「引き継ぎには2年かけるつもりです。結局、会社と会社の繋がりは、人と人との付き合いで成り立っているので、現場で取引先の方と直接やり取りしながらでなければ、技術というものは引き継げませんから」そう語るのは、東京で排水処理機器の製造とメンテナンス業を営む有限会社 増澤技研の代表、佐藤清和様。そんな佐藤様に、本事業を先代から引き継いだのち、多くの修羅場を乗り越えて、今回のM&Aを決断されるに至るまでの経緯を伺ってまいりました。
譲渡企業 | |
---|---|
社名 | 有限会社増澤技研 |
業種 | 製造・メンテナンス業 |
拠点 | 東京都 |
譲渡理由 | 後継者不在 |
譲受企業 | |
---|---|
社名 | ミズカラ株式会社 |
業種 | 製造・メンテナンス業 |
拠点 | 大阪府 |
譲受理由 | 事業拡大 |
創立3年目で先代が急逝、その後37年間かけて実績ゼロから着実に市場シェア拡大
人生最初の就職先だった街の工場が、とある理由で閉鎖となり、再就職を求めて人材バンクに登録した佐藤様を、当時、まだ創業したての増澤技研に招き入れたのは、先代であり創立者の増澤様。
ところがその増澤様は、創立3年目の志半ばにして急逝されてしまいます。そこから急遽、彼に代わって社長業を引き継いだのが、当時34歳だった佐藤様でした。
時の日本は、プラザ合意を経て急激に円高が進んだ結果、それまで好調だった輸出産業は一転、農林水産物も、鉱工業製品も、日本人労働でさえも、全ての日本産品は競争力を失って、倒産する企業が後を立たない状況だったそうです。
増澤技研の主な得意先となるカメラ関係のレンズ工場も、例に漏れず多大な影響を受けており、加えて創立3年目という新しい会社の持つ信頼や実績は、この大きな不況の波を耐えるには心細く、従業員全員がボーナスなし、給料減額というギリギリの状態で、なんとか切り抜けたのだといいます。
「本当に苦しかったですが、逃げることはできませんでした。生きるために、食べていくために、とにかくやるしかなかったんです。初めは、本当に売れなくて、営業が大変だったんですよ。実績なんて無いに等しかったし、業界も不景気だったし。でも今は、自分たちの技術が広く社会に認められて、上場企業とも付き合えるようになりました。会社の得意先の9割は、大手企業なんですよ。このことは、本当に感慨深いです。」
3年前から始めた譲渡先探し、最も大切にしたのは「想いを引き継いでくれること」
経済不況という大きな荒波の中で、心の準備をする間もなく社長業を引き継いで、会社を存続させていくということの難しさは、想像を超えるものだったに違いありませんが、そんな血と汗の結晶ともいえるこの増澤技研を、次世代へと継承していく決心をされたのは、歳を重ねていくにつれ、技術的にも、能力的にも限界を感じるようになったからなのだそうです。
「どの分野でもそうですが、技術革新は急速に進んでおり、常に新しい技術が世の中に登場しています。また、あっという間に様々なものがデジタル化されていきました。ですが、自分は歳もとったし、アナログ的な人間ですので、これらについていくのは楽ではありません。
これから、さらにこの事業を伸ばしていくには、新しい技術を理解して取り入れることができ、デジタル化にも柔軟に対応できる人でなければならないと思ったんです。」
そう語る佐藤様が、譲渡先を探し始めたのは、今から3年前。はじめは、東京商工会議所から紹介を受けていたそうなのですが、全く異なる業界出身の企業が多く、商談を先に進める気になれなかったとのこと。
「私たちが扱っている技術は、とても特徴的なんです。その昔、カメラのレンズには光の屈折率を高めるために、イタイイタイ病で悪名高いカドミウムが入っていました。もちろん、現在はカドミウムの使用は禁じられていて、代わりに鉛が入っています。私たちの技術は、工場から出る排水に含まれる鉛を取り除くもので、先代はこれで特許を取得しました。
今は、その特許は切れてしまいましたが、その後、装置のコンパクト化に成功することで競争優位性を保ち、光学カメラ業界での納入実績は7割もあるんですよ。でも、ここまで来るのには大変な苦労がありました。だから、この重金属処理技術をきちんと理解してくれて、私たちの想いと一緒に受け継いでくれる相手でないと譲りたくないと思っていたんです。」
そんな佐藤様は今年の2月、東京都中小企業振興公社を介してバトンズを知り、バトンズのアドバイザーである辻本を通じて、ミズカラ株式会社の代表・新宅和彦様に出逢われます。
「新宅さんのところは、地下水から飲水を作るという、いわば“川上”の仕事。私のところは、汚い水を綺麗にするという“川下”の仕事。両者は違うように見えて、技術的には多くの共通点がありました。だから、ゼロから説明する必要もなかったし、話をスムーズに進めることができました。彼らには確かな知識と基盤があるので、この会社であれば私たちの技術と想いをしっかりと引き継いでくれるだろうと思いました」と話す佐藤様は、ご成約いたるまで10回を超える打ち合わせを通じて、丁寧に詳細を詰めていかれたそうです。
引き継ぎにかける期間は2年間、丁寧に継承したいのは“人と人とのつながり”
そんな佐藤様にとって、人生初のM&A。一連のやり取りにおいてサポートにあたったバトンズのアドバイザーである辻本はどんな存在だったのでしょうか。
「辻本さんとは、ざっくばらんに何でも話せる良い関係でした。会社の中身を調べて、いろいろな書類を提出するのは大変でしたが、辻本さんがそれらを元に、私たちの現状を背伸びすることなく、現実味のある内容に表現してくれたのは助かりました。」
ようやく少し肩の荷も降りて、安堵していらっしゃるのだろうと想像し、譲渡後はどんなことをされたいのかを最後にお伺いすると「譲渡後も会社がきちんと伸びていくように、2年かけて引き継ぎをしていくつもりです。その後のことは、まだ何も決めていません」とおっしゃっておられました。
長くて半年~1年かけて引き継ぎをされる方が多い中、2年という時間をかけて引継ぎを行う理由をお伺いすると「結局、会社というものは、人と人との付き合いの上に成り立っているんです。それに加えて、技術的なことを引き継ぐには、現場で実際に見聞きしてもらう必要があります。私たちの得意先は全部で何百社もありますから。ヨコの関係やタテの関係を理解してもらいながら進める引き継ぎは、どうやっても2年かかると思うんです」とのこと。
結果的に、3年もの歳月がかかったものの、こうして納得がいくお相手が見つかったのは、佐藤様が常に誠実な姿勢で対峙された結果の賜物なのだと感じました。
佐藤様と有限会社増澤技研の今後の更なるご活躍を、バトンズ一同、心より応援いたしております!
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