近年、少子高齢化による働き手の減少に伴い、学生の売り手市場となっています。
これに伴い、中小企業は新卒採用に苦戦。リクルートが行なった、平成31年3月卒業予定の大学生の求人動向調査によると、中小企業(従業員300人未満)の求人倍率(学生1人あたりの求人数)は9.91倍となっています。
このような状況のなか、中小企業が人材を確保するためには、どのような対策を取っていくべきなのでしょうか。現在の学生達が持つ「働く」ことに対する意識について、データをもとに探っていき、新卒採用に成功している企業の事例を紹介します。
学生の就職意識調査から読み取れること
マイナビが2019年に卒業する学生に行なった「就職意識調査」をもとに、「学生が企業に求めるもの」を探っていきます。
今どきの学生の就職観は、出世より個人の価値観重視
就職観とは、就職の軸と呼ばれるもので学生が就職において譲れないものや価値観のことです。
<トップ3>
1位:楽しく働きたい(33.3%)
2位:個人の生活と仕事を両立させたい(24.2%)
3位:人のためになる仕事をしたい(15.0%)
<ワースト3>
1位:出世したい (1.0%)
2位:収入さえあればよい(3.6%)
3位:プライドのもてる仕事をしたい (5.6%)
この結果から、学生は「出世すること」や「収入を得ること」などの「地位」や「金銭」への優先度が低い一方で、社内での働きやすさや業務内容、人間関係などから生まれる「楽しく働きたい」という気持ちが例年強いようです。
また、ワークライフバランスという言葉が生まれたように、個人のプライベートな時間を大切にしたいという思いが強いことがわかります。
「やりがい」が明確であれば、4割は中小企業への就職を望む
以下の統計からは、どれだけの学生が中小企業への入社を検討しているのかが分かります。
結果から、「中堅・中小企業がよい」とする学生の割合は全体の約6%で低いですが、「やりがい」のある仕事であれば中小企業でも働きたいとする学生は約4割を占め、中小企業への入社に前向きです。「やりがい」とは何なのか、今一度考える必要がありそうです。
女性は給料より安定して長く働ける企業を望む傾向
こちらの統計結果からは、企業選択のポイントを紐解いてきます。全体2位の「安定している会社」と全体3位の「給料の良い会社」の差が大きいことが分かります。そのため、学生が企業に求めるポイントは上位2つにあると言えそうです。
第3位の「給料の良い会社」に関しては、男女によって大きな差があることが分かります。男性に比べ女性の場合、給与が企業選びのポイントにはなりにくいことがこの表から読み取れます。
また、この表にはありませんが女性に限っては、第3位が「社風が良い会社」で約19%
第4位が「勤務制度、住宅など福利厚生の良い会社」で約18%となっています。女性は出産・育児といったライフイベントを見据えているからか、「長く働ける企業」を求めているといえるでしょう。
行きたくない会社の特徴も. . .
さらに企業選択のポイントとは反対に、学生が「働きたくないと思う会社」の特徴についても紹介します。あなたの会社がこれらに当てはまっている場合は、直ちに改善が必要です。
例年「暗い雰囲気の会社」はこの調査において1位をとっています。3位の「休日・休暇がとれない(少ない)会社」は、就職観で全体第2位の「個人の生活と仕事を両立させたい」と同分類の結果となりました。
こちらの表にはありませんが、理系男子においては「仕事の内容が面白くない会社」が24.8%と第3位に入っています。理系の男子は大学院への進学率も高く、学んだ知識を社会で活かしたいという気持ちがあるのかもしれません。
中小企業が抱える採用問題
株式会社野村総合研究所が行なったアンケート「中小企業・小規模事業者の人材確保と育成に関する調査」があります。これは、中小企業が自社で認識している「強み」と「弱み」を調査したものです。このアンケート結果から「人材確保ができている企業」と「人材確保ができていない企業」の差に迫ります。
<人材確保ができていない企業の特徴>
1位、人材獲得のためのノウハウ・手段がない
2位、労働条件(労働時間・職場環境・休暇制度等)が悪い
3位、賃金(基本給・ボーナス)が低い
中小企業が認識している最大の弱点は、「人材獲得のためのノウハウがない」ということでした。どんなに魅力的な企業でも、採用のためのノウハウや自社情報の発信方法がわからなければ学生にアプローチすることができません。
では一体、中小企業はどのような採用方法をとっているのでしょうか。
中小企業が利用する採用手段を挙げると以下のような感じです。
<中小企業が利用する採用手段>
1位、ハローワーク
2位、教育機関の紹介
3位、知人・友人の紹介
ハローワークの採用割合は高いのですが、人材の質や応募人数など、定着率が低いという課題があります。
マイナビやリクナビなどの就職ポータルサイトを活用することで、多くの人数にアプローチすることは可能です。その一方で、採用コストがかかるという問題があります。
自社サイトに採用ページを用意する会社もありますが、コンスタントな応募は期待できず人材採用手段としての効果は薄いようです。
いかに自社の魅力を適切にターゲットに発信できるか
採用したい人材によってアプローチの仕方は変わってきますが、学生が就職したいと思う企業の傾向は概ね同じであることがこれまでのデータから明らかになっています。これらの結果を通して、学生が長く働きたいと思う企業の姿を理解する、学生に最適な方法でアピールする、の2点において、対策を考える必要がありそうです。
情報発信がうまくできないと、せっかくの企業努力や功績も認知されず、学生の採用にもつながりません。中小企業にそもそも採用ノウハウがないという問題は、就業者にとって大切な企業の判断基準(賃金・労働条件・仕事内容他)に関する情報を、企業がターゲットとしている学生に適切に発信できていないことが根底に潜みます。
このように多くの中小企業が新卒採用に苦戦する一方で、採用方法を工夫し新卒採用に成功している企業も存在します。
採用に成功している企業の事例
こちらでは、働きやすさの改善や企業認知度の向上をはかることで採用につなげている3社を紹介します。
共和電機工業株式会社
これまで高卒男子の採用に力を入れていたものの、新卒採用に苦戦していました。そこで、採用ターゲットを高卒男子から女性に切り替え、女性が働きやすい職場環境を整えることにしました具体的に取り組んだ対策は4点です。
・3年間の育児休暇制度
・子供が小学3年生になるまで利用可能な時短勤務
・子供の夏季休暇に合わせた時短勤務
・妊婦への配慮
これらの整備を整えた結果、以下のような改善が見られました。
・ライフイベントによる離職者が大幅に減少
・従業員満足度が向上
・理系女子の採用につながった
女性が働きやすい職場環境の整備によって、新卒採用者数の改善につながりました。
大起産業株式会社
新卒採用における課題のひとつとして、高い離職率があります。新卒者の1年以内の離職率は約17%、3年以内の離職率が約48%など新卒採用者の離職率が高いという問題がありました。その対策として行われたのが以下の2点です。
・新卒社員が仕事における悩みを年齢の近い社員に相談できる教育メンター制度
・新卒社員に入社5年間にわたる手当支給
その結果、退職者が0%になり、社員の仕事への意欲向上にもつながりました。
根上工業株式会社
企業認知度が低かったため、化学系大学院卒の研究職採用が難しいという問題がありました。対策として行われたのが以下の4点です。
・新卒者向けの就活サイトへの登録
・県内外での合同企業説明会、学内合同説明会への参加
・大学との関係づくり強化
・残業の削減、サービス残業の撲滅など働きやすい環境づくり
これらを行なった結果、研究開発職としての就職先、働きやすい環境が整備されている企業として地元の学生に認知されるようになりました。
“いま”の学生がもつ就職観に歩み寄りながら、働きやすい職場環境を整備することが、人材確保のために重要であることをお分かりいただけたでしょうか。学生が就職したくなる会社を目指すことが、ひいては在籍している社員にとっても働きやすい職場環境につながるかもしれません。
<参考:https://www.sankei.com/politics/news/180426/plt1804260037-n1.html>
<参考:http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H27/h27/html/b2_2_2_1.html>
<参考:2019年卒マイナビ大学生就職意識調査>
<参考:第2部中小企業・小規模事業者のさらなる飛躍>
<参考:中小企業・小規模事業者の人手不足対応事例集>
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