサービスを生み出すことが難しくなっています。
オープンイノベーションは新しい製品やサービスの提供に行き詰まりを感じている企業と、独自のアイデアや技術を活用して新たなビジネスチャンスを狙いたいスタートアップ企業・起業家の双方にとって、有効なソリューションとなるでしょう。
今後は企業間でのオープンイノベーションの広がりや関連する支援サービスの展開によって、連携の敷居が下がり、日本のオープンイノベーションが新時代のスタンダードとなる日もそう遠くはないかもしれません。
その他のオススメ記事
2022年02月09日
世の中である企業の製品・サービスが広く浸透すると、今度はそのブランドを維持するために、“常に世に新しい製品・サービスを提供し続けること”を...