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医療業界の今後はどうなる?現状の課題から徹底解説

2022年02月17日

医療業界は社会基盤の1つで、人々が安心して暮らすためになくてはならない業界です。しかし、長引くコロナ禍の影響や高齢化による社会負担の増加など、様々な課題があります。

医療業界の現状と今後の課題を考えてみましょう。

 

 

医療業界の現状(2021年現在)

医療業界は、医薬品メーカーや医療機器卸、病院などいくつかの分野にわけることができます。まずは分野ごとに医療業界の現状を見ていきましょう。

医薬品業界の現状

医薬品には、医療用医薬品一般用医薬品があります。医療用医薬品は医師等の処方や指示により使用される医薬品で、一般用医薬品は医師等の処方がなくても薬局などで購入できる医薬品

一般的に、医薬品の開発には臨床試験や許認可の申請なども含め長い期間が必要です。研究開発には莫大な費用がかかりますが、研究が必ず成果に結びつくとは限らず、世界的に見ても新しい医薬品を開発できる環境の整った国は多くありません。

日本は医薬品を開発する能力のある数少ない国ではありますが、企業の規模は大きくはなく、外資との競争が激しくなっています。加えて、医薬品に関する研究開発費は世界的に増加傾向にあるため、日本も国際展開に向けてますますの環境整備が必要と言われています。

 

医療機器・医療用品業界の現状

医療機器や医療品用品の市場は拡大傾向にあり、高齢化や新型コロナウイルス感染症の影響などもあり、需要の増加は中長期的に続くと見込まれています。

日本において、医療機器等は輸入超過の状態となっていますが、得意な領域もあり、たとえば画像診断支援においては高い競争力を持っています。国内ではシェアがあり海外市場に進出できるポテンシャルがあっても、国際的な存在感を出せていないのが現状です。

近年AIの活用などの技術が医療分野にも求められており、日本でも、データの活用や途上国への対応などを進めることで、国際的な競争力を高めようとする動きが強まっています。

 

医療機関の現状

日本社会では高齢化や、新型コロナウイルス感染症の蔓延により、医療に対するニーズは高まってきています。しかし、医療機関で働く人材には高い専門性が求められ、厳しい労働環境であることも多く人手不足は深刻です。少ない人手で経営を行わざるをえない医療機関が増えているほか、過疎地域等における医療格差も問題となっています。

医療機関の多くが赤字経営であることも、課題の1つです。医療の提供体制維持のためには、医療費の抑制などが必要となりますが、労働人口が減り高齢者が増える中、社会全体で改革に踏み込む必要性も指摘されています。

 

医療業界の課題

医療業界の2025年問題と呼ばれる課題があります。これが医療業界にとって直近で抱える大きな課題ですが、具体的にどのような問題があるのか紹介していきます。

 

医療業界の2025年問題

2025年、戦後の第一次ベビーブームの頃に生まれた「団塊の世代」が全員、75歳以上の後期高齢者となります。この世代は日本の人口の中でも最も大きな割合を占めているため、医療や福祉、社会保障への社会的な負担が非常に大きくなることが確実視されています。これが、医療業界の2025年問題です。

人は一般的に、年齢を重ねるにつれて、医療関連のサポートが必要となる傾向にあります。高齢化社会を迎えている日本ではすでに医療の負担が増加傾向にある上、人口のボリューム層である団塊の世代が後期高齢者と呼ばれる年齢になることで、ますます医療へのニーズは高まるでしょう。

一方、近年では少子化等の影響で、労働人口は減少局面となってきています。2025年の時点で後期高齢者は2000万人以上と予測されていますが、これは日本の人口の20%に近い数です。人々に医療サービスを提供する基盤が維持できなくなるという危惧が、2025年問題といえます。

 

医療業界に2025年問題がもたらす影響

2025年問題による影響を、もう少し具体的に考えてみましょう。高齢になるに伴い、身体機能が衰えたり病気に罹患したりすることが増えるほか、認知症のリスクも高まります。そのため、これまで以上に医療サービスや生活をする上でのサポートが必要になると考えられます。

医療費や介護費用等はその多くが税金などを財源とする社会保障費でまかなわれていますが、ニーズが増大するにつれてそのコストも増加します。しかし納税者は相対的に少なくなっていくため、高齢者1人を支えるための現役世代の負担は増えていくでしょう。

高齢者の増加と現役世代の減少は、結果としてこれまでと同等のサポートを提供することを難しくし、医療サービスの価格高騰や、本来ならば受給可能な補助金の減額となります。また、医療従事者や介護従事者などの不足は医療サービスの質の低下や存続の危機にもつながります。

安全な社会を築く上では不可欠とも言える医療サービスの維持が困難になるということを、2025年問題は示唆しています。

 

医療業界の今後の展望

医療業界は難しい問題を抱える中で、どのような方向に進んでいくべきなのでしょうか。医療業界の今後の展望を見てみましょう。

 

地域包括ケアシステムの構築

高齢化の進む日本では、地域包括ケアシステムを構築することの重要性が高まっていくでしょう。

地域包括ケアシステムとは、医療や介護等を含めた包括的な生活支援を地域で連携して提供する体制のことです。高齢期を迎え日々の生活にサポートが必要な状態となっても、住み慣れた家や地域で快適に暮らし続けることができるよう、コミュニティの中で在宅医療や訪問介護、リハビリテーションといった高齢者のケアを行える仕組みが求められています。

地域包括ケアシステムを構築するためには、医療、介護、保健などの各分野が密接な連携をとりながら、多様なニーズに応じた地域密着型のサービスを提供する環境が必要となります。高齢者やその家族が必要なサービスを必要なときに利用できることが、安心して暮らせるコミュニティを築く上で大切なポイントです。

 

病院の機能分化の推進

病院の機能分化をますます進めていくことも、今後の医療業界には求められています。

病院を訪れる人々には多種多様なニーズがあります。緊急の処置が必要な重症の患者や、経過観察で様子を見るべき軽症の患者、長期的な治療が必要な患者など、さまざまな利用者がいるためです。増加する後期高齢者の医療ニーズに効率的に対応するためにも、急性期医療、慢性期医療など病院の機能分化を推進する必要があります。

たとえば、重症患者や高度な医療を必要とする患者は大規模な病院で処置を行う必要があります。一方で比較的症状が軽かったりそれほど高度ではない治療で対処できたりする患者はクリニックを利用することで、大規模な病院がより緊急性の高い患者に割くことのできるリソースが多くなります。このような病院とクリニックの機能分化は、今後さらに進める方向で検討されています。

このような状況の中、病院やクリニック間でのネットワークを構築することで、情報を共有したり連携してサービスを提供したりする体制を整えることも重要です。必要なときにはスムーズに協力し合うことのできる仕組みがあることで、医療の現場がより効率的になるだけでなく、利用者にとっても安心感が高まります。

 

デジタル化を進める

多くの分野においてデジタル化が推進されていますが医療分野も例外ではありません。医療に携わる人手不足の懸念も高まる中、ITを活用したカルテの管理やデジタル技術を用いた薬局・介護施設との情報連携などを導入し、業務を効率化・最適化していく必要があります。

最近では、インターネットを利用した遠隔診療も注目されています。電話やオンラインを利用した診療については、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、規制が緩和される方向性で動き出しました。交通の便のよくない場所に住んでいたり、身体的な事情で外出しにくかったり、定期的に通院することが困難な利用者のニーズにも対応するために、遠隔診療の導入も進めていく必要があるでしょう。

デジタル化を取り入れることが、人手不足の解消や労働環境の改善、高まる医療ニーズへの対応などの効果が期待できます。

 

医療業界のM&A

医療業界においても、山積する課題に対処するための手段の1つとしてM&Aという選択肢が考えられます。医療業界のM&Aについて見てみましょう。

 

医療業界のM&A手法とは

医療業界と言っても、分野や形態により考えられるM&Aの手法は異なります。

まずは医療法人について考えてみましょう。医療法人では、通常の企業とは異なり株式が発行されていないため、ほかの業界では一般的な株式譲渡などの手段を用いることができません。では、どのような手法が用いられるのでしょうか。

医療法人は出資持分がある法人とない法人に分けることができますが、出資持分がある場合に一般的なのが持分譲渡です。出資持分がない場合には、経営権の取得によりM&Aが進められるほか、ほかの医療法人との合併や事業譲渡という手法が選択されるケースもあります。

出資持分のある医療法人の数の方が多く、また、合併や事業譲渡は許認可の申請に時間がかかったり様々な規制を確認する必要があったりなど手間がかかりやすいため、医療法人のM&Aは比較的簡単に進めることのできる出資持分譲渡の手法がよく利用されています。

 

一方で、医療機器メーカー等の場合は、通常のM&Aと同様に株式譲渡等の手法も活用することができます。近年では医療機器関連のM&Aが増加傾向にあり、海外では、治療機器を扱う企業がM&Aにより規模拡大を達成した事例等が見られます。日本においても例外ではなく、革新的な機器や技術を生み出したベンチャー企業が大手企業に買収されるケースが増えています。

たとえば2017年、Biomedical Solutionsが大塚ホールディングスの傘下で医療機器の製造を行うJIMROに買収されるというニュースが発表されました。Biomedical Solutionsは、ステント型血栓除去デバイスという脳梗塞治療のための医療機器を開発し、実用化を進めていた企業です。大手企業の傘下となることで、機器の量産化を進めることができ市場に供給しやすくなるためM&Aの検討が進められました。

このように、小回りのきくベンチャー企業がスピード感を持って新しい機器を開発し、その後、大手企業とのM&Aにより規模拡大を目指す戦略は、医療機器業界などにおいても一般的となってきています。

 

医療業界のM&A動向

多くの課題を抱える医療業界において、M&Aの実施は課題解決のための経営戦略の1つとして注目されており、医療業界のM&Aは、今後も増えていくことが考えられます。

高齢化などに伴い人々の医療ニーズが増加し多様化する中で、医療機関では人手不足が深刻化している一方、十分な人手を雇うためにも労働環境の改善等を進めなければならず、人件費の増加に加え、設備の維持費のための負担も小さくありません。M&Aを進めることで経営の効率化につながり、課題を解決できる可能性があるため、現在M&Aによる病院のグループ化などの事例が増えています。

また、診療報酬の引き下げの影響もあり、経営難に陥る医療機関も多くあります。利益がなければ施設の老朽化への対応や人材雇用なども満足にできません。さらに、後継者がいないために物理的に経営の存続が難しいようなケースでは、事業譲渡を選択することもあります。

多くの業界で注目されているM&Aは医療業界でも将来的な発展のためにM&Aを検討するケースは増えています。

 

まとめ

高齢化社会の進展などに伴い、医療の需給の不一致など、医療業界の課題は増えています。

さらに、長引く新型コロナウイルス感染症の影響もあり、多くの病院や医療サービスが難しい状況での経営を強いられています。安定的な医療サービスの提供を維持するためには、包括的な医療システムの構築やデジタル化の推進などが不可欠です。また、M&Aによる規模拡大や効率化も選択肢となっていくでしょう。

医療業界の中長期的な発展のためにも、柔軟な対応が求められています。

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