経営者にとって、事業承継というのは悩みの種ではないでしょうか。
中でも重要な問題なのは、誰を跡継ぎにするかということです。跡継ぎ候補は早い段階から考え始めなければいけませんが、どのようなポイントを重視して選べばいいのでしょうか。
この記事では、次期経営者となる人物に必要な資質について見ていきましょう。
跡継ぎとは
跡継ぎは、家督を引き継ぐという意味
跡継ぎとは、一般に「家督を引き継ぐこと」を指します。家督とは、「相続すべきその家の財産、事業、権利」などを意味します。そのため、「血縁関係で引き継ぐ」場合に跡継ぎという言葉が多く使われます。
「後継ぎ」との違い
似た言葉に後継ぎがあります。2つは引き継ぐという意味では同じですが、細かく言えば何を引き継ぐかという点で違いがあります。後継ぎは「事業・学問・地位などを引き継ぐこと」を指します。後継者という意味合いから、地位を引き継ぐものという意味になり、財産を相続するような意味は含まれないという点が跡継ぎとの違いになります。
分かりやすくいうと、後継ぎは前任者の後を任される人のことを指し、跡継ぎは相続者という意味で後を任される人のことを指します。
相応しい跡継ぎ候補を育成するには5年~10年かかる
一般的に、相応しい後継者を育成するためには5年~10年かかると言われています。どうしてそれほどの時間が必要なのでしょうか。
跡継ぎ探し
当然ですが、後継者を育成するためにはまず候補者を探さなければいけません。これは順当に進むこともあれば、想定外の時間がかかることもあります。現経営者の子どもや親戚が後を継ぐ場合は問題ありませんが、決まった後継者がいない場合、従業員や第三者から候補者を探す必要があります。
候補者を選定するためには、注意深く資質を見極めなければいけません。また、候補者側にも心構えが必要で、すぐには受け入れられない可能性もあります。正式に後継者候補を決定するプロセスには時間がかかるということを頭に入れておきましょう。
跡継ぎの育成
無事に後継者候補が決まったら、本格的に育成を始めます。経営者になるためには様々な知識や経験が必要で、後継者育成には長期的な視点で臨まなければいけません。
承継をしたい時期よりも5年~10年前には後継者候補の育成が始められるよう準備を進めましょう。
跡継ぎ選びに失敗すると起こり得るリスク
経営者としての適性がない人物を後継者にしてしまうことで想定されるリスクはどのようなものなのか、確認しましょう。
経営が傾く
一番のリスクは、会社の経営が傾くということです。
財務状態の良好な会社が代替わりしたとたんに経営不振におちいる、というのはよくあることです。会社の経営には先見性やリーダーシップなど複合的な能力が必要で、経営者としての資質が欠けた人物に任せられるような甘い世界ではありません。
経営者の能力次第では会社が倒産してしまうというようなこともしばしば起こります。
従業員からの不満
経営者が従業員に与える影響も見落としてはいけません。
両者の距離が近くなりやすい中小企業では、経営者の手腕や人柄は直接的に従業員に伝わります。有能な経営者の下では実力を発揮できる従業員も、経営者に資質がなければモチベーションが低下してしまう可能性もあるでしょう。
経営者が自社の状況を把握できていなかったり非効率な業務命令ばかり出していたりすると、従業員の不満は大きくなります。優秀な従業員が愛想を尽かして会社を去ってしまうという事態も生じるかもしれません。人材というのは、経営を行うにあたり重要な資本のひとつ。経営者が従業員に慕われるかどうかは大きなポイントなのです。
跡継ぎに必要な資質① 育成ができる部分
では、次期経営者となる人物にはどのような資質が必要なのでしょうか。まずは、後からでも育成しやすい面について見てみましょう。
実務に関わる知識・経験
実務に関わる知識や経験は、経営者に不可欠です。これは時間をかけて身に付けていくことができます。
後継者候補を選定したら、会社の様々な業務を経験させましょう。1~2年ごとに配置を変えるなど、会社の全体像を把握できるような機会を与えるのがポイントです。
また知識の底上げが必要な場合は、外部のセミナーなどを活用する手もあります。体系的に知識をアップデートしながら人脈を広げることができ、非常に有意義でしょう。
経営能力
経営者としては経営能力も当然必要ですが、これも教育することが可能です。たとえばグループ会社や子会社がある場合は、出向させることで事前に経営の経験値を上げることもできます。
また、社長のアシスタントとして早い段階から近い場所で勤務させるのも効果的です。現経営者の背中を見ながら、経営能力を身に付けさせましょう。
跡継ぎに必要な能力② 育成が難しい部分
経営者に必要な能力の中には、育成することが難しいものもあります。後から身に付けることが難しい能力については、あらかじめ持ち合わせた人物を選ぶ必要があります。
経営を受け継ぐ覚悟
まずは、会社の経営を受け継ぐ覚悟です。経営者になると、従業員や取引先に対する責任を負ったり、ときには自分の時間を犠牲にしたりしなければいけないこともあります。会社を経営するには相応の覚悟が必要なのです。
教えることで身に付くという面もゼロではありませんが、もともと持ち合わせた責任感は重要です。後継者候補に経営を受け継ぐ意思と覚悟があるか、しっかり見極めましょう。
経営理念の理解・共感
後継者は、会社の経営理念に共感できなければいけません。自社の経営理念を理解し、それに沿った経営を実行してくれそうな人物かどうかを確認しましょう。
人それぞれ価値観が異なるのは当然です。しかし、会社の核ともいえる経営理念に共感できないようであれば、どんなに優秀な人物であってもその会社の経営者としては相応しくありません。
人間性 (リーダーシップ・決断力など)
経営者として会社のトップに立つ人物には、優れた人間性が備わってなければいけません。組織を率いるリーダーシップや、重要な事柄をスピーディに判断する決断力などが必要です。
これらは経験を積むことでブラッシュアップできる能力ではあるものの、簡単にゼロから身に付けられるものではありません。生まれ持った才能や若い頃の経験も重要だからです。経営者の器が務まる人間性を持ち合わせている後継者を選定しましょう。
資質も踏まえた承継方法選び
後継者を決めるときは、ここまで見てきたような資質があるかどうかを判断基準の1つにするとよいでしょう。
承継の方法は次の3パターンです。
親族内承継
1つ目は、親族内承継です。子どもや弟妹など、身内を後継者とするパターンがこれに当てはまります。
親族内承継のメリットは、若いうちから経営者になるための育成ができることです。現経営者の近くで仕事を見ることができるので、経営者としてのマインドが自然に身に付きやすいのです。また、親族の承継であればほかの従業員からの理解を得やすいというメリットもあります。
ただし、経営者の身内だからと言って必ずしも必要な資質が伴っているとは限りませんし、承継の意思がないのに無理強いすることもできません。後継者の選定は、双方の合意があることが大前提です。
親族外承継 (従業員への承継)
親族内に候補者がいない場合は、親族外承継をするというパターンもあります。この場合に後継者候補となりやすいのは従業員です。長く勤めている従業員であれば社内事情もある程度把握していることが多く、スムーズに継承できる可能性も高いでしょう。
ただし後継者候補であることは早めに伝え、意思決定のための時間を用意しましょう。また、従業員と経営者では求められる能力が異なります。資質の見極めや育成にも手を抜かないようにしましょう。
第三者承継
社内で後継者候補が見つからない場合、社外の人材に承継することもあります。これが第三者承継です。経営の経験や知見がある人物を組織の一員として招き入れることで、後継者育成の手間を軽減することができます。また、新しい風を取り込むことで経営状態の好転も期待できるでしょう。
ただし、外部の人材に対しては社内の抵抗感が強くなりやすい点に注意しましょう。従業員とうまくコミュニケーションをとることができ、今までのやり方にも敬意をもって対応することができる人物であれば、社内からの信頼も得られるはずです。
経営に必要な資質を備えた人材に承継しよう
後継者候補を選ぶのは、事業承継を進めていく中でも最も重要なプロセスの1つ。経営者には様々な資質が必要ですが、中には後から身に付けることが難しい性質のものもあります。
経営者としての能力を見極め、適切な人物を後継者に選び、事業承継を成功させましょう。
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