一般的に中小企業がM&Aを行う場合、譲渡する会社の価値は「時価純資産法」をもとに会社の時価の純資産+α(事業にもよるが営業利益の1~5年程度)で算出しています。その時価純資産には、土地・家屋や機械設備などの”固定資産の評価額”も含まれています。
譲渡価格のなかでも大きな割合を占める固定資産ですが、その算定方法は様々あり、お互いが納得するためには、適切な評価額の算定方法を活用すべきです。会社の譲渡価格をどのように決めるのかは、売主、買主の双方にとって重要事項です。“できるだけ高く譲渡したい” “できるだけ安く引き継ぎたい”とそれぞれの想いもあり、交渉するうえでの一番の難所ともいえるでしょう。
今回は、あなたの固定資産を適切に算定するために、活用すべき評価方法の見極め方を紹介します。
減価償却が発生する機械設備の時価の評価方法
機械設備の時価評価では、機械設備を専門とした価値評価人や価値評価に精通したエンジニアが活用されるのはまだ一般的になっていません。評価に費用が掛かったり、時間がかかったりするためです。そのため、実務上は設備の金額が大きくなければ(減価償却後の)簿価を時価とすることが多いです。しかし、その機械設備の用途がニッチで専門性が高く、事業への貢献度も高ければ高いほど、そうした価値評価人やエンジニアの目が、時価を正しく算定する上で必要になってくるのです。ここでは、費用をかけてでも自社設備の評価額を知りたい方のために、いくつか評価方法を紹介します。
例えば、最近一部で話題の昭和レトロ自販機(下図参照)の時価はどうやって求めるのでしょうか。すでに減価償却は終わっており、帳簿価額はゼロではあるものの、M&Aで自販機を引き継ぐのであれば、事業に必要な設備としてその時価の算定が改めて必要です。その場合、レトロ自販機に対する現在の市場のニーズも加味しなければなりません。そこで、こうしたケースではよく、専門の機械設備に精通した価値評価人やエンジニアなどが、いわゆる鑑定人として機械設備を総合的に鑑定し時価を算定します。
他にも機械設備の時価評価で用いられる手法としては、次のような手法があります。
- 原価法
原価法とは、評価対象の設備と同能力換算の最新設備の新品価格をベースとして、減価要因(使用年数、機能不足、操業度低下など)を減額して測定します。最新設備と比べた場合の対象設備が相対的に劣る要因を把握し、評価額に反映することがポイントとなります。
- 取引事例比較法
取引事例比較法とは、評価対象の設備と同じ設備の中古市場などでの取引価格を使って、対象設備との年数、状態、付帯設備の有無などを考慮し、時価を決める方法です。解りやすい例では中古車市場があげられます。同じモデルでも新古車と中古車とでは当然値段は変わっていますよね。最近では、インターネットで設備機械の中古市場を確認することもできるようになっています。
- 収益還元法
最後に紹介するのが、収益還元法と言って評価対象設備の属する事業の将来キャッシュフローをベースに時価を算定する手法です。将来見込まれる収益力を計算しなければならないため、とても難解で前提条件などにより振れ幅が大きいのが特徴の手法です。そのため、中小企業のM&Aではあまり採用されていません。
減価償却が発生しない固定資産の時価の評価方法
土地・家屋の時価算定は、基本的には不動産鑑定士や公認会計士など専門家に委託してより適正な時価を把握することになります。ただ、実務上では、鑑定評価をお願いすることは、時間的な制約や費用の面で難しい場合もありますので、次の略式評価方法を用いて代用することが多くなっています。
- 路線価方式
宅地の評価方法には、路線価方式が使われます。路線価方式は、その土地の面している道路に1㎡当たりの評価額が付けられており、面積にこの評価額を掛けて計算します。同じ道路に面していても、角地・崖地・袋地などのようにいろいろな事情のある土地は、その事情に応じて特別の計算をします。また、時価の8割を目安に設定されていますので、おおよその時価は、路線価方式評価額÷0.8で算出することができます。
- 倍率方式
倍率方式は、路線価が定められていない地域の土地の評価方法です。倍率方式における土地の価額は、その土地の固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて計算します。全国の3年分の評価倍率表は、国税庁ホームページで閲覧できます。
- 固定資産税評価額方式
家屋など不動産を持っていると、固定資産税を納付しなければなりませんが、この固定資産税の税額を計算するための基礎として市区町村により固定資産税評価額が算出されています。固定資産税の評価額は、公示価格の70%を目安として評価されていますので、おおよその時価は、固定資産税評価額÷0.7で算出することができます。
さて、さまざまな評価軸ごとに固定資産の時価評価方法を紹介してきました。どの数値を重視するべきなのか、どのように評価するべきなのか、M&Aではつい目先の金額を意識しがちになります。売主と買主双方が将来得られる利益をよく考えて、当事者間の信頼関係を損なうことなくお互いに納得のいく妥協点を見出せるよう、しっかりと議論しておくことが重要です。
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