個人経営や法人経営を問わず、調剤薬局業界のM&Aが活況を呈しています。
従来の調剤薬局は「個人経営が7~8割」と、大手による再編の進んでいない低寡占業界でした。しかし、近年の調剤報酬改定や段階的な薬価の引き下げが業界に大きな衝撃を与え、調剤薬局のあり方そのものが見直されている段階にあります。
このような状況下で、大手チェーン薬局をはじめ、大手ドラッグストアや商社などの異業種も参入してきて、店舗拡大やスケールメリットによる収益の増加、優秀な薬剤師の確保を目的としたM&Aが行われています。
今回は調剤薬局の定義や最新の動向、さらにはM&Aで薬局を買収する際の重要な判断ポイントについて詳しく解説します。
調剤薬局業界の現状とは
2020年現在、調剤薬局は日本全国に6万拠点以上あり、その数はコンビニエンスストアよりも多いとされています。同じく薬を販売している業種にドラッグストアがありますが、両者には明確な違いがあります。
ドラッグストアは般用医薬品や日用品を販売する小売業ですが、調剤薬局は顧客(患者)に対して調剤という医療行為を提供する場所です。国家資格を持った薬剤師が常駐しており、病院のドクターの処方に基づいて薬を販売するというビジネスモデルで成り立っています。
ただし、最近では薬剤師が常駐して調剤薬局としての機能を備えたドラッグストアも増加傾向にあります。
調剤薬局業界の現状と展望
調剤薬局業界を俯瞰して見ると、「大手のシェアが小さく、零細の薬局が多い」という特徴があります。大手調剤薬局のシェアは全体の15~20%程度で、まだまだ業界が集約の途上にあるというのが調剤薬局業界の現状です。
しかし、調剤薬局業界のM&Aは2010年ごろからさかんに行われており、業界大手と言われるアインホールディングス、日本調剤、総合メディカルなどが積極的に小規模店舗を獲得しています。
今後、さらに業界が再編される要因としては以下の3つが考えられます。
・大手のシェアが少ない
・業界が変わる見込みがある
・異業種(ドラッグストア等)の参入
それぞれの要因について詳しく見ていきましょう。
大手のシェアが少ない
前述したように調剤薬局業界の再編は進みつつありますが、それでも大手調剤チェーンや大手ドラッグストアのシェアは20%程度にとどまり、全体の約7割が個人薬局で構成されています。
ただし、ここ5年ほどで年間1,000店舗ペースでのM&Aが行われており、今後ますます業界再編、大手による寡占化が進むと、20~30年後には今の店舗数が半減してもおかしくないと考えられます。
業界が変わる見込みがある
業界を取り巻く環境の変化も、業界再編の動きに拍車をかけている要因のひとつです。厚労省は2016年4月の調剤報酬改定で、かかりつけ薬剤師やかかりつけ薬局を高く評価する方針へ転換しました。
2018年4月の改定では地域医療への貢献や対人業務への評価を充実させる一方、特定の医療機関からの処方せん集中率が一定数以上である場合には、調剤基本料が引き下げとなりました。
さらには、国の医療費削減制作に伴う診療報酬や医療品の薬価差益の縮小、慢性的な薬剤師不足、個人薬局の薬剤師の高齢化、後継者不足なども問題となっています。
異業種の参入
日本の高齢化が進むにつれ、調剤薬局業界は一定の成長が見込めることから、ドラッグストアやスーパー、商社など異業種からの参入も増加傾向にあります。これにより、調剤薬局業界はさらなる競争激化の時代に突入すると見られます。
調剤薬局のビジネスモデル
調剤薬局のM&Aを検討するにあたって、そのビジネスモデルについて理解を深めておくことが必要不可欠です。
医薬品の売値は国が決める|ビジネスモデル1
医薬品の売値の内訳は以下のとおりです。
①調剤業務に対する技術料
②薬の販売価格
技術料、薬の販売価格ともに価格は国(厚生労働大臣)が決めており、製薬会社や薬局が自由に値付けすることができません。
さらに、2年1回のペースで薬価改定が行われます。薬価改定とは文字どおり薬の価格を見直すことで、2年に1回、4月の診療報酬改定と同時に行われます。ここで決まった薬価は次の改定まで変わりません。
売上はドクターからもらう処方箋|ビジネスモデル2
調剤薬局の売上は、医療機関のドクターからもらう処方箋が基となっています。
数年前まではいわゆる「門前薬局」という確固たるビジネスモデルが築かれていたことにより、大病院の近くの調剤薬局は大きな利益を上げることができていました。門前薬局は目の前にある病院の患者さんが対象顧客となるからです。
しかし、前述したように特定の医療機関からの処方せん集中率が一定数以上である場合は調剤基本料が引き下げとなり、門前薬局は以前に比べて利益を上げることが難しくなっています。
販売員は薬剤師|ビジネスモデル3
調剤薬局の販売員は、国家資格である薬剤師です。現在の調剤薬局業界は慢性的な薬剤師不足、薬剤師の高齢化、後継者不足という課題を抱えています。
さらには、ただ薬剤師を確保すれば良いというものではありません。現在は地域医療への貢献度の高い「かかりつけ薬剤師」が高く評価される時代となっています。
資金が乏しい個人薬局はかかりつけ薬剤師の獲得が難しく、後継者を見つけられていないケースも少なくありません。
薬の仕入れ値|ビジネスモデル4
薬局を複数運営して大量に薬剤を購入すれば、薬剤1つあたりの仕入れ値を下げることにつながり、大きな薬価差益を得ることができます。
大手チェーン薬局は、処方せん 1 枚あたりの売上総利益が高い傾向にあります。とくに大病院の門前にあるチェーン薬局は高額薬剤を扱っており、なおかつ薬剤を大量購入できる購買力があることから、薬価差益が大きくなるからです。
2016 年の調剤報酬改定は大手門前薬局に厳しい改定でしたが、大手門前薬局、大手チェーン薬局は購買力の高さから、高い利益率を維持しています。
調剤薬局を買収するときの判断ポイント
調剤薬局のM&Aは2010年ごろからさかんに行われています。2010年代は大手による陣取り合戦の時代で、アインホールディングスをはじめ、日本調剤や総合メディカル、その他大手すべてがM&Aで店舗を獲得してきました。
2014年に最大手のアインホールディングスが出店した店舗のうち75%がM&Aによって獲得したもので、残りが独自に出店したものです。
しかし、調剤薬局のM&Aはとにかく数を獲得する時代から、最近は薬局1店舗の質を求めるステージに突入しています。
キーワードは「地域包括ケア」、「かかりつけ薬局(薬剤師)」です。
近年、患者さんへ処方アドバイスができる薬局、薬剤師は技術料がアップするようになりました。厚生労働省が地域への貢献度の高い薬局、薬剤師を高く評価するように方針転換したからです。
M&Aにおいても、サービスの質の高い調剤薬局は価値が高くなっています。では、質の高さはどこで判断すれば良いのでしょうか?ポイントは以下の4つです。
1. 集中率
薬局の集中率は月経表で確認します。特定の病院やクリニックからからの処方箋が集中している薬局は評価されにくい傾向にあります。
2.薬剤師の年齢・後継者有無
調剤薬局業界は慢性的な薬剤師不足の問題を抱えています。質の高い調剤薬局でも薬剤師が高齢であったり、後継者がいなかったりすれば、経営を続けていくことができません。
3.管理薬剤師の年齢、意向、M&A後に付いてきてくれるか
管理薬剤師とは、医療品や従業員を管理する責任者にあたる薬剤師のことです。前述の通り、調剤薬局業界では大手門前薬局や大手チェーン薬局ほど利益を上げており、とくに若手の管理薬剤師は大手志向が強い傾向にあります。
管理薬剤師の年齢、意向をヒアリングして、M&A後に新オーナーに付いてきてくれるかどうかは、M&Aを判断する重要なポイントのひとつとなるでしょう。
4. 立地
調剤薬局のM&Aにおいては、薬局の立地もM&Aを検討する際の重要な判断ポイントです。近隣にどのような病院やクリニックがあるか、薬局までのアクセスは便利かなど確認しておきましょう。大病院の前に店舗を構える薬局であっても、近くに空き地があれば競合が参入する可能性があり、競争が激化する可能性があります。
まとめ
調剤薬局業界のM&Aの動向や買収を検討する際の重要な判断ポイントについて解説しました。厚生労働省が示した新たな方針がそうであるように、現在の調剤薬局M&Aは最終的に「地域医療に貢献できるかどうか」という視点でM&Aを決断すべきステージに来ています。
M&Aで調剤薬局を獲得したいという方は、「新たに調剤薬局経営に参入」または「店舗数の拡大」とそれぞれに目的が異なると思いますが、上記のポイントを踏まえ地域医療貢献、そして従業員の気持ちを考慮した上で、利益を最大化できる薬局M&Aを行いましょう。
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