福岡市のウェブ制作会社で働く仲川様(仮称)は、2020年秋に同市のレンタルフォトスタジオ3店舗を買収(M&A)されました。会社員として働きつつM&Aを行うことになったきっかけと、キャリアの選択肢として副業M&Aが持つ可能性について伺いました。
コロナ禍で給与1/3カット。チャレンジできるのはこれが最後とM&Aによる起業を決意
仲川様にはM&Aを行おうと決心した3つの理由があったといいます。
「一つ目は、福岡市が元々スタートアップ支援に積極的な都市なのですが、以前、そういったスタートアップを支援する環境にいたことがあり、自分自身も起業に興味があリました。
とはいえ現在51歳。この年齢で、しかも地方都市で起業するのはかなりのリスクです。そこで正社員として働きながら起業できたらと考え、ゼロからやるよりすでに事業を興されていて実績のある事業を引き継げるとしたらM&Aしかないと考えました。
二つ目は、ちょうど昨年コロナの影響で給料が大幅にカットされたのです。減った分の給料を補えればいいなという気持ちで、あくまで“副業としてM&A”をやろうと決めました。
そして三つ目が、これまで事業承継や後継者不在に悩まれている経営者と接する機会が多く、常々、誰かのお役に立ちたいと思っていました。
前職で関わることが多かった地方の電子パーツ屋さん、模型屋さんといった小売店は、高齢のご夫婦が店舗経営しているケースが多く、後継者不在で悩まれている方をたくさん目にしてきました。
また、前職では社長交代という事業承継イベントにも関わったのですが、同族経営でも苦労は変わらず、何かの事業を引き継ぐとはこんなに大変で重要なことなんだというのを感じ、次第にたとえ血縁が関係なくとも、自分でもできるんじゃないかと考えるようになりました」。
事業承継問題を身近に感じつつも、第三者が事業を引継ぐことで会社が存続・発展する可能性を仲川様は見出されていました。バトンズにご登録されてからは、自宅近辺の案件を探しておられたそうです。
「1〜2ヶ月ほどバトンズで検索を続けていたんですが、あるとき自宅の近場で整骨院、レンタルスペース、レンタルフォトスタジオの案件が良いなと思い検討していました。
しかし、興味はあったものの整骨院の案件で資金調達を行うにはオーナーは事業経験があることが条件だったため、業界未経験の私は断念せざるを得ませんでした。レンタルスペースの案件は迷っているうちに成約が決まってしまいまして。レンタルフォトスタジオの案件に絞りアプローチを始めました」。
マッチング申請し売り手オーナー様にアプローチする際、仲川様は猛烈なラブコールを送り続けたとおっしゃいます。
「私に注目してください!絶対に損させません!というメッセージをたくさん書いたんです。買収の希望動機を書くときにバトンズの参考例文が出てきて、それが非常に役立ちました。後から売り手オーナーさんに聞いたことですが、私がアプローチしていた時はすでに複数の買い手、しかも法人からも引き合いがあったそうなんです。しかし、割と早い段階で独占交渉を開始することができ、最終的に私に決めてくださいました」。
お相手の背景に共感し、何が課題なのかを一緒に考える仲川様の親身な姿勢が売り手オーナー様に刺さったのでした。
「面談でお話しした時、苦労されていたポイントが自分ごとのようにすごく良く理解できたんです。そういった部分で共感できたのがお相手にも伝わったんじゃないかなと思います」。
首尾よく面談を終え事業運営する上での課題も共有できましたが、いざ財務状況の確認やフォトスタジオを訪問してみると、予想以上に運営のテコ入れが必要な案件であることが判明しました。
経営は放置状態で荒れたスタジオ・・・、それでも「いける!」と思った
「ターゲットやサイト運営、固定費、売上、集客等について詳しく伺っていくと、実は8年前のオープン当時からまったくサイトが更新されていない状態だったことが分かったんです。割とおおらかな方だったので私が主導する形で根掘り葉掘り事業についてお伺いしていきましたが、予想以上に補修費用がかかることが分かり譲渡金額は150万に下げていただきました。
当初の私の予算は200万円前後だったのですが、蓋を開けてみると譲渡金額に家賃の敷金が100万円くらい上乗せされていたり、交渉していた昨年8月にエアコンが壊れてしまい修理必要として40〜50万円必要だったりと、結局、補修費用を合算すると300~400万かかるため、大幅に値下げして分割払いをお願いすることになりました」。
また、売り手オーナー様は途中から法人を止め個人事業主として経営していたこともあり、正確な財務諸表を持っていらっしゃらなかったとのこと。仲川様はこれまでの売上推移や傾向を細かく質問しながら事業計画を立てていかれたそうです。
「コロナで正しい数字が分からないうえに、これまで売り手さんは売り上げをきちんと把握されていなかったので雰囲気でしか売上の状況が分かりませんでした。損益分岐点となる売上の50〜60%いけばいい方。売り手オーナーさんは既にやる気をなくされていて、スタジオも荒れ放題。サイトも8年放置されている状態です。
ところが、昨年はコロナ禍にもかかわらずお客様が途切れることなく来られていたのが引っ掛かったんです。これはなんだ!と思って、やること全然やってなくて損益分岐点の50%くらいなら、やることをちゃんとやればもっといけるんじゃないかと。だってコロナでもリピーターがいらっしゃるんです」。
ここで追い風となったのが、コロナの影響で周辺の競合が続々と撤退していったことでした。事業については不透明な点があったとはいえ、タイミング的には顧客を一手に取り込めるチャンスだったのです。
「普通のフォトスタジオと異なり、コスプレイヤー、ローカルアイドル、夜の接客をされる方達がよく使われるスタジオなので安定して顧客がついていたんです。競合の撤退でエリアにはこのフォトスタジオしかない状態になって、この案件はもしかしたらダイヤモンドの原石かもしれないと思いました」。
昨年以降は『鬼滅の刃』ブームでコスプレ文化が息を吹き返し始めていることもあり、上手くターゲットを捉えることができれば損益分岐点を超えられると仲川様は確信しました。
シニアには“キャリアに迷える子羊”もいるはず。そういう人にこそM&Aを強く勧めたい
M&Aによる起業を決意した原動力を伺ったところ、意外な答えが返ってきました。
「率直に言うと、やりたいことを思いっきりやれる環境を作りたいと思ったからです。全員ではないと思いますが、恐らくミドル50代の人たちって“迷える子羊”みたいな世代だと思うんです。キャリアはあと10年くらいだし、転職といっても20〜30代が中心です。
40代ならば管理職としてのポジションもあるとは思いますが、50代は管理職でもない限り会社のなかでのポジションを探すのが難しく、“本当はもっと仕事をやれるのにやらせてもらえないモヤモヤ”というのがありました。そういった気持ちをどこかにぶつけたかったんだと思います。(笑)それでM&Aで起業するという選択肢に辿り着きました。
やりたいことを思い切ってやれるのが経営者だと思いますし、失敗したって自分の責任です。本業ではできない部分を副業で試すことで自分のエネルギーを吐き出す場所、試す場所があるのは本業を腐らずにやっていける良い機会になるんじゃないかなと思いました。力を持て余しているシニアがいたら、迷わずM&Aして頑張ってみたらいいんじゃないですか?と本当にお勧めしたいです。実際に私の周りにもそうやって啓蒙しています。(笑)
それに、これまで接してきた中小企業の経営者さんの中には、続けるも地獄、止めるも地獄みたいな状況の方を沢山見てきました。今回譲受させていただいたフォトレンタルスタジオ3店舗も、もし閉店・撤去するとしたら1店舗あたり100〜200万円の費用がかかります。これ以上の負債を抱えず売却益を得て退ける、売り手さん側にとってもM&Aは次に進めるきっかけになると思います。後継者不在で事業承継に悩んでいる経営者にもM&Aはお勧めしたいですね。
何をやったって苦労するのは変わりませんから、やるのだったら好きなことをやったほうがいいですからね。私は負債がある状態で経営を引継いだので大変ではありますが、0→1起業とM&Aは違った魅力があると感じています」。
自分の経営によってお客様とのコミュニケーションが生まれることがやりがい
最終契約後、仲川様は荒れたスタジオを元に戻すためにお掃除から始められたそうですが、その間にサービス改善につながる気づきを得られたとおっしゃいます。
「とにかくスタジオが荒れていたので、週末ごとにスタジオを訪れ掃除しました。すると、その過程でお客様の名残みたいなものに気づいたんです。交渉中に現場視察した際は後で捨てようと思っていたものが、実際はお客様に使っている小道具だったことが分かったりしまして、危うく捨てるところでした。(笑)これは実際に運営してみないと分からなかったです。
あと、これまでスタジオになかったけれど撮影の時あったら絶対に楽だよなと思って備品やゴミ箱を置いてみたんですが、お客様が使ってくださっているのが分かるとすごく嬉しくなりします。やっぱりそうだよね〜。(笑)いままではコスプレのメイクする時に出るゴミを捨てられなくて大変だったんだろうなと。レンタルフォトスタジオは無人で運営しているスタジオなので、私は直接お客様と接していません。そのため、そういったお客様の名残を感じると、まるで会話できた気持ちになるんです。
実際にお店の運営を一人で始める前の引継ぎ期間にそういった経験をできて良かったです」。
引継ぎ期間に店舗運営の細かなサービスを整えられたことで、引継ぎ後に独り立ちしてからはプロモーションに力を入れられるようになったと仲川様。現在は、運営のデジタル化を進めているそうです。
「まずは8年間更新されていなかったサイトの更新を行っています。あとはSNS集客のため広告を出し情報発信すること。そして、3つある店舗の運営をリモートで行えるように進めています。
以前は、料金体系がとても複雑で2時間パック、3時間パックなどのプランを電話で説明しなければならなかったのですが、副業でそうした運営は困難なので、昼・夜・平日と料金プランをシンプルにすることでセルフサービス環境を整えています。
お客様ご自身がご自分の都合で好きな時間に予約を取れるようにしたいですね。また店舗内の案内を充実させ、来店したお客様にSNSで発信してもらうことで予約時に特典を提供できるようなシステムも考えています。8年分のデジタル化を一気に進めて、私一人で運営できるようローコストオペレーションを実現したいです。
今回M&Aで無事に事業を引継ぐことができて、売り手オーナーさんには感謝以外ありません。また、バトンズの手数料が他M&Aプラットフォームと比較しても最安だったのは非常に助かりました」。
これから、仲川様の経営手腕が存分に発揮されスタジオが復活し、お客様がさらに利用しやすい店舗となって活気が戻る日も近いのではないでしょうか。ご事業の発展と仲川様の更なるご活躍をバトンズ一同お祈りしております!
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