地方のクリニックは減少の一途であり、相次ぐ閉院によって地方の医療体制は崩壊しつつあります。場所によっては無医村(正式には無医地区)が増えている地域もあります。地方医療の崩壊という危機はなぜ生まれ、どうすれば解決できるのでしょうか?データとともに検証し、医療業界の現状と第三者承継という選択肢について考えてみます。
医療業界が抱える3つの偏り
人口当たり医師数はOECDの30か国平均が3人であるのに対して日本は2人となっており若干少なめです。ただ、近年医学部の新設や増員が行われており、毎年4000人程度医師が増加していますので、分母の人口減少を考えると絶対的な医師不足は早晩解決するものと思われます。過労死が出るところまで追いつめられた医師不足の真の原因は絶対数の不足ではなく、“偏り”が原因であると指摘されています。
1. 勤務医Vs開業医
医師不足が表面化したのは、2004年の臨床研修制度導入が発端です。白い巨塔と揶揄された出身大学医局によるコントロールが有名無実化され、若い研修医が条件のよい一部の民間病院に流れたため、派遣されていた医師が穴埋めに医大に大量に戻されるという現象が起こっています。結果的に、医局から派遣される勤務医に依存していた病院は、医師不足による診療科の閉鎖が相次いでいるのです。
ところが、病院勤務医に対して、開業医は不足していないようです。一般的に開業医の報酬は勤務医の2倍近いと言われています。なぜ、過酷な勤務医が開業医になるという選択を選ばないのでしょうか。理由のひとつに、開業医は事実上世襲制に近く、勤務医は独立開業のための知識を開業医ほど得る機会がないという点があります。経営者という漠然とした不安もあり、具体的なところでは、開業資金の調達、開業後の事業性、従業員や保険事務などのクリニックマネジメントなど、臨床経験以外に病院を経営をしていくためには経営者としてマネジメントの視点も必要になってくるのです。
2. 地方Vs大都市
医師は大都市圏に多く偏在し地方には少ないと言われていますが、データでは意外なことがわかります。都道府県別医師数全国平均は10万人あたり206人ほどですが、最大の京都府が273人に対して、最下位の埼玉県が136人です。過疎と思われる鳥取や島根は250人以上で全国平均を上回っています。四国4県も多いです。北海道がちょうど平均値です。ワースト3は千葉、茨城、埼玉です。首都圏周縁部に医師不足が顕著なのです。
3. 診療科の偏り
平成26年医師・歯科医師・薬剤師調査によれば、1994年から2014年の20年間で、医師数が平均より増加しているのは、麻酔科、放射線科、精神科で、平均より低いのが、内科、小児科、外科、産科となっています。小児科、産科は訴訟リスクが高いので敬遠されていると言われています。特に女性医師は、労働条件が良くてリスクも少ない皮膚科や眼科を専門に選ぶ傾向があります。
前述の医師偏在説では地方クリニックの相次ぐ閉鎖を説明できないようです。では真相はどこにあるのでしょうか?
閉鎖が相次ぐ地方クリニック、無医村地域の拡大も懸念される
2008年の山形県の開業医と勤務医の年齢構成比の調査があります。開業医の年齢構成が勤務医よりはるかに高いことがわかります。これが、地方クリニックの減少を説明する鍵と思われます。開業医の高齢化による引退が、地方の医師不足の原因のひとつでしょう。日本の伝統的産業や中小企業によく見られる、「後継者の不在」です。
また、厚労省の発表では、2014年10月時点の無医地区は637あり、同省は2018年より僻地医療対策を講じることとしました。こうしてみると、地方の医療体制の崩壊は、大学医局からの派遣医師に運営を頼りきっていた病院の経営難と、開業医の高齢化に加えて後継者不在による廃業というダブルパンチに起因しています。
地方クリニックは継承者不在により閉鎖されているという構図がぼんやり浮かび上がってきました。ところが、閉鎖されるクリニックの経営状態は必ずしも悪いわけではないという事実もあります。では実際に、地方のクリニック経営は都市部のクリニック経営とどのように異なるのでしょうか。次回は、その違いについて解説します。
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