起業家であれば、「ベンチャーキャピタル」という言葉を聞いたことがあるかと思いますが、「ハンズオン」という言葉はご存知でしょうか。無事、ベンチャーキャピタルからの出資を受けることが決定した後、積極的にベンチャー企業の経営に介入して支援を行うベンチャーキャピタルの手法を指します。
創業間もなく、実績や業績が乏しいベンチャー企業は、銀行などの金融機関から融資を受けることが難しいため、自己資金による厳しい資金繰りを余儀なくされることになります。そんな中、成長が見込まれる企業に出資を行い経営支援も行うベンチャーキャピタルは、ベンチャー企業にとっては資金面・精神面での心強い味方になります。
今回は、ベンチャーキャピタルの役割や事業内容、ハンズオンにおけるメリット・デメリットを解説していきます。
VC(ベンチャーキャピタル)の役割や仕事内容を解説!
ベンチャーキャピタルとはどのような機関なのでしょうか?
その役割や仕組み、銀行との違いについて解説します。
VC(ベンチャーキャピタル)とは?
ベンチャーキャピタル(Venture Capital、VC)は、ベンチャー企業等の未上場企業に投資して、上場後に株式や事業を売却してリターンを得ることを目的とした機関のことです。
VC(ベンチャーキャピタル)と銀行の違い
銀行もベンチャーキャピタルと同じく、企業へ資金を提供する機関のひとつですが、両者は資金を提供する「方法」が違います。
銀行が企業へ資金を提供する方法は「融資」です。企業側からすると、借金による資金調達となるため、調達した資金には返済の義務と利息が発生します。
一方、ベンチャーキャピタルは「出資」という方法で企業に資金を提供します。銀行の融資と異なり、企業側は調達した資金を返済する義務がありません。ただし企業が利益を上げた場合、ベンチャーキャピタルは配当金を受け取る権利(利益配当請求権)があります。
したがって、創業期のベンチャー企業が大規模な資金を必要とする場合、返済の義務がある銀行からの融資よりも、ベンチャーキャピタルからの出資を選択するケースがほとんどです。
VC(ベンチャーキャピタル)の分類
ベンチャーキャピタルには大きく次の4種類に分けられます。
独立系VC(ベンチャーキャピタル)
起業家や投資家が独立して設立したベンチャーキャピタルで、成長が見込める企業に出資を行うだけでなく、独自のノウハウを提供することがあります。
CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)
投資を本業としない事業会社の傘下にあるベンチャーキャピタルです。ベンチャー企業の上場や売却による資金回収のみならず、自社の事業とのシナジー効果も期待した出資を行います。
政府系VC(ベンチャーキャピタル)
政府や公的機関が運営するベンチャーキャピタルです。日本のグローバル化推進を目的として、技術力の高い中小企業などに出資を行います。
金融機関系VC(ベンチャーキャピタル)
銀行など金融機関が設立したベンチャーキャピタルで、成長する見込みのある企業に出資を行い、上場後の売却を目的としています。
VC(ベンチャーキャピタル)の社会的な役割
ベンチャーキャピタルの役割は、「成長見込みのある企業への出資」と「成長の支援」、「株式売却による資金回収」です。出資をするといってもベンチャーキャピタルは慈善事業ではないため、当然ながら利益を上げることが目的となります。したがって、出資した資金を回収するため投資先企業の成長支援を行うのです。
VC(ベンチャーキャピタル)の流れ
ベンチャーキャピタルの出資から支援、資金回収までは次のような流れで行われます。
ファンド組成・ファンドレイズ
ベンチャーキャピタルが企業に出資を行う際、まずはファンド(投資家のグループ)を組成して、資金を集める「ファンドレイズ」を始めます。投資のための資金は、銀行や保険会社といった機関投資家、個人投資家など資金運用を考えている投資家から募ります。
ソーシング
ファンドが組成されると、投資先となる企業探し「ソーシング」を行います。各投資家が自身の人脈を活用したり情報収集をしたりして投資対象となる企業にアプローチします。
投資実行
投資先が決定すると資金の払込を行い、投資先企業の株式を取得します。
経営支援
投資した資金が回収できるように、ベンチャーキャピタルは投資先企業の経営支援を行います。ベンチャー企業にとっては起業家や投資家によるサポートが受けられるというメリットの反面、経営に口出しをされて縛りができるという点がデメリットにもなります。
Exit(イグジット)
株式を売却による売買差益「キャピタルゲイン」を得るために、IPO(新規株式公開)やM&Aによって株式を売却します。この投資回収をEXIT(イグジット)と言います。
なぜベンチャーキャピタルが必要とされているのか
銀行から融資を受けるという資金調達方法以外に、なぜベンチャーキャピタルという選択肢が必要とされているのか、出資を受けたい起業家にとっての創業時の悩みをもとに考えてみましょう。
自己資金不足
スタートアップのようなスモールビジネスは資金が限られている上に、銀行から融資を受けられたとしても、借入金の返済でシビアな資金繰りを迫られます。事業の収益性や社会的意義をアピールすることによって、返済義務のない資金を提供してもらえる可能性のあるベンチャーキャピタルは、スタートアップ企業にとって資金調達の心強い味方なのです。
人脈や取引先の開拓
創業間もないベンチャー企業は人脈がなく、新たな取引先や顧客の開拓が容易ではありません。そこで、ベンチャーキャピタルの経営支援が役立ちます。ベンチャーキャピタル側も投資先企業の事業が上手く行けばリターンが大きくなるため、他企業とのマッチングやコンサルティングといったサポートを積極的に行います。
市場調査や分析
スタートアップはコア事業をどの市場で展開するか、どんなユーザーがいて、どんなニーズがあるのか、市場調査や分析を行う必要があります。ベンチャーキャピタルは経営者と連携し、商品やサービスの販売戦略を練り上げます。
人材の確保
創業期のベンチャー企業にとって、「人材確保」は大きな課題です。自社だけで優秀な人材を確保することは非常に困難なため、コア事業に必要な人材を把握しているベンチャーキャピタルが、企業に代わって人材候補のスカウトや面談などを行い、優秀な人材の発掘をサポートします。
VC(ベンチャーキャピタル)が行うハンズオンについて
ベンチャー企業に出資した後、積極的に経営に介入して支援を行うベンチャーキャピタルの手法を「ハンズオン」と呼びます。
ハンズオンの定義
ハンズオン(hands on)とは、実習や実験といった体験学習を意味する教育用語ですが、ビジネスの分野においては投資ファンドなどの出資者や、派遣されたコンサルタントが投資先のベンチャー企業の経営に直接参画することを指しています。
ベンチャー企業に取って、ハンズオンは起業家や投資家、コンサルタントからの支援が受けられるというメリットがある一方で、自由な経営ができなくなってしまう可能性があります。
ハンズオンの支援内容
ベンチャーキャピタルが投資先のベンチャー企業に行うハンズオンの支援内容は次のとおりです。
戦略策定支援
戦略策定支援とは、ベンチャーキャピタルがベンチャー企業のコアとなる事業のグランドデザインを支援することです。ベンチャーキャピタルは出資するにあたって、投資先のベンチャー企業に事業計画書の提示を求めます。その事業計画書を基に、ファンドの呼びかけが行われます。
ファイナンス支援
ファイナンス支援とは、資金提供や資金調達計画の策定、投資家の紹介などを指します。ベンチャーキャピタルのハンズオンは出資して終わりではなく、株式公開に至るまでの資金繰りや資金調達のアドバイスを行います。
公開支援
公開支援とは、ベンチャー企業が株式を公開する際に、幹事証券会社や監査法人の選定に対するアドバイスなどを行ったり、公開時の株価形成や株式の需給関係を分析したりする支援のことです。
人材支援
人材支援とは、ベンチャーキャピタルの持つネットワークを活かして、人材の斡旋や外部専門家の派遣を行う支援のことです。創業間もないベンチャー企業が人材を確保することは困難なため、ベンチャーキャピタルの人材支援は非常に重要な支援となります。
営業支援
営業支援とは、ベンチャー企業の営業戦略の策定やマーケティング、販売チャネルの拡大を支援することです。リソースの限られたベンチャー企業にとって、ベンチャーキャピタルの経営支援は、大きなシナジー効果をもたらす可能性のある支援と言えます。
精神的支援
精神的支援は、ベンチャー企業の良きビジネスパートナーとして、経営のメンターとして支えることです。ベンチャー企業に立ちはだかる販路拡大や資金繰りなどの課題を、起業家・経営者の目線で精神的に支援します。
ハンズオフとは?
ハンズオンとは逆に、ハンズオフ(hands off)というベンチャーキャピタルの手法もあります。ハンズオフはベンチャーキャピタルが投資先の企業のマネジメントに関与しない手法のことです。ベンチャー企業の経営陣の自助努力に期待する投資手法のため、安定したマネジメントが可能で、なおかつ数年後に株式公開ができるような状態にある企業に対して採用されます。主に金融機関系のベンチャーキャピタルがハンズオフの投資を行っています。
フェーズに応じて変わるVC(ベンチャーキャピタル)の関わり方
ベンチャーキャピタルは、投資先ベンチャー企業の成長フェーズに沿って支援の内容が異なります。企業の創業からEXITを検討するまでの各段階におけるベンチャーキャピタルの関わり方を見ていきましょう。
ベンチャー企業における投資ステージ
ここからは、投資ステージに応じたベンチャーキャピタルの関わり方を解説します。
シード期
「シード期」は起業してすぐ、もしくは会社設立前の時点を指します。ベンチャーキャピタルは成功確度の低い企業のシード期に投資するか否かの判断を行います。シード期にはそれほど多くの資金が必要な段階ではないため、ベンチャーキャピタルは資金調達や事業計画のグランドデザインの策定などで経営に関わります。具体的な事業計画ができ上がっていないことも多いため、ベンチャーキャピタルは起業家のアイデアに投資をすることもあります。
アーリー期
ベンチャー企業の創業からコアとなる事業が軌道に乗るまでの5年程度の時期を「アーリー」もしくは「スタートアップ」と呼びます。経営者にとって企業のアーリー期は、生き残りをかけた非常に重要な期間です。アーリー期はベンチャー企業が資金不足で倒産するケースが多いのも特徴で、経営者の手腕が問われます。
この時期では研究開発や設備投資などで多くの資金需要があります。ベンチャーキャピタルからの投資は、この時期の主要な資金調達手段のひとつです。ベンチャーキャピタルは、出資はもちろん、事業計画に沿った経営支援、人材支援、営業支援など、ベンチャー企業に対して経済的・精神的にさまざまな支援を行います。
ミドル期
ミドル期とは、商品やサービス、企業自体が広く認知され始める時期を指します。経営状況が赤字もしくは低収益でも、倒産リスクはアーリー期に比べてかなり低くなっています。会社組織としての体裁が整ってくる時期でもあるため、慎重な資金繰りを行いながら、人材確保や設備投資の資金の調達が必要となります。ベンチャーキャピタルは引き続き出資を行いますが、企業が金融機関等からの借入を利用するケースも増えてきます。
レイター期
レイター期は事業が黒字化し、キャッシュが生み出せるようになった時期を指します。すでに企業も成長しており、事業の拡大や新規事業の展開、あるいはEXIT(イグジット)も視野に入れた段階です。ベンチャーキャピタルは投資回収のために、株式公開の際の幹事証券会社や監査法人の選定に対するアドバイスを行います。
ハンズオンが最も活かされるステージ
ベンチャーキャピタルが経営に大きく関与するハンズオンは、ベンチャー企業のどの時期に有効なのでしょうか。
創業間もないシード期はハンズオンによるコンサルが有効
ベンチャー企業の成長フェーズにおいて、最もハンズオンが有効なのはシード期です。創業間もないベンチャー企業は、経営ノウハウもなければ、商品・サービスの販売チャネルもない段階です。そこでベンチャーキャピタルの先輩起業家やコンサルタントが、ハンズオンでベンチャー企業の経営に携わることで、事業展開の道筋を示すことができます。実際にシード期の企業への支援に特化した「シードアクセラレーター」と呼ばれる投資家もいます。
資金需要が最も高いアーリー期は人、金の両面で支援が必要
アーリー期の企業は、設備投資や研究開発などで多額の資金需要があります。この時期の企業は売上高2億円以下、従業員10名以下、オフィスもそれほど大きくないという成長途上にあるため、従業員と経営者の距離が近いという特徴があります。一方で、アーリー期はまだ実績・業績がないことから、社会的信用が乏しい状態です。民間の金融機関からは融資が受けにくいため、ベンチャーキャピタルには資金的な支援はもちろん、事業を軌道に乗せるためのサポートが求められます。
まとめ
ベンチャーキャピタルは未上場のベンチャー企業に対して、株式公開後のリターンを目的として投資や経営支援を行っています。ベンチャー企業は資金調達のみならず、事業を成長させるまでのさまざまな支援を受けられるというメリットがあります。
創業時は、ビジネスモデルの構築や人材支援など、事業の屋台骨を支えるサポートが受けられるため、ベンチャーキャピタルを有効活用することが事業成長の最短距離と言えるでしょう。また、ハンズオンを受けることで、ソフトとハードの両面で経営に精通した第三者からの支援も受けられます。経営者は自社がいま何を必要としているのかを見極め、経営方針に合致したベンチャーキャピタルとのパートナーシップを結ぶことが重要になります。
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