
前回の記事では、ディープラーニングというAIの特徴について紹介ました。これまで個人に細々と受け継がれてきて、なかなか会社という組織に蓄積されなかった職人技術やノウハウも、ディープラーニングを活用することで、習得するのに長期間の修行をせずとも、職人技術を組織に共有し、複数人で習得できるようになってきたということをお伝えしました。
今回は、AIを活用して事業の存続や発展に取り組む老舗企業の事例を紹介します。
企業×AI技術のコラボレーション例
酒造業×AIで製造管理
はじめに、AIのテクノロジー技術を大いに活かせる伝統産業のひとつに酒造業が挙げられます。酒蔵は毎年減少傾向にあり、ピーク時の1/3以下に減少したと言われています。これには日本酒を呑まなくなってきているという理由もありますが、杜氏の減少という理由も考えられます。
杜氏とは日本酒を作る職人のことで、杜氏の仕事により日本酒の味は大きく変わります。その杜氏の世界にAIの技術を導入しようとしているのが株式会社imaのAI酒です。
株式会社imaでは日本酒の味に影響を与える、米に水を吸わせる工程に注目しました。どのくらい米に水を含ませるべきかは、米の種類や削り具合、その日の気温や湿度などによっても変化すると言われており、杜氏が職人の勘によって米の吸水率を決めていいます。
imaのAI酒は、画像認識技術を使って米への最適な給水率を推定。日本酒のデキにどのような影響を与えるかを分析することで、杜氏の勘を再現しようとしているのです。
旅館業×AIコンシェルジュ
旅館といえば、おもてなしという人間のコミュニケーション力が最も重視されそうな業種に思えるかもしれません。しかし、このような業種においてもAIは有効です。箱根湯本の旅館「ホテルおかだ」は、ホームページのFAQにAIを導入して自社サイト予約が10%~15$増加したといいます。
実はいまや旅館・ホテルはネットによる集客が一般的になってきており、予約サイトの楽天トラベルとじゃらんを合計しただけで1兆円以上の市場規模があるとされています。
ただし、ネット予約のデメリットとして、旅館の情報を十分に知れないということがあります。Wi-Fiは対応しているのか、周辺にどのような観光スポットがあるのか、部屋に○○は備え付けられているのかなど、ホームページに記載してあったとしても自分の気になるポイントをすべて網羅するのは困難。
そんなとき、AIがコンシェルジュ的に顧客の質問に対応していきます。そうすることによって、宿泊施設の予約率が向上しました。AIを使えば、人間を使うと採算が取れなくてできないような細部までのおもてなしの心を反映することができるのです。
飲食業×来客予測AI
AIは町の飲食店のように、全国に何十万、何百万とあるような業種にとっても有効です。三重県にある「ゑびや」という企業は、IT化を進めることによって、従業員の休暇を増やしつつ、2012年から2016年までの4年間で売上4倍、利益率10倍まで成長しました。成長に貢献したのは、来客予測AIです。
飲食業において、利益を出すために重要なことは、精度の高い来客数やそれぞれのメニューの注文数を予測して、調理し提供することです。飲食業では食材を前もって仕入れなければならないため、もし注文数を実際より少なく見繕ってしまった場合、お客様の注文に応えられなくなってしまいます。反対に、間違えて実際よりも多く注文してしまうと、食材の廃棄に繋がりこれまた利益が減ってしまいます。
何がどの位必要になりそうか、何を仕入れるべきかは料理人の感覚で決めてしまっている飲食店は多いと考えられますが、ゑびや食堂の場合は、来客予測AIが来客数や注文メニュー数を予測して、その結果をもとに人間が仕入れや調理を行っているのです。
もちろん、ゑびや大食堂と立地や集客条件が異なるので、このAIをそのまま他の飲食店でも取り入れてもらって同じような結果が出るという保証はできませんが、コンセプトはどの飲食店にも通用するものであり、飲食業に対するAIの可能性を期待させてくれる事例でしょう。
以上のように、技術の承継とAIの活用というテーマで企業の取り組みを紹介してきました。伝統的な産業にAIを導入することによって、事業の大きな飛躍を期待できるかもしれません。ただし、やはりAIとビジネスは簡単に結びつけられるようなものでもないでしょう。
まずはビジネスに不可欠の商品作りや企画・営業などの課題を洗い出し、ノウハウやブランド力がないと失敗する可能性まで予測してから、AIの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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