ケース横に指輪のついたデザインが特徴のiPhone専用ケース「ジュエル・フォン」は、アメリカ、中国、EU、日本における・意匠登録・商標登録を取得しており、これまで多くの有名ブランドとコラボ企画を結ぶ、愛用者の多いヒット商品となりました。
この商品を企画・販売している株式会社アトランスチャーチで代表取締役を務める川田雅直様は、今から20年ほど前に起業され、数々の輝かしい実績を残してきた実力派のクリエイターでいらっしゃいます。
そんな川田様に、世界特許まで取得した商品をなぜ手放そうと考えたのか、そして愛情を込めて育ててきた本事業を譲渡するにあたり、相手に求めたことはなど、詳しくお伺いしてまいりました。
譲渡企業 | |
---|---|
社名 | 株式会社アトランスチャーチ |
業種 | デザイン・商品開発など |
拠点 | 東京都 |
譲渡理由 | 選択と集中 |
譲受企業 | |
---|---|
区分 | 法人 |
業種 | 企画・開発など |
拠点 | 東京都 |
譲受理由 | 新規事業への参入 |
3度の転職と渡英を経て、「ありたい自分」を叶えるために果たした独立起業
デザイナーとして勤められていたところから、自身の環境をリセットしようと29歳の頃にイギリス・ロンドンへと渡った川田様。その頃の日本経済は、まさにバブルが崩壊した後のタイミングでした。帰国後に起業を検討した川田様でしたが、当時は会社法が改正される前。会社設立に必要な資本金の最低額が1,000万だったため、まずは大手のアパレル企業に再就職をされました。そこでアートディレクターとしてご活躍されながら、5年で起業資金を貯め、念願の独立を果たしたのが今から20年ほど前のこと。
当初は、商品パッケージや広告デザインの仕事を中心に請け負いながら、徐々にオリジナルブランド商品の企画・販売へと事業の幅を広げ、指輪の付いたスマートフォンケースで世界特許を取得するなど、経営者としてもクリエイターとしても才能を開花されていきました。
そんな中、日本ではまだ数少ない「子どもホスピス」の必要性を広めるという目的のもと、重い病気の子ども達やそのご家族に少しでも笑顔になってもらいたいと思いから始められた「シンデレラ」を題材とする活動が軌道にのり、全国の美術館で主催を務めた展覧会は、のべ来場数が10万人を超えるほどにまで成長していったそうです。
そして、この社会的意義の高いプロジェクトへ興味関心が移っていくにつれ、「ジュエル・フォン」をはじめとする、これまで築き上げてきた多くの自社ブランドの企画開発に割く時間が極端に減ってしまったことや、折しも到来したコロナ禍の影響から、今回のM&Aを意思決定するに至ったのだそうです。
「自分はクリエイター気質が高いので、生み出すのは得意なんですが、それを広く流通させるということについてはあまり得意ではなくて。加えて、当社には営業がいないというのもありました。そんな折にコロナ禍が到来して、事業の選択と集中が問われる中で、本事業については営業が強い会社に委ねた方がいい、自社で持ち続けているのは勿体無いと考えたんです」とのこと。
「今はお財布を持ち歩かない方も増えてきましたし、誰もが携帯電話を持つ時代になって来たので、携帯ケースは自己表現のひとつとして、消費者の投資額も上がってきていることから、将来性もあると感じています」とも。
こうして、川田様が愛情を込めて育ててきた「ジュエル・フォン」の譲渡先探しがスタートしたのです。
ゆっくり、じっくり!3年間を費やして、やっとみつけた理想の継承先とは
川田様が引き継ぎ先を探し始めたのは、2019年頃だったそうで、現在に至るまでに5〜6社とトップ面談を行ったものの、なかなか納得のいく相手に巡り会えなかったとのこと。
「かれこれ3年くらい探していたことになるので、思ったより時間がかかってしまったという印象ですが、最終的に決めた今回の引き継ぎ先は、私が自分でやるよりも10倍くらい売上を伸ばせそうな大きな会社さんです。これまで、望んでもなかなか実現することができなかったハイブランドとのコラボレーションも、彼らなら叶えてしまうんじゃないかと感じています。これまで、待った甲斐がありました」と笑う川田様が選ばれた畠中様(仮称)は、本事業を買収するにあたって新会社を設立し、そちらの会社で事業運営を行なっていくそうです。
こだわりを持ってじっくりと承継先を探してこられた川田様に、何が譲渡の決め手となったのかをお伺いすると「継承先の条件として、自分の手を離れた後に事業を大きくできる見込みがあるかどうかを重視していました。愛着も将来性もある企画だったので、そうでないと意味がないと思っていたんです。よって、ブランディングを通じた物販が強いところ、そういうスキルや経験が豊富なところに譲りたいと考えていました。
そんな条件に当てはまった会社のひとつが畠中さんのところだったのですが、トップ面談でお会いしていろいろと話していくうちに、ノウハウと熱意の両方を兼ね備えていらっしゃる方だと感じましたし、私より若くて貪欲で、この事業を伸ばすために別会社を作るとまで言っていただけたことに感銘を受けました。海外経験もあり志も高いこの方なら、このブランドを世界中に広げて行っていただけるだろうと思ったんです。
だから、持っていたサンプルも全部お渡ししましたし、道半ばで止まっていた某有名高級ブランドとのコラボも話も、引き継げればと思っております」とのこと。
明確な条件を掲げながらも、最後は熱意に共鳴して譲渡を決めたという川田様は、理想のお相手が見つかってとても安心した表情でいらっしゃいました。
「M&A=乗っ取りではない」経験して変わった、MA&Aのネガティブな印象
そんな川田様にとって、今回のM&Aは人生初めてのご経験でした。一連のプロセスを通じて得た感想や印象に残ったポイントについて、お伺いしたところ「正直なところ、初めはM&Aというと怖いもの、乗っ取られるものという悪いイメージしかありませんでした。ですが、M&Aをやろうと決める1年ほど前に、日本M&Aセンターの分林会長と会食する機会があり、 “M&Aというのは会社同士のお見合いのようなもの”だというお話を伺った際に、M&Aというのは思っているほど悪いものではないのかもしれないという印象を持ったんです。
そして、実際に自分で事業を譲渡してみて、改めて会長のおっしゃっていたことが理解できたように思います。事実、M&Aの交渉では、買う側と売る側の双方が互いに納得し合いながら、少しずつ話を詰めていくんです。条件が合わなければ断ればいいだけの話なので、両者は対等なんですよね」とのこと。
「日本は、まだまだM&Aに対してネガティブなイメージがあるかもしれませんが、世界に日本が通用していくためにも、より多くの経営者たちに積極的に取り入れてもらいたい経営手法だと思っています」とも。
今後は、シンデレラプロジェクトを大きく成功させ、「子どもホスピス」への寄付を大きくしていくのが夢だと語る川田様は、大きな志を持つ、素敵な経営者でいらっしゃいました。
株式会社アトランスチャーチと川田様の今後の更なるご活躍を、バトンズ一同、心より応援いたしております!
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