M&Aで年商100億へ!8社を束ねる老舗製造メーカーの経営戦略
2026年09月07日
2026年09月07日
リーマンショックや東日本大震災、パンデミックなど、外部環境の変化が経営に与える影響は大きく、その中でM&Aを成長戦略に取り入れる企業も数多くいます。「中京車体工業株式会社」は経営基盤の安定化を目指して多角化戦略へ舵を切り、これまでに8社のM&Aを実行。譲り受けた企業のひとつが、自動車用アフターパーツの開発・製造・販売を行うApex株式会社です。中京車体工業とApexの代表を兼任する森孝義様は、M&Aを活用してどのような経営戦略を描いているのか。アートマテリアルの事業を譲り受けた経緯とともに、「グループ年商100億円」に向けた壮大なロードマップについて伺いました。
| 譲渡企業 | |
|---|---|
| 社名 | 株式会社アートマテリアル |
| 業種 | 製造業(自動車パーツの開発・製造・販売) |
| 拠点 | 新潟県 |
| 譲渡理由 | 経営基盤の強化 |


| 譲受企業 | |
|---|---|
| 社名 | Apex株式会社(中京車体グループ) |
| 業種 | 製造業(自動車パーツの開発・製造・販売) |
| 拠点 | 愛知県 |
| 譲受理由 | 既存商品・サービスの強化 |
——貴社の企業概要と、M&Aを検討し始めた背景について教えてください。
中京車体工業は、1945年に創業した特種用途自動車の製造・改造を手がける会社です。私が社長に就任した2008年は、ちょうどリーマンショックが起きたタイミングで、当時の主軸であったバスの新車架装(※)の需要が一時激減。その数年後には東日本大震災が発生し、就任から激動の数年間を過ごしました。
その際に感じたことは、新車架装は安定した需要があるように見えて、景気の変動に非常に脆弱だということです。不測の事態が生じた際、売上が一気にゼロ近くまで落ち込むリスクがあることが分かりました。
このままでは、社員や職人たちの生活を守ることができない。その強い危機感から、単一事業に頼らない体制を考えるようになりました。これが、私たちがM&Aという選択肢を真剣に検討し始めた最初のきっかけです。
(※)架装‥自動車のシャシー(車台)の上に専用のボディや用途に合わせた装備を組み立て・架け付けること。
——最初のM&Aはどのような経緯で実施されたのでしょうか?
1社目のグループ会社となった株式会社ミッキー(自動車の販売・リース・メンテナンス事業)は、お付き合いのある税理士法人からご紹介いただきました。業績も良く、会社も近く、当時福祉車両の整備の話も出ていたためミッキーは互いを高め合える関係性だと思い、M&Aに踏み切りました。
——その後はどのような戦略でM&Aに取り組まれましたか?
中京車体工業の製品は全国のお客様にご利用いただいておりますが、名古屋だけで全国のアフターサービスをカバーするのは限界があります。そのため、主要なお客様が多い関東地方に、技術的なサポート拠点を築きたいと考えていました。
そこで2社目のM&Aとして、埼玉県に整備工場をもつテクノボディ岩槻を譲受いたしました。その後、拠点間を車で行き来できる限界の距離として「半径250km圏内」を基準に、東名阪の主要経済圏をすべて自社グループでカバーしました。今後はこの円を本州全体、さらには全国へと広げていきたいと考えています。
——Apexを譲り受けた経緯について教えてください。
事業の多角化を進める中で、「A’PEXi」というアフターパーツブランドで高い知名度を誇るApexと出会いました。事業シナジーを感じただけではなく、同社には電気自動車(EV)の開発を行う新規事業部があり、マイクロバスへの将来的な技術応用ができると考えました。

——Apexの業績改善は、どのような施策によって実現したのでしょうか?
M&A成約時、Apexは資金的な制約から多くのバックオーダー(未出荷の注文)を抱えていました。部品の仕入れ代金が不足しており、注文があるのに出荷できないという悪循環に陥っていたのです。
そこで私は、グループの財務力を活用して資金を投入し、バックオーダー分をすべて作って売るような体制を整えました。これにより機会損失を防ぐとともに、わずか半年でバックオーダーを激減させることに成功しました。
また、ブランド認知の維持・向上に向けて、雑誌への広告掲載や大規模展示会へのブース出展といった広告宣伝に資金を投下。海外市場での認知度が向上し、世界中から新規の購入希望者が集まる好循環が生まれました。
M&A成約当時は売上3億円に届かなかったApexですが、直近期では売上4億9000万円まで拡大。適切な投資ができれば、しっかりと利益を出せる会社に生まれ変わることを証明できたと感じています。
——今回、アートマテリアルを譲受された狙いを教えてください。
アートマテリアルは、金属加工を得意とするパーツメーカーです。Apexもチタンマフラーなどの金属加工による新商品開発を計画していたため、その領域で非常に高いシナジーを見出し、譲受する決断をしました。
同じ自動車用パーツを扱っていますが、Apexは「機能性や性能」、アートマテリアルは「芸術的なデザインや工芸品としての美しさ」を重視しており、両社のブランドイメージや技術的な得意分野は異なります。
また、アートマテリアルのユーザーは「面白い、美しい」といった点に価値を感じる層であり、Apexのユーザーとは利用目的が異なります。そのため、競合することなく「セカンドブランド」として非常に強固なポートフォリオを構築できると考えました。
——技術面での具体的なシナジーについても教えてください。
技術的な面では、Apexが高性能の曲げ機を用いた「曲げの技術」を得意としている一方で、アートマテリアルは、職人が複数の金属パーツを手作業で溶接してカーブを表現する「溶接の技術」に優れています。
この双方の技術的な強みは、掛け合わせれば画期的な新商品の開発にもつながります。例えば、滑らかなカーブが求められる部分はApexの技術を使い、複雑な接続部にはアートマテリアルの溶接を施す。この共同生産により、製品価値を高めるだけでなく、グループ全体の製造効率化にも繋げられると考えています。

——M&A後に関係構築をする上で意識されていることはありますか?
私はM&A後、最初の3ヶ月〜半年間は、現場の業務プロセスやルールに一切口を出さず、従来のやり方をそのまま続けてもらうようにしています。
売り手企業の従業員は、新しい経営者に「これまでのやり方を否定されるのではないか」といった不安を少なからず抱えているため、まずは安心してもらうことを最優先に考えています。
現場を1日中じっくりと観察していると、どのようなプロセスで製品が作られ、誰がキーマンなのか、その会社の「生き残ってきた道」が見えてきます。
長年続いてきた会社には、「続いてきた理由や強み」が必ずあり、それを理解する前に外から急激な変革を押し付けることは、組織の崩壊を招きかねません。強みはしっかりと残しつつ、変えるべき部分は従業員と一緒に考えながら段階的に実施することを心がけています。
クラウドによる勤怠や会計システムの導入といったDX面も、早い段階での共通化に努めますが、実際の仕事をする現場の調整は、十分に信頼関係ができてから進めるようにしています。
——森社長が複数のM&Aを手掛ける中で感じた、売り手企業の共通の経営課題はありますか?
最も多い課題は、「適切な価格設定ができておらず、適正な利益を確保できていない」という点です。日本の中小企業の多くは、「競合他社がこの価格だから」という理由で、自社の値付けに弱気になってしまっています。
しかし、設備投資や持続可能な経営をしていくためには、相応の利益を確保しなければなりません。当社にグループインいただく企業には、M&Aを契機に適正な価格改定を段階的に進めるように促しています。
自社の技術の価値を信じ、しっかりと適正な利益を獲得できる体質へと変革していくことが、企業の持続可能性を守るために不可欠だと感じています。
——今後のグループ全体の展望や目標についてお聞かせください。
中京車体工業は昨年、創業80周年の節目を迎えました。そして、次の90周年に向けて「グループ年商100億円」の事業計画を掲げています。個々のグループ会社は小規模ですが、拠点数の拡大や相互のシナジー創出によって、目標は十分射程圏内にあります。
日本で人口30万人以上の都市は約70箇所存在すると言われています。M&Aで整備工場などの拠点を各都市に配置し、網羅することで、物流やアフターサービスの強力なネットワークの構築を構想しています。
そうなれば、グループ年商100億円を通過点として、さらなる成長が見えてきます。M&Aを強力な成長エンジンとして活用しながら、全国のお客様に最高の技術と安心を届ける企業グループとして、これからも挑戦を続けてまいります。
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