前回行われた税率8%増の際、増税前後で大幅な駆け込みとその反動が生じ、個人の消費の落ち込みによる景気の低迷がつづきました。今年の10月に予定されている税率10%増では、その反省を活かし消費税の実質的な負担額を8%時よりも軽くすることで、増税前の消費を維持、場合によっては促進することが期待されています。
その取り組みのひとつが、「キャッシュレス化によるポイント還元制度」です。
日本では、Suicaなどの電子マネーやPayPayなど、キャッシュレス決済が徐々に浸透して来ていますが、海外と比べると、日本のキャッシュレス決済比率はまだまだ低いとされています(経済産業省のキャッシュレス・ビジョンから)。そこで、ポイント還元制度は、現金支払いがまだ主流といえるの日本の決済習慣をキャッシュレス化し、かつ増税対策と、一石二鳥の制度と捉えられてきました。ところが、実際には賛否両論が多いのが現状です。
そもそもキャッシュレス決済とは
キャッシュレス決済とは文字通り、現金を使わないで買い物をすることです。大都市圏を中心に多様なキャッシュレス決済が提供され、確実に、利用者は広がりつつあります。PayPayなどのスマホ決済アプリ、Suicaなどの電子マネー、クレジットカード、即時決済のデビットカードなど、利用シーンに応じた決済ができるようになっています。
キャッスレス化によるポイント還元制度ってどういうこと?
ポイント還元制度とは、2019年10月以降、クレジットカードなどを使用してキャッシュレス決済を行うと、ポイントが還元されるようになる仕組みのことです。消費税10%のポイント還元率が5%とすると、実質、消費税5%で買い物ができるということになります。
2018年、安倍首相は、もともと2%とされていたポイント還元率を、5%に大幅アップする方針を表明しました。政府内での紆余曲折があったのか、現段階では、コンビニや外食といったフランチャイズチェーン(FC)については、中小企業も含めて全店のポイント還元率を2%にする方向です。直営店については、ポイント還元の対象外です。直営店かFCかでポイント還元の有無が生じる件については、消費者にとっては分かりにくくなるかもしれません。
今回の制度が施行される前に、クレジットカード会社など決済事業者の公募を行い、登録された決済事業者の提供するキャッシュレス決済サービスがポイント還元の対象となります。
誰がポイント還元を利用できる?
登録された決済事業者のサービスを利用している人であれば、ポイント還元を受けることができます。現金での支払いに慣れた高齢の方たちにとっては、ポイント還元に対応しているキャッシュレス決済のサービスをこれまで利用したことがないケースも多くあると想定され、この制度が好意的に受け取られていない原因のひとつとなっています。
ポイント還元を提供できる事業主とは?
これまでは、ポイント還元の利用対象事業者は中小企業基本法の定義(小売業だと資本金5千万円以下または従業員50人以下)に定められた中小企業のみに限る方針でした。しかし、2019年3月末時点では、売上高が年500億円以下の事業者であれば、ポイント還元制度の対象事業者になるとされています。対象範囲となる事業会社の会社規模がこれほどまで大規模となると、本来想定されていたような、中小企業の活性化という目的からは、程遠いのではないかという反発の声が予想されています。
また、決済事業者と同じように、ポイント還元ができる店舗は公募後の登録制になるため、膨大な店舗数の登録が予想され事務的な混乱が心配されます。
中小企業の視点
制度の概要説明が長くなりましたが、企業側の視点で見てみると、キャッシュレス決済を導入すれば、スタッフのレジ打ちの時間短縮、数え間違いの防止や盗難・紛失のリスクを減らすなど、得られるメリットは少なからずあります。ところが、実際には導入を渋る企業がほとんどです。特に中小企業のあいだで導入に及び腰な意見が目立つのはなぜでしょうか。
その理由は、導入にかかる「コスト」と「ポイント還元をする事業者としない事業者が混在していること」にあります。
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経営者が導入を見送る要因となるコスト
・カードリーダなど決済端末など初期投資
・3~5%程度の決済手数料(現金売上に比べて利益が減少)
・顧客対応コスト、従業員教育コストなど
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ポイント還元をする事業者としない事業者の混在
制度自体が複雑でわかりにくいこととコストが高いことで、ポイント還元を実施する店舗と、しない店舗が混在する可能性はとても高いと思われます。
混在すると次のような事態が発生し、公正で自由な競争環境が歪められると非難する声が大きいのが現状です。
・投資できない小規模店舗は、消費者離れや独自の値引き策を余儀なくされる
・大手と中小企業の線引きが困難(制度の利用可能な対象事業者の条件が年売上500億円とされている)
増税による消費の懸念を警戒し、政府は、消費税還元セールを認めるガイドラインを公表しました。大手小売店であれば、増税後でも増税分2%は自社負担で値引きして、消費税還元セールを行う体力があります。しかし、上記の理由から、多くの中小企業は消費税還元セールに対応する資金力がありません。そうした背景もあり、今回は中小企業が積極的に消費税還元セールを利用できるよう、国が支援を厚くしています。
中小企業への支援策
ポイント還元制度が、増税による消費活動の停滞を防ぎ、さらには消費を活性化させる起死回生の経済対策になるのか、あるいは、経済効果を期待できない不発の策となってしまうのか。世間の意見は様々ですが、活用次第では、消費者の消費動向の波にうまく乗れるかもしれません。
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決済端末などの補助
キャッシュレス決済に必要となる•キャッシュレス決済端末などの費用が、店舗の自己負担なしで、本制度に参加する決済事業者から提供されます。必要な導入費用の1/3を決済事業者が負担することを前提に、残りの2/3を国が補助するスキームです。
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決済手数料の補助
中小・小規模事業者が決済事業者に支払う加盟店手数料は、期間中(2019.10.1~2020.6.30)は、3.25%以下となっています。又、この期間中は、決済事業者を通じて手数料の1/3が国からの補助が受けられます。問題なのは、この補助が期間中(9ケ月間)に限られてしまうこと。店舗と決済事業者の交渉次第ということになります。店舗としては、高いランニングコストを考えると腰が引けてしまうかもしれませんね。
以上のように、中小・小規模事業者への支援策は、決済端末などの補助、決済手数料の補助が支援の骨格となっています。
前回と今回の記事では、中小企業が増税対処のために活用できる、複数の補助金・支援を紹介して来ましたが、企業はどの補助金であればもっとも恩恵を受けられるのかをしっかりと見定める必要がありそうです。飲食事業を行っている中小企業であれば、各種飲食料品等軽減税率対策補助金を活用するのか、軽減税津対策補助金を活用するのか、あるいは、ポイント還元補助金を使うのか、悩ましいところです。
賛否両論のある「キャッシュレス化・ポイント還元事業」。様々な課題があるなか、10月からの増税を控え、4月以降、施行・実施の運びになるとされています。企業にとって、最も意味のある支援制度とはどのようなものか、経営者には業界内外の動向を見極めつつの判断と準備が求められそうです。
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