近年、M&Aを検討するスタートアップ企業が増加しています。有名な大企業とのM&Aを成功させるスタートアップ企業の事例も注目を浴びるようになってきました。以前はIPO(新規株式公開)をひとつの目標とすることの多かったスタートアップ企業ですが、M&Aという手段もスタートアップ業界で市民権を得るようになってきたのです。
スタートアップ企業にとって、M&Aを選択するのにはどのような理由があるのでしょうか。M&Aを成功させるために重要なポイントと合わせて、この記事で学んでいきましょう。
スタートアップとは
「スタートアップ」という名称は、この数年で特によく聞くようになってきました。そもそもスタートアップとは何なのでしょうか。「ベンチャー企業」と何が違うのか良く分からない、という人もいるかもしれません。
スタートアップを一言で説明すると、「社会的な変革を狙って今までにないビジネスモデルを開拓しようと志す企業」のことです。一方、ベンチャー企業は新規の小規模な企業を幅広く指して使われる言葉です。
ベンチャー企業というのは日本独自の名称であり、アメリカなどでは通じませんが、スタートアップはアメリカでも使われています。発祥が異なるため、実はスタートアップとベンチャー企業との間には明確に定義の違いがあるわけではありません。2つが同じようなニュアンスで使われることもよくあります。
しかし本来、スタートアップと呼ばれる企業にはある特徴が欠かせません。それは「イノベーション」です。スタートアップの目的はすでにあるビジネスを改良するのではなく、これまでになかった新しいビジネスの構築です。そのため、世の中にイノベーションをもたらす企業をスタートアップと呼んでいます。
スタートアップには、ほかにも独自の特徴がいくつかあります。例えば、組織は基本的に即戦力となる人材のみで構成されていて小規模です。短期間で急激に成長させることを目指しており、最終的には、創業者が会社の売却などによって投資資金を回収することで利益を得る、というのが一般的なスタイルです。
スタートアップにとってのM&A
次に、スタートアップにとってM&Aがどのような意味を持つのかを見ていきます。
M&Aとは
M&Aというのは、合併や買収によって複数の企業が統合することを指します。「合併と買収」という意味の英語であるMerger and Acquisitionの略称です。スタートアップに特徴的なものではなく、幅広く様々な企業で行われています。
もともと日本ではスタートアップのM&Aがそれほど一般的だったわけではありませんが、近年では戦略の一環として検討されることが増えてきています。
EXITとは
EXITというのは、新しいスモールビジネスに対する出資者が何らかの形で出資を回収して利益を確定させることです。スタートアップは一般的に、創業者やベンチャーキャピタルなどが出資をすることで新規事業が成り立っています。育てた事業を最終的に売却して利益を得ることを言います。
EXITとしてのM&A
スタートアップがEXITを実現させる手法として注目されているのがM&Aです。他社との契約をまとめて会社を売却することにより、出資を回収します。
EXITにはM&Aの他にもIPO(新規株式公開)という方法があり、日本では従来からIPOの方がスタートアップにおけるEXITの主流でした。しかし、アメリカではすでにほとんどのスタートアップがM&AによるEXIT戦略を描いています。日本でもM&Aという手法が注目され、近年増加傾向にあります。
成長戦略としてのM&Aもある
EXIT戦略としてだけではなく、成長戦略としてM&Aが検討される場合もあります。
M&Aが成功すると、資金調達力の上昇やコスト削減、技術力の向上など、事業の成長に直結する様々な効果が期待できます。結果として自社だけでは難しいような事業拡大も狙えるので、事業を成長させるための手段としてM&Aが戦略的に利用されることが増えています。
なぜスタートアップがM&Aを目指すのか
では、スタートアップがM&Aを目指す理由をより具体的に見ていきましょう。
創業者利益を確定させる(EXIT)
スタートアップがM&Aを目指す最も大きな理由のひとつは、創業者利益を確定させることです。これは、EXIT戦略としての要素が強いM&Aです。
初めに見たとおり、スタートアップが事業を成長させる大きな理由のひとつは、最終的に出資金を回収して利益を手に入れることです。会社を売却すると創業者には会社の評価額が支払われて利益が確定するので、EXITが達成されます。
事業拡大を目指すため
事業拡大の手段として、M&Aが検討されることもあります。成長戦略としての要素が強いM&Aです。
提携した会社の経営資源や事業ノウハウを利用することで、様々なプラスの効果が生まれます。すると、提携しなければ成しえなかったような方向性に事業を展開したり、スピーディーな事業の成長を狙ったりすることも可能になります。
資金調達をするため
資金調達の手段としてM&Aが進められることもあります。これも、成長戦略としての要素が強いM&Aに当てはまるでしょう。
まだ世の中に知られていないビジネスモデルを開拓する若いスタートアップは、どうしても財務基盤が弱くなりがちです。また、実績がないために信用力が低いことも多く、事業のための資金調達がなかなかスムーズにいかないケースがあります。
しかしより盤石な企業と提携することで、財務状況が安定したり信用力が増したりして、金融機関などから資金調達をするハードルが下がります。また、統合先の企業から大きな経営資源が振り向けられ、自社のみで事業を続けるよりも大きな資金を使えるようになることもあるでしょう。
スタートアップにとってのM&Aのメリット
次に、スタートアップにとってM&Aを選択すると、具体的にどのようなメリットがあるのかを解説します。
売却益を確定できる
M&Aを行うことで、売却益を確定できます。これは、EXITを目指すスタートアップにとっては大きなメリットです。
IPOでEXITを目指す場合、実際に上場するまで会社の時価総額がいくらと判断されるのかはわかりません。しかしM&Aであれば、売却額は買い手側との交渉によって決まり、契約に合意した段階で確定します。そして、創業者などの出資者はほぼ間違いなくその金額を手にできるのです。
スピード感を持ってEXITできる
M&AによるEXITには、非常にスピード感があります。これは、IPOと比較したときのM&Aの最大のメリットと言ってもよいでしょう。
株式の公開を実現するためには煩雑なルールがあり、IPOを目指す場合は何年もの期間をかけて準備を整えなければならない場合がほとんどです。そのため、手間もコストも膨大にかかります。
一方でM&Aの場合、必要なのは買い手との合意だけです。IPOのように従わなければならないルールなどはないため、社内体制の整備のために時間をかける必要はありません。結果として、EXITを実現するまでの期間は短くて済みます。
次々に別のビジネスを立ち上げたい起業家などは、スピーディーなEXITを目指していることが多いはずです。そういったケースでは特に、M&AがIPOよりも優れた手段です。
弱点補完・新規事業
M&Aにより他社と提携することで、既存事業の弱点を補完することができます。また、M&Aという手法を利用すれば新規事業への参入も容易です。
経営の弱点をゼロから克服するためには、時間もコストもかかります。しかし、他社がすでに所有しているノウハウと融合させることで、弱点の補完はより簡単になります。また、事業をゼロから立ち上げるのは大変ですが、すでに基盤のできている企業と提携すれば白紙の状態から始める必要もありません。
新規で立ち上げたビジネスモデルがある程度軌道に乗ったら、少しずつ事業を修正したり事業範囲を拡大したりしたくなることもあるでしょう。そのような一歩先のステップにも進みやすくなるのは、M&Aの大きなメリットです。
シナジー効果を期待できる
シナジー効果の発生は、M&Aの最大のメリットのひとつです。
複数の会社が連携することで、自社だけでは実現することのできなかったコストの削減や売上増加、技術力の革新など、プラスの相乗効果を期待できます。この効果をシナジー効果と呼びます。
他社の持つノウハウや資源、技術などを融合して、単純な合計値にとどまらないプラスの効果が生じれば、売り手にとっても買い手にとっても利益のある話です。
スタートアップにとってのM&Aのデメリット
上記において、スタートアップがM&Aを行うと多くのメリットがあることを紹介しましたが、一方で、デメリットにも目を向けておくことも重要です。
経営の自由を失う
スタートアップがM&Aを行うことによる最大のデメリットは、経営の自由を失うことでしょう。
当然ですが、M&Aによって経営体制は変化します。それまでは創業者が中心となって方針を立てていたかもしれませんが、会社を売却してしまうと、買い手側の経営方針に従わなければいけなくなります。意思とは反する方向へと事業が進められる可能性も考えられるでしょう。
交渉の段階でできるだけ事業の将来像についてもすり合わせをしておくのが大切ですが、もしも完全に今の状態のままの裁量権を残しておきたいということであれば、M&Aは最善の方法ではないかもしれません。
しかし、経営者が創業者利益を確定させたら会社を手放してまた新たな道へ進みたいと考えているような場合であれば、経営の自由を失うことはデメリットとはならないでしょう。
企業文化の統合に努力が必要
企業文化の統合は、一筋縄ではいきません。複数の会社をひとつにするのは容易ではなく、特に目に見えない企業文化といったようなものをまとめるのは大変でしょう。これはM&Aの難点とも言えることであり、売り手側と買い手側で企業の体制が全く異なる場合には特に努力が必要となります。
また、少数精鋭で事業が進められていることの多いスタートアップでは、一般に各々の従業員が大きな裁量を持って仕事をしています。しかし会社規模が大きくなると、仕事の進め方も変えざるを得なくなり、自由な決定ができなくなった従業員にもストレスがかかってしまう場合があります。
現場レベルでの統合がうまくいかずに軋轢が生じると、期待通りのM&Aの成果が上がらなくなってしまいます。従業員に対するケアが不十分で不満を解消させることができなければ、最大の戦力であるはずの従業員が退職するというマイナスの結果となる可能性もあります。
企業価値評価はIPOより低め
一般的に、M&Aにおける企業価値の評価は低くなる傾向にあります。IPOの方が高い評価が付くことが多く、特に将来性が見込めたり技術力が高かったりする企業には、非常に高額な時価総額がつくこともあります。さらに、上場後に企業価値が上昇した場合、IPOをした場合であれば、その分の利益も得ることが可能です。一方、M&Aで売却が済んだ後に企業価値が上昇しても、利益を得るのはもちろん買い手側の企業です。
ただし、高いシナジー効果の狙える企業に適切にアプローチをすることで、M&Aであっても驚くような評価がされるケースはもちろんあります。そのため、交渉やアプローチの方法が重要と言えるでしょう。
M&Aを成功させる秘訣
スタートアップ企業がM&Aを行うことについてのメリットとデメリットの両方を理解していただいた上で、いくつかのポイントに注意することで、M&Aの成功確率は上げられます。
赤字があっても業績が伸びている時に行う
スタートアップがM&Aを行うのに一番良いタイミングは、業績が伸びているときです。たとえ赤字であったとしても、大きなポテンシャルのある事業を手掛けていて業績も上向きなのであれば、買い手側の企業からは高い評価を付けてもらえることが多いです。
そもそもスタートアップは新しいビジネスモデルを創造しているため、初めは赤字が続くことも珍しくありません。そのため、買い手側の企業も現時点での採算性だけではなく、将来的に爆発する可能性を考慮しながらM&Aを検討しているのです。
実際に有名な大企業が赤字続きのスタートアップを買収するケースはあり、その中には結果として、世の中に大きな影響を与える革新的な事業に成長した例もあります。業績が上向きで今後も伸びていく見込みがあるのであれば、赤字であることを気にしすぎずに前向きに交渉に挑むとよいでしょう。
ただし、短期的な資金繰りがつく程度の余裕は常に確保しておくことがポイントです。財政的に厳しい状況の場合、買い手側に足元を見られて自社に不利な条件を提示されても、交渉をして良い条件をとるのが難しくなってしまうからです。M&Aを成功させるために、ある程度の短期的な余裕も持っておけるとさらに良いでしょう。
継承後のマネジメント
事業を安定的に成長させるためには、M&A実施後のマネジメントが非常に重要です。M&Aは契約が成立したら終わりという訳ではありません。人事待遇、企業文化、システムなど、2つの会社の様々な面を統合する必要があります。
M&Aにおける実質的な統合プロセスはPMIと呼ばれますが、このPMIをきちんと策定しているかどうかがM&Aの成否を左右すると言っても過言ではないのです。
統合がスムーズに進まないせいでM&Aの効果を活かしきれなかった、というのは非常にもったいないことです。成長戦略としてのM&Aを狙っている場合は特に、交渉の段階からM&A実施後の統合プロセスを視野に入れて話し合いを進めることが必須です。
M&Aでワンランク上の経営に
スタートアップにとって、IPOと比べてM&Aは比較的容易にEXITを実現させる手段となります。また、次の段階へと事業を拡大させるための成長戦略の一環としても、M&Aは有効です。最近では、心理的にも垣根が低くなりつつあり、日本人の経営者にも広く受け入れられるようになって胃ます。EXIT戦略や成長戦略の選択肢として、ぜひM&Aも視野に入れてみてください。
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