「矢島郁郎先生をご存知ですか」そう言って、戦後日本の受験勉強界の変遷と、それを盛り上げてきた予備学校の有名な講師達の名前を挙げながら、有限会社 矢島塾の歴史を紐解いてくださったのは、同塾の経営者であり講師でもある谷口 晃三様。かつて、日本の受験英語界で名を馳せ、今でも著書が本屋に並ぶ業界の重鎮にして矢島塾の創始者・矢島郁郎先生から経営を引き継いた谷口様が、事業譲渡にあたって守りたかったもの、大切にしたことは何だったのかを伺ってまいりました。
全盛期の塾生600人、著名人も輩出する東京杉並区の由緒正しい学習塾は創設70年
戦後まもない日本といえば、GHQ占領政策の一環として英語教育がスタートしたばかり…そんな世情の中で、矢島先生が英語に堪能だったのは、駐留軍人の養子となって山形の米軍キャンプ場で2年間生活していたからなのだそうで、そのまま義理の父親と一緒にロサンゼルスへ移住するはずが、急遽制定されたマッカラン法によって困難となり、最終的に養子縁組は解消へ…。実家に戻ったのちは東京外語大学に入学し、そこで出会った奥様と学生結婚という形で結ばれたことから、生活を維持するために自ら開いた寺子屋が矢島塾だったのだそうです。
そうして少人数からスタートした矢島塾は、学習塾が多くなかった時代に大変評判となり、高度成長経済の勢いもあって右肩上がりに成長し、全盛期には600人もの塾生を抱え、4階建ての自社ビル校舎が毎日満員御礼だったのだとか。
なんと80歳まで教壇に立たれたという矢島先生は、今から8年前にご逝去され、その後継者となられたのが先生の娘婿に当たる谷口様で、それまで普通のサラリーマンだったそうですが、結婚を機に塾を手伝うようになって、数学の教職免許を取得したのもご結婚後とのこと。先生から経営を引き継いでからは、講師という仕事を愛する奥様と手を取り合い、この由緒正しい学習塾を支えて来られたのだそうです。
「自分の子供を通わせたい」全ては、戻ってきてくれる卒業生たちのために
そんな谷口様が「創設以来これまで一度も、広告宣伝というものを打ったことがない」とおっしゃる矢島塾は、塾生たちの紹介で集客が成り立っており、中には親子代々に渡って通ってくださるケースも多いとのこと。「自分の子供を通わせたいと言ってもらえるのは、本当に嬉しいことです」と微笑む谷口様は、少し間を置かれて「ですが、私も今年で70歳。歳をとるにつれ、彼らの子供達が戻ってくるまで待ってあげられるだろうか…そんな風に考えるようにもなりました」と続けられ、「とはいえ、途中で断るのも無責任だし、矢島塾が後世に残すべき優れた塾だという自負もある。だから、何とか方法はないものだろうかと調べていくうちに辿り着いたのが、M&Aという選択肢だったです」とも。そこで、中小企業を支援する施設から紹介してもらったのがバトンズで、試しに登録してみたところから谷口様の本格的な後継者探しが始まったのだそうです。
「一方で、いつかは誰かに事業を譲渡したいと考えていましたし、息子は医療関係なので塾を継ぐのは無理だと分かっていたので、自分なりに引退する準備は進めてきました」とも語る谷口様は、実は2年前に4階建ての自社ビルを売却してリースバックする形に切り替えることで資金を調達し、銀行の借り入れを全て返却していたとのこと。
「資産はないが、負債もない。矢島塾が70年という歳月をかけて培ってきた実績とノウハウ、そして子供を連れて戻ってきてくれる温かくて優秀な卒業生たち…それが、今の矢島塾の価値の全てでした」とも。そんな万全な準備もあってか、バトンズに登録後わずか1ヶ月足らずで矢島塾が受けた問い合わせの数はなんと17件…と、谷口様の候補者選びは順調に進んでいきました。
初めてのTOP面談で意気投合、託したのは熱意あふれる後輩の個人事業家
とはいえ、今まで経験したことのないM&A…初回のTOP商談に臨まれた際は「いい人だったらいいな」というお気持ちひとつだったそうです。そして、そんな初回面談で巡り合った相手こそが、最終的な売り手先となった石川 恭彦様でした。
「初めて問い合わせをくれたのが石川さん。その後、すぐに会いにきてくれたのも石川さん。聞けば、同じ大学出身だということで、初めから好印象でした」と語る谷口様に、石川様に矢島塾を託すことに決めた理由をお伺いすると「実は、半年後に現在のリースバック契約が終わる予定でした。そのことを石川さんに伝えると、 “じゃあ、他の場所に新しい校舎を作りましょう”と、即答してくれた。お会いして1時間くらいしか経っていませんでしたが、既に彼が矢島塾の未来を真剣に考えているのが伝わってきて嬉しかった。いくら自分が相手のことを良いと思っていても、交渉というものは相思相愛でないと話が前に進みません。でも、石川さんも短い時間の中で、こちらを気に入ってくれた。そのことに、なんだか感じるものがあったんです」とのこと。
「そして、この矢島塾を100年続く企業にしましょう、とも言ってくれました。彼は、資金面もきちんとしていたし、外資系の投資会社に勤めていて、私にはないマネジメントセンスや帳簿を読む力を持っている。加えて、誠実で真面目な人です。だから、その言葉に説得力がありました。この人に託せば、きっと矢島塾の未来は大丈夫だろうと思ったんです」とも。
そして迎えた、最終契約…谷口様の背中を最後に押したのは、バトンズのサポートだったそうです。「私はM&Aに関しては素人、譲渡先の石川さんは個人事業家ということで、本当に大丈夫なのか…少なからず不安はありました。だから、バトンズがサポートしてくれて、買い手への太鼓判を押してくれたのは有り難かった。おかげで、安心して最終捺印ができました」とのこと。
実は谷口様…、今回の譲渡に際して「暖簾代=0円」で契約を結ばれたとのことで、その理由をお伺いすると「石川さんは、荻窪という好立地に新校舎を構えようとしてくれました。そんな投資をしてくれる石川さんに、それ以上の負担を掛けたくなかった。私が矢島塾を誰かに譲りたかったのは、子供を連れて帰ってくる卒業生のためです。自分は年金をもらえているので、贅沢な暮らしでなければなんとかなります。だから、暖簾代=0円でもいいと思ったんです」とも。
今後は経営の第一線を退かれ、奥様と一緒に講師という違う立場から矢島塾を支えていきたいとおっしゃる谷口様は、「卒業生たちのために」というご自身の想いを最後まで首尾一貫され、納得できる事業継承先を見つけることができて、とても嬉しそうでいらっしゃいました。
谷口様の今後の更なるご活躍を、バトンズ一同、心より応援いたしております!
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