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外国人労働者と幸せに働くために、採用強化へ取り組む中小企業と技能実習生の実態(前編)

2019年03月06日

国内の労働力不足は深刻さを増しています。採用強者とされる大手企業は、第2新卒を意識した通年採用や海外留学からの帰国組をターゲットとした秋採用を導入するなど、4月一括採用からの戦略転換を図っていますが、中小企業は採用がより厳しくなり、いい人材が大手に流れてしまっているという状況です。そこで、中小企業の即戦力として期待されているのが外国人労働者です。

1993年に外国人技能実習制度(外国人研修制度)が導入されて以降、企業への就労目的で来日する技能実習生の数は増加し続けています。今回は、技能実習生の採用の実態に焦点を当て、中小企業の人材確保のあり方について、前・後編にわたって考えてみます。

技能実習生を最も採用している中小企業は製造(63.7%)、2位が建設(13.0%)

外国人技能実習制度は、日本で技能を習得して母国へ持ち帰ってもらうことを目的として制定されました。特に中小企業において、技能実習生の受入が広く浸透しています。東京都横浜市岡山県美作市富山県など、自治体によっては技能実習生の受入に際して補助金で支援する場合もあり、受入機関は広がっています。

厚生労働省の「外国人雇用状況の届出状況(2017年10月末現在)」では、日本で就労する外国人127.9万人のうち、「技能実習」は25.8万人で、就業カテゴリーの中では「定住」や「永住」といった身分に基づく在留者(45.9万人)、資格外活動(留学生アルバイト29.7万人)に次ぎ3番目の規模となっており、増加傾向が続いています。また、資料によれば、実習先は中小企業が中心で、製造業(63.7%)が最も多く、建設業(13.0%)、卸売・小売業(5.5%)と続きます。

また、政府は外国人労働者の受け入れを拡大するために出入国管理及び難民認定法 (入管難民法)を2018年12月に改正。これを受けて、今年の4月に「特定技能1号」と「特定技能2号」という在留資格が創設されます。この資格が創設されると、技能実習生は3年の実習経験があれば、「特定技能1号」に無試験で移行することができ、1号に移行後、難易度の高い技能試験に合格すれば、実質的な日本での永住資格となる特定技能2号への移行も視野に入ることになります。

《特定技能について》

〇 特定技能1号
介護、外食、農業、漁業、建設業など一定の知識や技能が必要な14業種が想定され、技能実習生として3年以上の実習経験があれば無試験で移行でき、最長5年在留可能。

〇 特定技能2号
熟練した技能が必要な業務で、より高度な試験に合格することが必要。在留期間延長と、妻子を呼び寄せ同居することも可能。

人口減少と高齢化が進む日本において、日本経済の成長の一端を担う存在として、技能実習生の需要は益々増えることが見込まれていると考えていいでしょう。

海外技能実習生の採用で活性化する職場

では、実際に企業は技能実習生を活用することでどのような変化を実感しているのでしょうか。以前から外国人を積極的に受け入れてきた介護業界を例に見てみます。

公益社団法人・国際厚生事業団が平成28年度に実施した「介護福祉士候補者受入施設(291施設)」に関する調査結果では、外国人材の受入れによる「施設への影響」について、「良い影響」、「どちらかといえば良い」と答えた回答率があわせて85.6%、「職場環境への影響」でも、同様の回答内容が78.8%という結果が出ています。さらに、事象別にみると「職員のモチベーション向上」「優秀な人材との交流による職員レベル向上」「業務の標準化促進」などが挙げられており、全体の8割近くが技能実習生の受入れに対して好影響であったと回答しています。

現場では、難易度の高い介護福祉士資格の資格取得を目指して業務を行なっている外国人スタッフの姿勢に触発され、日本人従業員のモチベーションの向上にもつながっています。また、日本人従業員が彼らに看護技術の指導をするだけでなく、母国で看護師だった彼らも医療知識を日本人従業員に教えたりするなど、相乗効果が見られ、ポジティブな循環が生まれたことが紹介されています。

また、外国人スタッフにとっては言葉の問題が大きく影響するため、介護記録や、報告書、ケアプランの作成など、日本特有のきめ細かな業務マニュアルへの対応が最も困難な分野ですが、採用する側の企業にとっては、外国人でも容易に介護記録を記入できるよう工夫し業務のあり方を再構築する機会を得たことで、「業務の標準化=生産性の向上」と「利用者サービスの向上」という予想外の成果となって現れたという報告もあるそうです。

こうした例は、外国人材の受入れが、単なる安価な労働力確保ではなく、企業の職場環境そのものを見直すきっかけとなり、新たな活力を生み出す力と成り得ることを示しています。このような効果を実感するのに、業界の垣根はありません。外国人材をどう生かすかは、企業の取り組み次第といえるでしょう。(注:介護の分野では平成29年9月から在留資格が創設されています)。

一方で、実際に技能実習生を採用し会社の戦力になってもらうのは簡単なことではありません。企業側と実習生側の間では度々、就労条件に対する理解不足やミスマッチが見え隠れし、就業現場では様々な課題(後述)も発生しています。

技能実習制度が抱える問題

企業にとっては、将来へ向けて希望を持ちうる技能実習制度ですが、現実にはかなり深刻な問題が発生しています。

技能実習生の失踪という異常事態

同資料に、技能実習生の失踪者数の推移が掲載されています。全体で見ると、平成29年は7,089名で、平成24年度の2,005名の3.5倍に達し、平成28年(5.058名)対比では単年度で失踪増加数が2,000名を超えるという実態があります。

法務省の調査結果では、実習先から失踪した技能実習生の7割がその動機を「低賃金」としています。聴き取りを行なった実習生の半数が月給10万円以下と回答しており、賃金の交渉を企業と十分に行えていない状況が見えてきます。それだけでなく、実習生が企業に採用された後に、制度の規則を無視して個人的理由で脱走するケースも増えています。

実習実施機関の不正行為

法務省が2018年3月23日付で公表した「技能実習制度の現状(不正行為・失踪)」によれば、平成29年に不正行為として通知したのは213機関、通知件数は299件に及び、「賃金等の不払139件(46.5%)」が最も多く、「偽変造文書等の行使・提供73件(24.4%)」、「労働関係法令違反24件(8.0%)」と続いています。この資料からは、平成29年度の通知件数(299件)は、平成27年度(370件)対比で減少しているものの、こうしたケースが後を絶たないと言う現状も見えます。不正行為の具体例を見てみると、運用側の企業の制度に対する理解が浸透していない状況が見受けられます。

《不正行為の具体例》・・・法務省「技能実習制度の現状(不正行為・失踪)」より

  •  賃金不払い

技能実習生からの相談を端緒に、当該実習実施機関が、技能実習生6名に対し約2年1か月にわたり、最低賃金を下回る基本給を支払っていたほか、時間外労働に対する賃金を時給300円などに設定していたことが判明し、不払の総額は6名合わせて約2,100万円に達した。

  • 労働関係法令違反

技能実習生に対して、時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)で定めた特別条項の回数及び限度時間を超える違法な時間外労働を行わせ、最大で1か月165時間の時間外労働を行わせたことが判明。

このように、企業が技能実習制度を最大限に活かすためには、実習生の教育に加えて制度に対する理解浸透と、企業側がより努力する必要があるようです。後編では、外国人技能実習生の受入れ体制のあり方と戦力化するための方向性について考えます。

 

 

 

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