美容業界に特化したBtoB向けメディア事業を手掛ける「株式会社美容経済新聞社」はこの度、美容系雑誌・書籍の企画・制作を手掛ける「株式会社女性モード社」を買収されました。もとはシステム開発事業を主軸にビジネスを展開されていた美容経済新聞社ですが、M&Aを機に業態転換を果たされ、今年で24年目を迎えます。
今回インタビューにお答えいただいたのは、美容経済新聞社の代表取締役社長である花上哲太郎様。過去にも事業買収・売却の両方を経験され、M&Aに精通されたシリアルアントレプレナーである花上様は、どのようなビジョンを持って今回M&Aを決断されたのか。会社の沿革やご成約の経緯とともに、お話を伺いました。
譲渡企業 | |
---|---|
社名 | 株式会社女性モード社 |
業種 | 出版業(美容) |
拠点 | 東京都 |
譲渡理由 | 選択と集中 |
譲受企業 | |
---|---|
社名 | 株式会社美容経済新聞社 |
業種 | 出版業(美容・B2Bメディア) |
拠点 | 東京都 |
譲受理由 | 取引先拡大 |
立ち上げから23年。事業をピポットし、次なる成長フェーズへ
花上様が独立・起業を果たされたのは、ITバブル全盛期であった1999年。引く手数多であったIT事業の潮流を的確に捉え、システムの受託開発会社としてビジネスをスタートされました。
そこから、自社サービスの立ち上げ・売却なども経験された花上様は、営業活動を行う中でエステサロン向けの業界誌を扱う事業者とご縁が繋がります。
リーマンショックの影響もあり、その事業者から「業界誌を売却しようと考えている」という話を受けた花上様。自社サービスの営業販路を拡大することを目的に、初の事業買収に踏み切ります。
このM&Aをきっかけに、業界誌へと主力事業をピボットされた美容経済新聞社。それから十数年に渡り、紙媒体を主戦場として美容サロン向けメディア事業を推進してこられています。
業界誌はこれまで、その業界に特化した専門的な情報を届けるということに価値を置き、それぞれがニッチな顧客層に向けてビジネスを展開してきました。一方で、多くの業界では『経営の多角化』が活性化しており、業態の垣根が曖昧になってきているのが世の中の全体傾向としてあります。美容経済新聞社の読者層である美容業界に関しても、例外なく同じような経路を辿っていることに花上様は危機感をもっておられたそうです。
「例えば、銀行が証券や保険を売ったり、美容室でネイルやエステの施術ができたり、業態の垣根がなくなってきているトレンドがあります。一方で、業界誌は未だにエステ専門、ネイル専門というように、狭域な情報を扱うに留まっているのが現状です。
我々は昨年からネットサービスを立ち上げて、紙媒体に加えてWEBメディアにも力を入れていこうとしています。そのため、これを機に事業ドメインを拡大し、エステ以外の『美容系店舗』を漏れなく取り込んでいこうと考えました。」
人材確保を目的に始めたM&A。願ってもいない企業との出会いに、本気の交渉がスタート
レガシーメディアに加えて、オンラインメディアに本格参入された美容経済新聞社ですが、成長戦略を描くにあたって『業界ならではの壁』に長年悩まされていたと言います。
「今後成長していこうと思うと、エステサロン向けに特化してビジネス展開をするのではなく、その他の美容系店舗に拡大していきたいという想いがありました。ただ、業界誌というのは業界に対するネットワークの大きさが要になっているビジネスです。
コネクションというのはそう簡単に作れるものでもないので、新規参入がしづらい現状があり、何か足掛かりになるものを数年前からずっと考えていました。」
業界構造がもたらす参入障壁に頭を悩ませ続けてきた花上様。経営戦略のひとつとしてM&Aも検討されており、M&Aプラットフォームにも複数登録されておりました。そんな中で一筋の光が差したのは、バトンズの案件一覧に掲載されていた譲渡案件。最初は、自分たちの生業に近いビジネスを行う企業として、単純に関心を持たれたのだそうです。
「いったいどこだろうと思いました。この業界は狭いので、きっと知っている会社だろうと思い実名交渉に進んでみると、知っているもなにも、非常に歴史があって信頼もある、業界大手の企業でした。まさかという企業でしたので、そこからはもう本気ですよね(笑)。この交渉を成立させようと、本格的に動き出しました。」
もともとは、WEBサービスの制作や編集人材の確保を目的として、M&Aを検討されていた状況で、今回ご成約された女性モード社との出会いは、想像を超える出来事だったと話します。
「事業運営にあたって非常に難しいことのひとつは、『人材育成』です。女性モード社には優秀なベテラン編集スタッフが豊富に在籍していて、これだけの人材を育てるとなると10年はかかります。業界のポジションも良い上に、10年分の時間を買いにいくような心境でした。」
編集のスペシャリストを迎え入れ、共存できる企業文化を創造
無事に調印を終え、新たな企業を迎えて成長戦略を描く花上様。M&Aにおいて、これからが最も重要で大変な時期であると話します。
「ベテランの編集者が豊富にいることは魅力のひとつですが、彼らとのコミュニケーションには気を遣う必要があると思っています。彼らがスペシャリストであることは間違いありません。ただ、企業が会社譲渡という道を辿ることになったということは、自分たちでイノベーションを起こすことができなかった、という事実でもあります。
対話を続けていくと、彼らも閉塞感や危機感はずっと持っていて、『何かしなければならないことは分かっていたものの、どのようにすればよいか分からなかった』ということが伝わってきました。そして、この盤石な土壌に芽を出すのが私の役割なんだということも再確認しています。
一方で、それは決して簡単なことではありません。これまで積み重ねてきた考えやマインドはすぐに変えられるものではありませんので。M&Aは交渉段階よりも、実際に譲り受けた後が大変だと思います。」
大手メディアの買収を実現しながらも、決して楽観視はしていない花上様。これから、美容経済新聞社と女性モード社がより良い形で共存していけるよう、新たな企業文化を創造していくことが重要だとおっしゃっておられました。
「今年の初めに、うちのスタッフと女性モード社のスタッフを一堂に介して、グループ方針の発表をしました。そこで伝えたメッセージは、『大切なのは文化を創ることだ』というもので、これには色んな意味合いが含まれています。
ひとつは、これまで別々にやってきた両社のスタッフが同じ目的に向かって、仕事の仕方や人との関わり合い方といった企業文化を改めて創っていくということです。もうひとつは、小さくてもいいのでイノベーションを起こして、新たなビジネスに挑戦しようと思える自信を取り戻すことです。
イノベーションの創造については、『小さくてもいいので、半年以内で実現しよう』とも伝えています。半年で変われないのなら、10年経っても変われないと思いますので。
一方で、たとえ小さくても何か変化を生み出せたら、それが自信になってさらに大きなことに取り組めるようにもなるものです。そうやって、少しずつ変化を起こしていきながらマインドセットをすることで、時代にフィットしたビジネスモデルに転換、適応させることができるんじゃないかと思っています。」
「美容業界」というマーケットの中で目指す、新たなビジネスモデル
「美容経済新聞社」社員の集合写真
M&Aを機に社内変革を起こすとともに、事業としても次なるフェーズへ歩み始めた美容経済新聞社。今後は「美容業界」の中でS2C(スペシャリストTOコンシューマー市場)に特化したメディアを目指すと同時に、オンラインを活用した新事業を主力にしていくと花上様は話します。
「我々の顧客は一般消費者ではなく、美容を専門に扱う事業者、つまりプロの方々です。これまでは、その中で更にエステサロン専門にサービス展開してきましたが、今後は美容室、ネイルサロン、美容クリニックのように、広域な美容業界向けのBtoBメディアとしてマーケットを拡大していきたいと考えています。
医療業界で、医師(専門家)と製薬会社(メーカー)とのマッチングを手掛けるエムスリーの事業モデルを手本に、美容業界で我々がそのビジネスモデルを確立できるよう構想しています。そのために、美容系の店舗向け、そしてオンラインを駆使したメディア・サービス展開をしていく選択肢として、M&Aも積極的に検討していくつもりです。」
今後は『美容業界』という大きなマーケットの中で、店舗の垣根を超えてビジネス展開を目指す美容経済新聞社。マーケットでの存在価値を高めるべく、明確なビジョンを示して新たなチャレンジへと進まれます。
花上様と株式会社美容経済新聞社の今後の更なるご活躍を、バトンズ一同、心より応援いたしております!
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2023年05月15日
放送事業を展開する企業。映像制作会社を引き継ぎ、思い描く事業戦略とは?
関東・関西の2箇所に事業所を構え、放送事業を中心に事業を展開する株式会社アトス・インターナショナル。そこで取締役を務めるS氏は、これまでも...