日常的に魚介類を食べる習慣のある日本において、水産業はなくてはならない産業です。しかし、水揚げから卸売り、加工、小売りなどを経て消費者に届くまで、多くのプロセスを経て消費者に届けられるため、効率の改善が求められています。
そこで、近年注目されつつあるDX(デジタルトランスフォーメーション)は水産業界に取り入れられ産業の効率化を図る動きが進んでいます。
そんなDXに関連する水産業界の取り組みや今後の見通しについて見ていきましょう。
水産業界の現状と今後の見通し
人々の食生活を支えるためになくてはならない水産業界ですが、解決すべき課題は山積しています。また、産業の効率を図るためにはデジタル化は重要な要素です。以下で水産業界の現状を見ていきましょう。
水産業界が抱える問題
漁業は重労働で天候や環境に左右されやすいといったリスクなどもあり、日本の漁業就業者は平成を通して一貫して減少しています。水産庁のデータによると、1988年からの30年間で日本の漁業就業者は61%減少し、2018年には15万1,701人となっています。
さらに新規就業者数も毎年2,000人弱程度とそれほど多くありません。新規就業者の過半数が30代以下の若年層ですが、自家漁業に限ると若年層の参入はそれほど多くはなく、高齢化が進んでいる傾向にあります。
被雇用者の漁業従事者にもやや高齢化の傾向は見られますが、自家漁業と比較すると退職の年齢が早いこともあり、ボリューム層は40代から60代の前半です。ただし、肉体的な問題などで漁業から離れる労働者が多く、自家漁業と比較すると恒常的な就業者とは限りません。
業界全体としては、漁業従事者の高齢化や減少が今後も進むと予想されており、外国人材の受け入れなどを含めた産業の担い手を育てる取り組みが求められています。
水産業界ではDXが加速することが見込まれる
先述の通り、水産業では就業者の高齢化や新規就業者の減少に伴い労働力不足が問題となっています。事業の承継が今後ますます難しくなっていくという問題意識もあり、生産性の向上や経営の安定化を目指した様々な取り組みが少しずつ進められています。
中でも近年は、データの有効活用やデジタル技術の導入などの重要性が指摘され、効率化を進めて就業者の給与水準を上げることも視野に、政府や関係機関によるDXのためのプロジェクトも増えています。
産業構造を抜本的に変革するため情報技術の導入については特に力を入れて進められており、農林水産省の調査では2020年度予算に190億円の情報システム関係予算が計上されました。今後もこのトレンドは続くことが予想されます。
また、政府だけでなく、民間企業でも漁業におけるDXを進める動きが広がっています。
例えば富士通株式会社は、最新技術を用いた陸上養殖システムを北海道の漁村に取り入れることで、カメラによる遠隔監視や作業データのシステム管理などを進め、作業の効率化や安定的な出荷を実現しました。新たなテクノロジーを駆使することで、事業の最適化や改善につなげています。
一次産業ではデジタル技術に不慣れな就業者が多く、IT技術導入のメリットを理解してもらうためには時間を要するケースもあります。しかし、デジタル技術に不慣れな高齢の就業者が引退し、導入が進められていくことで今後はますますDXが加速すると考えられます。
水産庁が進めるスマート水産業とは
ここまででお伝えしてきた背景のもと、水産庁では積極的にスマート水産業を推進しています。
スマート水産業とは、ICT(情報通信技術)を活用して漁業活動を適切に管理したり漁場の情報を収集・評価したりすることで、付加価値の付与や生産性の向上を目指す取り組みです。
水産業のデータの収集や活用をより容易にするために開始されたのが、「水産業データ連係基盤」の稼働です。このデータ連携により、既存の漁業を効率化するだけではなく、新たなビジネスのチャンスを創出する支援にもつながっており、生産性の向上のみならず、産業の若返りや新規就業者の呼び込みといった担い手確保にも寄与すると期待されています。
このような取り組みをスムーズに進展させるため、2018年には漁業法の改正が行われました。漁業権や収穫の報告の電子化や、情報収集の体制強化などに関する法整備です。新たな資源管理システムの構築や、漁業許可・漁業権制度の見直しに焦点があたり、より時代に即したルールが整備されたといえます。
このように、労働者の減少や担い手不足等の問題が指摘される中で、水産業の発展のために政府による積極的なデジタル化の推進が行われています。近年行われた法改正や制度の整備の中には、今後も継続的に効果が期待できる政策もあり、水産業においては今以上のDXの推進が見込まれています。
水産業界で今後も効果を期待できる政策
政府も積極的に水産業界のデジタル化を進めていることをお伝えしましたが、もう少し具体的に政策の内容を見てみましょう。
資源管理の改善で資源量・親魚量が好調
現在進められている新しい資源管理システムの構築の中には、すでに一定の効果を出しているものもあります。例えば、2020年9月に策定された「資源管理ロードマップ」です。
ロードマップでは、将来的に持続可能な漁業を行うことを目指して、科学的なデータ等に基づき漁獲量などに関する当面の目標と具体的な工程が設定されました。評価対象の魚種は2018年には50種でしたが、2021年の段階ではすでに200種近い魚種にまで拡大されています。また、漁獲量などのデータをより効率的に収集したり評価したりする体制の整備も引き続き進められています。
漁獲数量を制限するTAC制度という管理手法を用いて、水産資源の持続可能性を目指す取り組みも行われています。ここでも対象の魚種の拡大や見直しが推進され、現在では漁獲量のおよそ6割程度がTAC管理のもとでカバーされるようになりました。2023年にはこれを8割まで拡大するという目標が設定されており、客観的な指標に基づく適正な漁業活動に寄与しています。
こうした取り組みが功を奏し、1997年から続いていた水産資源の減少は2010年代の半ば頃には歯止めがかかり、その後回復傾向が見られるようになってきています。データに基づいた資源管理により、適切な漁が行われるようになってきています。
漁業者の所得向上に関する法律が成立
漁業に関する決まりのみならず、水産資源の流通構造の改善にも力が入れられています。
水産資源を保護するため、国内では違法な漁業により水揚げされた水産物の流通が規制されるようになりました。これは、2020年に成立した「水産流通適正化法」によるものです。
密漁やルールを守らない漁業は、違法(Illegal)、無報告(Unreported)、無規制(Unregulated)の頭文字をとってIUU漁業と呼ばれ、IUU漁業により漁獲された水産物については輸入規制が定められており、国内に流通させることができません。ルールを守らない漁業は、世界の海洋資源に悪影響を与えると懸念されているためです。
違法な漁業によって水揚げされた水産物は安価に取引され、適正な漁業により流通している水産物が売れなくなり販売できなくなってしまうという問題があります。IUU漁業の流通規制は、ルールに則って適切に漁業を行っている漁業従事者の水産物が適正に市場で取引されるようになるという観点からも非常に重要です。適正な水産物の流通は、結果として漁業従事者の所得改善にも効果があると期待されています。
水産業界のM&Aにおける今後の動向
DXの取り組みが進められている水産業界ですが、M&Aについてはどのような状況なのでしょうか。水産業界におけるM&Aのメリットを見てみましょう。
水産業界でM&Aを行うメリット
上述のように、水産業界ではDXの取り組みが少しずつ進展しつつあります。政策面でもデータの活用などの仕組みの構築が進んでいて、時代に沿った新しい経営を進める下地は整いつつあるといえるでしょう。
水産業界は、日本人の食生活を支える重要な産業です。水産資源の消費量は長期的に見ると減少のトレンドにはありますが、海外における健康志向の高まりから日本食が取り上げられることも増えているため、水産業界には新たなビジネスチャンスもあると考えられます。
デジタル化に対する政策の後押しと、水産資源に対する人々の関心の高まりから、水産業界の将来性に期待して参入を考える経営者もいるでしょう。
しかし、水産業界に異業種から進出するのは容易ではありません。魚の鮮度管理や配送などには緻密な技術が求められる上、ノウハウの獲得は簡単ではないためです。また、流通や漁業における設備や機械等の初期投資に多くの費用がかかることも要因の1つです。
そこで考えられるのが、M&Aという戦略です。M&Aを選択することでノウハウを獲得することができ、設備や機械の準備を行う必要もありません。参入障壁を下げることができます。異業種から水産業界への進出を検討している場合は、M&Aを行うほうが新規参入よりも参入しやすいといえるでしょう。
水産業界へ参入するために知っておきたい動向
水産業界への参入を検討する際には、まず、具体的にどのような分野で事業を行いたいのかを決める必要があります。分野によっては新型コロナウイルス感染症拡大の影響を色濃く受けている場合もあり、業界の構造や消費者の生活スタイル等の変化が一時的なものなのか将来的に続くトレンドなのかを見極めたうえでビジネスチャンスを探ることが大切です。大人数での会食の自粛などが続く中、外食産業への影響は長引いており、外食への卸といった分野を手がけている事業は今後も不安定な状況が続く可能性があります。一方で、忙しいときでも手軽に魚を食べたいというニーズや少し高級な食材を家で楽しみたいというニーズは増加傾向にあり、水産物の加工や品質の高い商品の流通などは、今後もチャンスの大きな分野になる可能性があります。
さらに、海外での和食の評価の高まりから魚介類や日本の加工食品等のニーズは高まっているため、海外への販路の拡大や現地に合わせた商品の開発といったビジネスも可能性があるでしょう。
業態や販路など、ビジネスモデルについてはしっかりと検討する必要がありますが、水産業界の現状について調査・分析を行ったり実際に話をしたりすることで、より具体的に課題やチャンス、メリットなどが見えてきます。
水産業界のM&Aならバトンズ
多くのM&A案件を手がけるバトンズでは、M&Aに対する思いをしっかりヒアリングした上で、これまでの経験を元に希望に合った提案をすることが可能です。また、インターネットを活用して相手企業を探すことができるため、多くの企業の中から価値観の合う相手と出会える可能性も高まります。M&Aを成功させるためにはできるだけ多くの情報を集めることが重要になるので、独自のネットワークのあるバトンズを利用して情報収集してみると良いでしょう。
まとめ
水産業界では近年、政府をあげたDXへの取り組みが進められています。新たな生活スタイルによる需要の増加や海外への展開など、大きな可能性を秘めている業界でもあります。バトンズでは水産業界のM&A案件も取り扱っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
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