前編では外国人技能実習制度の実態と課題について解説しました。後編では、制度の抱える問題点を踏まえ、外国人技能実習生の受入れ体制のあり方と戦力化するための方向性を探っていきます。
外国人技能実習生を受入れる時の留意点
実習生への賃金未払いや長時間労働など、外国人技能実習制度の活用には、運用側である企業に、制度に対しての理解と適切な活用方法を求められています。
企業側が改善策をとることなく制度を不適切に利用してしまったら、採用を強化するどころか経営に悪影響を及ぼすことになりかねません。反対に、2年、3年と技能実習生の雇用を継続することができれば、入管難民法で創設される「特定技能1号」への移行が視野に入ります。こうして彼らが永続的な在留資格を取得できるようになれば、将来、自社の正社員に負けない戦力にもなるかもしれません。しかし、そのためには実習生が長く安心して働けるような仕組みが必要です。
早期定着と継続的雇用のカギは、違いを受入れること
実習生の採用を成功に導くヒントは、「高度外国人材」の採用を積極的に行っている企業にあります。技能実習生の採用と、高学歴で高い専門性を身につけた高度外国人材の採用には格差があると捉えられがちです。しかし、実際には言葉の違い、文化や風習、宗教の違い、そして価値観の違いといったものが、採用される側とする側が最も感じる「壁」であることには変わりありません。
外国人労働者を採用する企業は、ときに彼らの国の風習、宗教、習慣などに組織を対応せていくことを求められるでしょう。たとえば、宗教の関係で就業時間中に礼拝時間を必要とする場合などです。こういった場合は、企業によっては休憩時間を柔軟に設定できるような対応をとっているところもあるようです。
次の難関は言葉の壁をいかに低くしていくかです。自治体によっては、実習生受入に係る日本語研修やスタッフ費用を補助する制度があります。こうした行政の支援を活用し、専属スタッフを配置することも有効な手かもしれません。高度外国人材を積極採用する企業のなかには、長期で雇用するための投資と考え、日本語強化のための育成プログラムを提供しているケースもあるようです。
労働力の輸入に転じようとしている中国、将来起こり得るのは技能実習生の争奪戦
一方で、介護業界など、業界によっては技能実習生なしでは事業に支障をきたすような業界もあります。そうした中小企業の場合は、実習生の安定的な確保が経営課題です。前記した受入体制の整備とあわせ、経済的に自立できるくらいの賃金の改定も今後は必要になってくるしょう。なぜかというと、人材の争奪戦は、すでにグローバル化しているからです。
いまや、アジア圏の労働者が国外労働を検討する際、日本よりも賃金が高いアジア圏の国に出稼ぎに行くといった報道特集も組まれるほど、日本のアジアにおける経済的地位が揺らいでいる状況です。労働問題の研究者によれば、韓国に限らず、これまで労働輸出国であった中国も、数年のうちには労働力の輸入に転じるとの観測があり、労働力不足はすでに日本国内だけの問題ではなくなっているのが現実です。
実習生を安定的に確保するためには、海外勢との人材争奪戦を意識した水準の賃金引上げを考慮しなければならなくなるかもしれません。
定着率向上には公私にわたるサポートが必要
賃金以外の面では、技能実習生が業務と日常生活に慣れるためのサポートを必要とする場合もあるでしょう。たとえば、技能実習生の日本語能力の向上のみに頼るのではなく、技能実習生への理解を深めるための社内教育を実施するといった取り組みです。ときには、職場での環境を整備するだけでなく、生活面で精神的なサポートを行う必要があるかもあるかもしれません。
企業によっては、会社に技能実習生の相談窓口を設置することもあります。あるいは、メンター制度を導入して配属部署での上下関係からから切り離した関係性を作り、個別に生活面や個人的な悩みを聞く体制を作ることも有効でしょう。
戦力化のカギは最初の3年間にあり
外国人材の受入れによって、ときに日本人社員だけでは気づかなかったような視点がもたらされることがあるかもしれません。そうした視点が全体の生産性向上に結び付くようなものであれば、技能実習生は立派に活躍してくれることでしょう。そのためには、技能実習生と問題なくコミュニケーションを取れなければいけません。そこで円滑なコミュニケーションのポイントを、いま一度整理します。
再三出てくる「言葉の壁」は、外国人を雇用するにあたっては避けて通れない課題です。厚労省の技能実習制度運用要領によれば、技能実習生に求められる日本語能力は、日本語能力試験のN3以上となっています。
N3というのは、「日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる」レベル。生活面での意思疎通には問題がない程度かと思われます。入管難民法で創設される「特定技能1号」資格は、技能実習生として3年の実習経験があれば無試験で移行できるため、その後の社内でのキャリア形成を考えるならば、より高度な役割を担うためにこの3年間でどこまで日本語力を伸ばせるかが大きなカギとなります。
さらに、労働安全衛生の面でも言葉の問題は重要です。建設業や危険物を扱う現場においては、労災事故防止のマニュアルに従った「声かけ」や「指差し」といった確認がありますが、咄嗟に危険を知らせるときに日本語で通じるのかという問題があるからです。
最近では、「安全の見える化運動」として、外国人スタッフでも理解できるような絵や記号を使用した看板・ポスターを設置する企業が多くなりました。これも大切な取り組みのひとつでしょう。安全確保のために、共通のキーワードを決めて日ごろから訓練するなど、注意喚起しやすいコミュニケーションの手法を考えていくことも必要です。
「特定技能1号」を見据えた評価基準とキャリア形成を
技能実習制度では、受入機関別に定められた技能実習のプロセスで、所定の評価試験が行われますが、戦力として育成するためには、社内における一定のキャリパスとそのための評価制度を設けることも必要でしょう。この場合、入管難民法における「特定技能1号」を見据えた内容とすれば、実習生にとっても目標としやすく、実現可能性の高いものとなります。
今回は、外国人技能実習制度が抱える課題と、その対策をした上で技能実習生が中小企業の戦力になるためのポイントを見てきました。人手不足はもはや日本国内だけの問題ではないという現実を考えれば、技能実習生を採用している中小企業にとって、賃金の引上げやその他待遇の向上・改善対策が早急に取り組むべき課題であることをお分かりいただけたはずです。日本経済の発展は、技能実習生を最も多く活用している中小企業の取り組みにかかっているといえるでしょう。
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