今回はレディースアパレル通販サイトを譲渡された平田様(仮称)の事例です。競争激しいEC業界では、効率化と拡大戦略がカギを握るようです。M&A成約までの背景を伺いました。
競争激しいEC業界、ダメージが少ないうちに早期撤退を決意
――どのような事業を売却されたのですか?
大きいサイズ専門店の通販サイトを譲渡しました。4L〜10Lのレディース商品を取り扱っており、主に楽天やWowmaに出店していました。バトンズでは8ショップ運営していたうちの4ショップを売却しました。
――なぜ譲渡しようと決められたのですか?
単刀直入に言うと、送料が値上がりしたことで利益率と売上率が下がってしまったからです。これまでに粗利率を上げようとOEMや直仕入も検討してみたんですが、たかが知れている粗利率しか計算できなかったので、それならばメーカーに売却した方が粗利率が一気に戻るなと考えました。
仮に1千万円売り上げがあっても、送料手数料を差し引いて最後に200万円残るくらいの粗利率でした。売り上げが100とした場合、仕入れ値を差し引いた粗利が50%残るんですが、そこから送料で20%引かれ、残り30%から楽天やWowmaといった出店先から10%引かれます。その時点で限界利益20%なんですが、そこからさらに人件費を払わなければいけないので利益はほとんど出ないんです。
売上を2千万まで持っていければ黒字化できたんですが、大手の競合他社がいるなかで売上をそれくらいまで上げるにはあと数年かかってしまう。幸い、僕らが売却した先のお相手(買い手)企業は粗利率が8割くらいあり、現状の事業の規模感でも儲かるというお話しを頂いたので、潔く譲渡することを決めました。自分たちで毎月赤字を垂れ流して何年かかけて立て直していくよりかは、早く売却して違う事業をやったほうがいいと判断しました。
――大きいサイズ専門はニッチなマーケットですが、ECショップは競争が激しいというイメージがあります。拡大戦略を実行するのか撤退するのかの見極めが重要ということでしょうか。
ニッチではありますが、楽天などの大手に出品する場合のしっかりとしたマニュアルがあり、様々な軸で分析した結果、大きいサイズ専門店が当時あまりなかったので事業化を決めました。
とはいえ、アパレルはどうしても価格の潜り合いになってくるので、そこを覚悟してどこまで体力を維持できるかと、固定費をどこまで削っていけるかの”効率化”が勝負の分かれ目になってきます。
自分たちでネットショップを運営していると、どうしても商品を送るまでの作業や配送に係る費用は削れない為、運営が適当になりやすいです。運営が適当になると納期が遅れたり、仕入れ商品を間違ったり、余分に仕入れたりしてしまいます。
どんどん運営の効率化が狂ってしまうので一度自分たちでシステムを組んだりもしたのですが、処理できる量に限界があったためシステム導入は出来ませんでした。ニッチなマーケットではあるので、そんなに値崩れしないように経営していましたが、大手が入ってくるとどうしても価格競争が避けられないため譲渡を決心しました。
元々いた競合他社も、買収されて資金力をつけると価格競争を始めてくる。そういった競合はパッと見でも赤字が多かったのですが、それでも買収で体力を得たことで、お金を使いながらマーケットのシェアを取っていく手法を続けていらっしゃいましたね。
現れたのはECのノウハウを持つメーカー、従業員もM&Aを好意的に受け止めてくれた
――マッチングから成約までの流れはいかがでしたか?
2019年12月に売却することを決め、2020年1~2月にバトンズで買い手さんを探し始めました。マッチングは掲載後数日でいただきました。その後も何社か連絡をいただきましたが、最終的には一番最初に問い合わせを下さったお相手に譲渡を決めました。
買い手さんは様々な背景の方がいらっしゃいましたが、売上を2倍にできる会社、または粗利率を上げていけるノウハウを持った会社はどこかを軸に考えたとき一社しかなかったため、今回のメーカーさんにお譲りすることにしました。
実は、M&Aを進め始めた時期は旧正月にあたり、売上が見込めるシーズンだったのですが、ちょうどコロナが始まり一時は在庫が中国から届かない時期もありました。それでもなんとか持ち直し2020年5月の収支はトントンになり、メーカーの買い手さんが経営を完全に引き継ぐ直前の最終月は黒字化させることができました。
――初めてのM&Aで懸念はございませんでしたか?
懸念や不安等は全然なかったです。とりあえずやってみようという感じでした。
――交渉中はどんな論点がございましたか?
価格、いつ引き継ぐのか、どのくらい引継ぎ期間を設けるのかといった点ですね。特に問題は起こらず、昨年3月頃に最終契約を結びました。
――引き継ぎ期間は具体的にどういったことを行われましたか?
社内ではレポートの更新や出品作業、振込み手続きといった運営業務の引き継ぎと、財務や事務、受注管理の引き継ぎ説明を行いました。あとはビジネス状況や主なKPIの説明です。
――今回従業員さんにはどのようにM&Aのことをお伝えしたのですか?
従業員8名全員を引き継いでもらいましたが、どうなんだろう、そんなに僕らの前でびっくりしたような反応はしなかったかもしれないです。売却理由が明確だったからかもしれません。粗利率を何とかしたいというのと、黒字にするため改善すべきポイントが数カ所しかないのが従業員も分かっていたので、売却の話をするときに反発されることはありませんでした。
むしろ、統合されることで会社規模が2倍になり、「他のメンバーが増えるのが楽しみだよ」と言ってくれた従業員もいました。
コロナ禍はコンサルティング事業に集中、将来はファンド事業も構想
――事業規模を整理したことで見通しは立ちましたか?
赤字店舗や粗利が低かった店舗を全て売却したので事業は大幅に整理できました。8店舗運営していた以前は一人につき2店舗担当していたので、譲渡後、一人1店舗の運営に集中するようにしました。
――譲渡後、約7ヶ月経ったと思いますが、現在注力されている事業について教えていただけますか?
現在はECサイト事業を株式ごとすべて売却し全8店舗手放しました。いまは新たな事業として様々な業種の経営コンサルティングを行っています。
元々、大手IT企業やブランドに在籍していた経験から、経営の立て直しについては経験がありました。その延長線みたいな形です。コロナ禍で固定費をかけずに売上を作ることができる業態を考えたとき、コンサルティングがいいだろうと考えました。
本当は自分たちで事業を買収してまた売却するというのも考えていたんですが、回収までに時間がかかる上、コロナの影響で売りに出ている会社はさらに増えています。そんな状況ですぐに経営の立て直しができるのかと考えたときに厳しくなりそうだと予測していたので、先にお金をかける必要なく割と早く収益化しやすい、かつ幅広く事業を行えるビジネス形態かなと思い経営コンサルティングを始めました。
――今後は経営コンサルティングを主軸に事業を大きくしていくということですか?
現状はそうですが、最終的にはコンサルティング事業も売却を検討していて、将来的には最終形態としてファンド会社に近しい事業を構想しています。VCとかではなく、会社を買収し立て直した後に売却するビジネスにしていけたらと思っています。
――ありがとうございました。
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