食品業界は大きな変化の時を迎えています。消費者のニーズが多様化し様々な新商品が開発される一方で、国内の人口減少に伴いその市場規模も縮小に向かっています。
今回は食品業界のM&Aの動向について、成功事例を交えながらご紹介します。
食品業界の基本情報
「食品業界」とは、食品や飲料を製造し、小売店などを通して販売を行う業界です。
食品業界を分類すると、以下のようになります。
- 畜産食料品、水産食料品
- 野菜缶詰、果実缶詰、農産食料品
- 調味料、糖類、動植物油脂
- 精穀、製粉及びでんぷん、イースト、こうじ、麦芽
- パン、菓子、めん類、豆腐、油揚げ、冷凍調理食品、惣菜
これらを製造・販売しているものをまとめて食品業界としています。また、これらの製造を担当するものは、まとめて食品製造業と呼ばれます。
食品業界の動向
食品業界の動向として指摘しておきたいのが、原料価格の上昇が顕著な点です。円安による輸入価格上昇に加えて、近頃は異常気象により原料の収穫が安定せず価格が上昇しているケースが多くあります。そのうえ燃料価格も上昇しており、光熱費が経営に大きな負担をかけています。
また、近年は新たなニーズが発生しています。
例えば、ダイエットや美容などの「健康ブーム」によるニーズです。その他、環境に配慮された商品を選ぶエコ意識や、食品表示のチェックをする安全意識の高まりも、新たなニーズを作っています。
食品業界のM&A動向
では、食品業界におけるM&Aの動向はどのようになっているのでしょうか。まず、食料品製造業を大きく2つに分ける考え方を紹介します。
それは「素材型」と「加工型」の2つです。
素材型:加工業や外食産業などに原料を販売している業種
加工型:原料を加工して商品を製造し、その商品を販売している業種
素材型の企業は、M&Aにおいて扱う商品の多角化を目指すというケースが多いため、同業他社の買収が活発です。
それに対し加工型の企業は、グローバル化の波に乗ろうと海外メーカーの買収をするケースが目立ちます。
なお、食品業界のM&Aは異業種からの新規参入する企業も目立ちます。健康志向の高まりを捉えた製薬会社が食品業界に乗り出した事例もありました。さらに、農林水産省が提唱している「6次産業」の影響も出てきています。6次産業とは、「1次産業」「2次産業」「3次産業」を掛け合わせた数字から出てきた言葉で、農林漁業などと製造業、小売業を統合し一連の流れで行う取り組みです。
農林水産省はこの取り組みを盛り上げるために、政府と民間で出資するいわゆる官民ファンドを設立しました。これにより、食品メーカーは地域から出資を受けることができるようになっています。
食品業界M&A活用のメリット とは
では、食品業界の企業はM&Aで会社や事業を売買することによってどのようなメリットを狙っているのでしょうか。買い手側企業・売り手側企業の双方の目線で、詳しいメリットをご紹介します。
買い手側企業にとってのメリット
買い手側のメリットとして、売り手企業の商品を自社商品として取り込んだ新商品の提供が挙げられます。さらに、通年で需要が安定しているビジネスを取り入れることで、経営を安定させられる可能性が高まります。作物の収穫時期や季節的なニーズで、繁忙期と閑散期に波がある企業も多くあります。波が激しい場合、持っている生産力を活かしきることができません。そこで買収によって、閑散期だった時期に別の商品を生産することで、通年の売り上げを伸ばすことができます。
また、取引先が拡大することもメリットです。仕入れ先や販売先など、売り手企業がこれまで培ってきた基盤を手に入れることができます。
売り手側企業にとってのメリット
売り手側が享受できるメリットとして、収益性の確保が挙げられます。
大手企業や有力グループの傘下に入ることで、生産の規模が大きくなり、生産性が向上することが考えられます。製造にかける金額が上がり、設備強化も可能になれば製造のノウハウが上がり、衛生管理の強化が期待できます。
また、大手が開拓してきた販路に商品が乗るので、販売強化も期待ができます。買い手企業の力によっては、海外進出が叶うこともあるでしょう。
他に、後継者問題の解決というメリットも挙げられます。M&Aが成立することで、従業員を路頭に迷わせることなく雇用確保が叶います。さらに、技術やノウハウを若い人に承継するチャンスを得ることもできます。
食品業界M&Aでの成功事例
さて、ここまでは食品業界がM&Aを利用することで受ける双方のメリットについて紹介しました。ここからは、実際の成功事例を6つご紹介します。
鮮魚事業に特化のため、広大なパプリカ農園を建設業経営者へ事業引継ぎ
福島県東白川郡塙町でパプリカ・レタス・ほうれん草などを生産している「有限会社はなわふれあい農園」の事例です。「有限会社はなわふれあい農園」では、親会社が主力事業である鮮魚事業に特化することになったのに伴い、子会社譲渡という形で事業引き継ぎ先を探していました。
買い手となったのは、福島県内で建設業を営む経営者。新規事業として農業を営みたいという強い意向があり、福島県内である点も決め手となり締結に至りました。建築業という異業種とのM&Aに当初は現場から不安の声もありましたが、買い手側の丁寧な対応で契約締結となりました。
https://batonz.jp/learn/7158/
老舗サイダー屋さんを公務員が事業承継、地域の宝を残したい
広島県尾道で老舗サイダー屋として愛されてきた「後藤鉱泉所」の事例です。一本ずつ手作りするサイダーは地元民や観光客から大人気。ここに目をつけたのが、広島県の自治体の地方公務員の男性でした。彼は、定年後のセカンドキャリアとして地域活性化に関わることを熱望していました。その際に「後藤鉱泉所」が、オーナーの高齢化を理由とした後継者の募集を見つけました。そこでマッチングを申し込み熱意を伝え、契約締結となりました。
https://batonz.jp/learn/6827/
メロンで地方創生!M&Aアドバイザーが事業承継型M&Aで静岡のクラウンメロン販売に参入
M&Aアドバイザーとして活躍している男性が、静岡でクラウンメロンの卸販売を行う「メロンショップマエシマ」とのM&Aを行った事例です。
「メロンショップマエシマ」の社長は、後継者不在のために外部からの経営者を募集していました。男性は当初、アドバイザーの立場でメロンショップマエシマから売却の相談を受けました。
しかし、条件面で折り合いがつかない時期が続いていました。その中で、クラウンメロンの魅力や社長の思いに共感し、自ら経営に参画しようと名乗り出ました。通信販売やふるさと納税への登録を行い、すべり出しは順調。今後は加工品の開発も進める方針です。
https://batonz.jp/learn/6749/
飯沼誠司氏「地域経済に貢献したい」長野の老舗パン・菓子製造業を買収
ライフセーバーや俳優、タレントとして活動する傍ら、事業家としても活躍する飯沼誠司さん。彼は2020年秋に、長野県の老舗パン屋を買収しました。
自身が経験してきた様々な活動から派生できる事業はないかと探していた飯沼さん。シンプルな素材で作られる健康志向のパン屋さんは、スポーツとの相乗効果を生むのではないかと思い、興味を持ちました。社員の希望や長所を考慮した業務分担を探るなど、ライフセービング日本代表の監督をした経験を活かして、約30名の社員をマネジメントし、共に新しい視点でのサービス提供に取り組んでいます。
https://batonz.jp/learn/6648/
ケーキを販売し続けて40数年。体力の限界迎える前にM&Aで第三者に承継
長年滋賀県でケーキ屋を営んできた男性が、事業を譲渡した事例です。男性は、体力的に運営を続けていくのが難しいと判断し、譲渡を決断。後継者がいなくても、お店をどうにか続けて従業員を雇い続けたい思いがあっての選択でした。
譲渡先に選んだのは、個人事業主の男性でした。彼に食品業界での経験があったこと、今後の会社経営に欠かせないであろうデジタル分野に明るい人物であったことが決め手でした。契約は無事完了し、業務をスムーズに引き継げました。お店の存続が叶い、取引先や従業員との関係も良好で「ほっとした」と胸をなでおろしています。
https://batonz.jp/learn/5709/
「目標は3年以内に売上3億円」コロナ禍でリスク分散に複数M&A、初の買収はケーキ屋さん
個人事業主として設計業務に携わってきた男性が、ケーキ屋の経営を引き継いだ事例です。彼は、個人事業主として1つの事業を行うだけでは頭打ちになると考え、M&Aに興味を持ちました。
大きな利益は出ていないケーキ屋でしたが、何10年も黒字経営をしている点やオーナーのお店への愛着が決め手で、契約締結に至ったとのことです。まだ小さな会社ですが、「3年以内に売上3億円」に育てることを目指し、今後もM&Aを行いながら規模を拡大していく方針です。
https://batonz.jp/learn/5142/
まとめ
食品業界のM&Aの動向をご紹介してきました。
M&Aが活発化している食品業界ですが、事例を見てもわかるように、売り手側にも買い手側にも双方にメリットのある素晴らしい契約が多数実現されています。M&Aをお考えの際は、参考にしてみてはいかがでしょうか。
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