価値創出の手段として注目されているスピンオフの仕組みを解説
2021年01月13日
2021年01月13日
組織再編の手法のひとつとして注目されているのがスピンオフです。スピンオフによって誕生した会社はフットワークが軽く、柔軟かつ大胆な事業を展開していく傾向があり、経済界全体の活性化をもたらす手法として、期待される傾向にあります。ここでは、そのスピンオフの定義、税制、メリットとデメリットなどを解説していきます。
スピンオフの定義、さらには類似する語句であるスピンアウト、カーブドアウトとの違いを解説します。
スピンオフとは、企業の中の特定の事業や部門、完全子会社を切り離して、独立させる手法のことです。スピンオフによって誕生した会社は、大企業の外部に出ることによって、経営の独立性を確保することができ、機動力や柔軟性を発揮することが期待できます。
巨大化した企業が組織再編のために活用するケース、新会社に新規の事業をまかせることによって、リスクを回避するケースなど、スピンオフはさまざまな場面で活用される手法といえます。
スピンオフによって生まれた新会社の株式は、一般的には元の会社の株主に交付されます。お互いの会社は独立しているものの資本関係は存在しているため、ゆるやかな連携が保たれた状態ともいえるのです。
スピンオフととともに、スピンアウト、カーブアウトという混同されがちなワードがあります。それぞれの違いを説明しましょう。
スピンオフが社内の特定の事業部門を切り離すことによって新たな会社を作ることであるのに対して、スピンアウトは会社を退職した人間が独立して新会社を作ることです。会社が主導して作るのがスピンオフ、会社を独立した人間が主導して作るのがスピンアウトということになります。スピンオフが元の会社と資本関係があるのに対して、スピンアウトは完全な別会社となるのです。
カーブアウトとは、企業における特定の事業や子会社を切り離して、ベンチャー企業として独立させることによって事業の成長を図る経営戦略の手法のひとつです。この段階まではスピンオフもカーブドアウトもほとんど同じなのですが、スピンオフは独立した後にも元の会社と資本の関係が存在するところが大きな違いとなります。
スピンオフのやり方はひとつだけではありません。主に使われている手法が2つあります。
本体である会社の特定の事業部門を分割し、新たに作った会社に移転させて、新会社設立時に交付される新規の株式のすべてを、本体である会社の株主に交付するやり方を分割型分割といいます。
完全親会社が完全子会社をスピンオフによって切り離して、別会社とする手法を株式分配といいます。その際には、完全子会社の発行済株式を完全親会社の株主にすべて分配するのです。
経済産業省による平成29年度税制改正と平成30年度税制改正には、スピンオフに関する税制が表されています。2度にわたる改正によって、スピンオフは使い勝手の良いものとなり、活用する企業が増加している現状があるのです。この税制について解説しましょう。
スピンオフ税制が導入された背景には、日本国内の経済の活性化を図る行政の狙いがあります。平成30年4月に経済産業省が発表した「スピンオフの活用に関する手引き」の中で、スピンオフが行われることによって期待できる効果として、経営の独立、資本の独立、上場の独立という3つの項目があげられているのです。さらに、スピンオフを活用することによって、もともとある会社と新たにできた会社の両方ともにおいて企業価値の向上が見込まれると記載されています。
スピンオフは、事業承継の手段としても有効であると考えられるため、中小企業が抱える経営者の高齢化と後継者不足という問題解消の方策の一環という位置づけともされているのです。
かつては、スピンオフは税制上の「譲渡」とみなされていました。そのために本体の会社に譲渡損益が生じるとともに、株主に対して「みなし配当課税」が適応されていたのです。場合によっては多額の税金を納めることになるため、スピンオフの活用に歯止めをかける要因のひとつになっていました。
平成29年度税制改正によって、一定の税制適格要件を満たしたスピンオフは適格組織再編に当たると判断されて、本体の会社に対する譲渡損益課税も株主に対するみなし配当課税も課税繰り延べが認められることになったのです。
さらに、平成30年度税制改正によって税制適格要件の適応範囲が広がりました。経済活性化の起爆剤のひとつとして、スピンオフの積極的な活用が税制改正によっても奨励されたのです。
注目を集めているスピンオフですが、メリットだけでなく、デメリットもあります。
スピンオフによって誕生した会社は組織として小規模であるため、小回りがきき、迅速な意志決定が可能になります。スピード感を重視するIT業界などではその強みを存分に発揮することが期待できるでしょう。
元の会社にとっても、スピンオフはプラスの要因となる場合があります。組織をシェイプアップして核となる事業に専念することによって、運営の効率化を図ることができます。
本体の会社と競合する相手だったために、これまでは取引することができなかった会社との取引が可能になる場合があります。スピンオフを実行することによって、相手がもとの会社とは別の会社と判断してくれる可能性があるからです。スピンオフはビジネス・チャンスを広げる効果も期待できます。
スピンオフを実行することによって、事業のみに関心を抱いていた投資家の投資意欲が高まる可能性があります。投資家にとっては会社全体に投資するよりも、興味を持っている事業のみに投資するほうが効率がいいからです。
スピンオフによって独立しても、本体の会社と資本関係があるため、本体の会社の意向が反映される場合があります。組織内部にいるのと変わらない状況になってしまうことも考えられるのです。
大企業の中にいるのとは違って、スピンオフによって生まれた会社は組織としても小さく、経営基盤も安定していないため、将来的なリスクも大きくなります。
スピンオフする前の段階で、社内で他の事業部門との間でシナジーがあった場合には、スピンオフすることによって、そのシナジーが消失してしまうことになります。
組織再編が活発化している時代の中で、スピンオフという手段への注目度は高まっています。スピンオフによって新たに生まれた会社はベンチャー企業、スタートアップにも通じる新しい価値を創出する可能性を秘めているといっていいでしょう。スピンオフによって独立することにはリスクもつきまといますが、そのリスクを活力に変えていくことで、新しい時代の担い手にもなりうるのです。
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