日本は景気がよい状態であると言われていますが、中小企業で好景気を実感しているところは少ないでしょう。人件費の高騰や人材不足、さらには後継者不足など中小企業にとって不利な条件はたくさんあります。そうした苦しい中小企業に対して、潰れてしまった方がよいという中小企業淘汰論というものも出てきています。
しかし日本では、中小企業で働く人が約7割と、中小企業が潰れてしまえば中小企業で働く人たちの職場が奪われるのは間違いありません。そうした状況の中で中小企業はただ潰れるのを待っている事しかできないのでしょうか。
そんな事はありません。そこでこの記事では、中小企業がどのように生き残っていけばよいか、その具体的な方法として中小企業組合を紹介し、その可能性について説明します。中小企業の経営者だけでなく、中小企業で働いている人もぜひこの記事を参考に、生き残り策として中小企業組合も考えてみてください。
中小企業の限界とは
中小企業の限界と言われることがありますが、具体的にはどのようなことがあるのでしょうか。ここでは4つの限界について説明します。
1.人材不足
中小企業における人材不足は深刻です。現状、売り手市場と言われており、優秀な人材は大企業に就職します。中小企業でも人材を確保できるIT系のような会社もありますが、飲食等はアルバイトでも集まらないという状況です。
売上としては悪くはないのに、働く人がいないので事業を継続できないという飲食店もあります。コンビニでさえも人材不足で24時間営業ができないというところも出てきています。人材不足は中小企業の重要な問題のひとつになっています。
2.後継者不足
中小企業、とくに製造業においては後継者不足というのが深刻です。職人的な技術を持ち、受注もありながら後継者がいないため、事業を終わりにせざるを得ないというところもあります。
この問題には、職人的な技術を持ちつつも、安く受注し続けているため売上が上がっていないという問題が隠れています。こうした問題に気づきながらも、人を育てられず、受注額を上げることもできず、後継者不在のため事業を辞めてしまうことがあるわけです。
3.新しいやり方を導入しない
中小企業と付き合いが長い人はわかると思いますか、なかなか新しいやり方というのを導入したがらないんですね。たとえばシステムを導入すれば簡単に済むような給与計算が、いまだに手作業での入力であることもあります。
また在庫管理などもシステム化されておらず、働いている人がチェックした数字をExcelに入力するというやり方を続けているところもあるのです。システム化すればかなり人件費も削減になりますし、効率化もするわけですが、そのシステムを導入する設備投資の費用が出ません。
お金があったとしても、システムの導入費用がコストとして計算され、導入を嫌がる傾向があります。そのためどうしても新しいやり方を導入できない中小企業が多いわけです。
4.独自商品がない
中小企業の場合、その企業独自の商品がないところもあります。つまり下請けとして仕事をもらっているケースです。この場合、親会社の都合で仕事がなくなることもあります。また仕事を受注して行うやり方になるので、売り上げが安定しないのです。
一方で独自の商品があれば、その商品を売り続けていくことで、親会社の影響受けることが少なくなります。また仕事を受注するだけでなく、独自商品を売ることもできるので、売り上げも安定します。
そうした独自商品を作る必要性があるわけですが、さきほどの新しいことを導入できないこととも関係があり、自分たちの商品を作るという方に向かないことが多いです。
プロ野球のマーケティングに学ぶ!中小企業の生き残り戦略
このように中小企業にはさまざまな困難があります。しかし中小企業の数は多いですし、独自の技術を持っている企業もあります。ただ新しいことができなかったり、人材が不足していたりして、うまく売上を上げられないことも多いのです。
ではどうすればよいでしょうか。そこで生き残り策の1つとして考えられるのは、中小企業同士で協力して経費削減や新しい事業をはじめるという方法です。ここではパシフィックリーグマーケティング株式会社の例も紹介し、中小企業として生き残るポイントを説明します。
パシフィックリーグマーケティング株式会社とは
皆さんはパシフィックリーグマーケティング株式会社をご存知ですか。パシフィックリーグと書いてあるので、野球に詳しい事はパ・リーグの6球団が設立した合弁会社であるというのがわかるでしょう。
この企業の役割は、パ・リーグの試合を配信するパ・リーグTVの運営や、パ・リーグ6球団のサイトの企画や運用、さらにはパ・リーグのイベントなどを企画しています。パ・リーグと言えば、今まではセントラルリーグに比べ人気がなかったわけですが、こうした6球団で協力した取り組みによって、パ・リーグはかなり盛り上がっているといえます。1球団ではできないことを6球団でやるというコンセプトで行われている会社です。
パシフィックリーグマーケティング株式会社はなぜうまくいったのか
現在パシフィックリーグの大会を見れば、この会社が成功しているというのがわかるわけですが、実際に11年で売り上げは約30倍になっています。ではなぜうまくいったのでしょうか。
その1つがパ・リーグTVです。このパ・リーグTVは、10年で約10倍の売り上げをもたらすことになりました。現在の生活スタイルから考えると、ネットで試合を見るのは自然な流れになっているわけです。
このパ・リーグTVというのは、今までのローリスク・ローリターンのレベニューシェアモデルからの転換を意味しています。既存の球団がリスクを取って協力して行った結果なのです。つまり思惑が違う会社でも、協力して行えば成功するということです。
中小企業が生き残る方法~中小企業組合
パシフィックリーグマーケティング株式会社のようなやり方を中小企業でやるとなると、ハードルが高いかもしれません。そこで1つ考えられるのが中小企業組合です。
中小企業組合とは
中小企業組合とは、中小企業が協力して仕入れを行ったり、新しい事業をはじめたりするなど、協力をする場として活用することが目的で設立される団体です。中小企業組合というのは中小企業組合制度を活用して作ることが可能です。中小企業組合の代表的なものとして、事業協同組合と企業組合というのがあります。ではこの2つにはどのような違いがあるのでしょうか。
株式会社と事業協同組合、企業組合の違いとは
中小企業組合には事業協同組合と企業協同組合があります。では一体どのような違いがあるのでしょうか。また株式会社とは何が違うのでしょうか。
まず株式会社と中小企業組合は大きく違います。株式会社は会社の利益追求が目的ですが、中小企業組合は組合員の経済的利益が目的です。また株式会社は資本を中心とした組織ですが、組合員は人を組織の中心にしています。
さらに組合員は出資をしますが、4分の1という制限があり、議決権や選挙権も1人1票になってます。設立に関しては株式会社が1人以上であれば認可も必要なく設立できるのに対し、組合は4人以上の発起人が必要になります。
では事業協同組合と企業組合の違いは何でしょうか。事業協同組合は4人以上の中小企業を経営している事業者によって設立されますが、企業組合は4人以上の個人が設立する組合です。そのため事業協同組合が企業間の関係であるのに対し、企業組合は個人が中心となって、それぞれがアイディアや技術を持ち寄って、新しい仕事をしていくという形になります。
企業組合は周りの主婦や友達と一緒に授業をしたいという場合そういうことも可能です。
中小企業組合に参加するメリットとは
では実際に組合に参加することでどのようなメリットがあるのでしょうか。実際の効果としては協力することで生産性や技術力が向上したり、新たな分野へ挑戦したりすることもできます。
また同じ業界の中小企業で協力することで、業界全体の地位を向上し、中小企業が集まることで、要望や意見等が行政に届きやすいというメリットもあるのです。
さらに中小企業組合には、金融上の助成があります。たとえば中小企業組合による商店街の近代化等の事業に対して、独立行政法人中小企業基盤整備機構と都道府県が一緒になって、資金やアドバイス両面で支援する高度化融資制度を設立しています。また法人税率の軽減なども行われており、税制上の優遇も受けられるのです。
中小企業組合の事例は?
先ほど述べた通り、中小企業組合の代表としては事業協同組合と企業組合があります。では実際にどのような事例があるのでしょうか。
事業協同組合としては、協同組合浦和のうなぎを育てる会があります。浦和はうなぎの蒲焼の発祥の地としても知られています。そのため最盛期には50店舗以上も蒲焼専門店がありましたが、現在は20店舗ほどになっています。さらにうなぎの稚魚が少なくなっているため、安定的にうなぎを仕入れることも難しい状況です。
そのため浦和ではこの事業組合を作り、イベントの開催や後継者の育成、生育環境保全活動を行っています。うなぎの供給体制をしっかりと確立することで、組合員の仕入れコストを減らすことが目標です。
企業組合としては、企業組合河北イタリア野菜研究会があります。こちらは山形県にある河北町が特産品を作ることを目的に設立したものです。最初は2団体でスタートしたのですが、事業を拡大するためには、信用力が必要であるため、「企業組合河北イタリア野菜研究会」が作られました。
法人組織を作るという話もありましたが、それぞれの農家が会員同士で話しながら活動していくことを目的にしているので、企業組合という形になっています。イタリア野菜の街を目指し、さらにイタリア料理専門店に野菜を使ってもらうようにPR活動も行っています。
また農家の場合は跡継ぎの問題もあるので、魅力的な企画を行い、若い世代にも参加してもらうことで農家をついてもらえるように工夫しているところです。
まとめ
中小企業は景気がよいという恩恵も受けずに、人材不足や後継者不足など厳しい状況が続いています。しかし約7割の人が中小企業で働く日本において、中小企業がどんどん潰れていくことで、日本経済にとってよい影響与えるとは思いません。
ただし中小企業1社でこの状況を改善することが難しいのは間違いありません。そのため中小企業が生き残っていくためには、中小企業同士が協力して事業していく必要があります。中小企業組合は中小企業が生き残るための最適な手段のひとつだといえます。中小企業同士でつぶし合うのではなく、協力して共に発展していく。そうしたやり方こそ中小企業が生き残る最善の方法ではないでしょうか。
参考資料:https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/shinpou/2019/190329kumiaiguide.pdf
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