医薬品市場をわかりやすく解説!製薬会社の生き残りにはM&Aが欠かせない
2021年12月10日
2021年12月10日
製薬会社がシェアの拡大や売り上げを伸ばす施策を行うとき、M&Aは有効な手段となります。医薬品業界ではすでに、生き残りをかけてM&Aで事業を拡大することは珍しくありません。
そこで医薬品業界のM&A事情について、国内外の医薬品市場の様子や、今後この市場を牽引すると目されているバイオ医薬品の動向を紹介したうえで、解説していきます。
M&Aを考える経営者は、対象企業について深く調べるはずです。その際、対象企業が所属する業界についても正確に把握しておく必要があります。なぜなら、その業界の動向がM&A戦略に大きな影響を与えることになるからです。
それでは現在の医薬品市場の様子を概観していきましょう。
ヘルスケア・マーケティングのIQVIAによると、2021~2025年の世界の医薬品市場は、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、中国が軒並みプラス成長を見込んでいるのに対し、日本だけマイナス成長または低成長となっています。
| 国 | 2021年~2025年の成長率 | 2025年の市場規模(予測) | 市場規模順位 ( )内は成長率順位 |
|---|---|---|---|
| アメリカ | 2.0~5.0%増 | 6,050億~6,350億ドルへ | 市場規模1位 (成長率4位) |
| 中国 | 4.5~7.5%増 | 1,700億~2,000億ドルへ | 市場規模2位 (成長率1位) |
| 日本 | -2.0減~1.0%増 | 750億~950億ドルへ | 市場規模3位 (成長率6位) |
| ドイツ | 3.5~6.5%増 | 650億~850億ドルへ | 市場規模4位 (成長率2位) |
| フランス | 1.0~4.0%増 | 430億~470億ドルへ | 市場規模5位 (成長率5位) |
| イギリス | 2.5~5.5%増 | 380億~420億ドルへ | 市場規模6位 (成長率3位) |
日本は市場規模こそ3位ですが、成長率では最下位の6位に低迷しています。日本だけマイナス成長の可能性があり、仮にプラスになったとして1.0%どまりと予測されています。最もプラスが小さいフランスでも1.0%以上であり、中国に至っては最低でも4.5%プラスとなっていて別格の力強さです。アメリカは元々大きな市場でしたが、さらに最大5.0%の上昇余地があります。
また2016~2020年の実績でも上記の主要国はすべてプラス成長であったにも関わらず、日本は唯一「-0.2%」のマイナス成長でした。
IQVIAは、日本市場の弱さの原因は次の4点であるとみています。
・新型コロナウイルス感染拡大の影響
・定期的に薬価を改定する仕組み
・政府主導のジェネリック使用の推進
・長期収載品のシェアの減少
コロナの影響は世界共通なので仕方がないとしても、その他の3つの要因は日本の構造的な問題といえそうです。上記の4つの要因のうち、ここでは薬価改定とジェネリック政策について深掘りしてみていきます。
高齢者は中高年や若い人より薬を使います。そのため日本の高齢化は医薬品業界にはプラスに働き、調剤医療費だけでも年間7.7兆円(2019年度)となります。
ではなぜ、日本の医薬品市場は縮小すると予想されているのでしょうか。それはお金がかかりすぎているからです。薬価は2年に1度改定されてきましたが、首相は2020年に毎年実施すると宣言しました。これは、薬の価格の値下げに力を入れるといっているものです。医薬品業界にとっては強い逆風となります。
薬価改定とは、本来は医療用医薬品の公定価格(=薬価)を見直すことですが、現在はほぼ「値下げをすること」という意味でとらえられています。
「改定≒値下げ」になってしまったのは、医薬品卸売業者が実際に医療機関や薬局に売っている薬の価格が、薬価より安いからです。実勢価格が安いのなら、薬価をそれに合わせるのは合理的であり、しかも薬価が下がれば国の財政負担を減らすことができます。
2年に1度だった「改定≒値下げ」を毎年行えば薬の値下げスピードは高まるので、市場は当然縮小します。
日本の医薬品市場は、金額ベースでは、医療用医薬品が90%、それ以外のOTC医薬品などが10%という構図になっています。医療用医薬品とは、医師の処方が必要な薬のことで、その値段は公定価格(薬価)で決まります。
OTC医薬品とは、ドラッグストアなどで購入できる一般用医薬品や要指導医薬品のことです。
金額ベースで9割を占めることから、医療用医薬品が日本市場の浮沈のカギを握るとみることができます。その医療用医薬品の内訳は、新薬90%、ジェネリック医薬品(後発医薬品)10%となっています。これは金額ベースです。
ジェネリック医薬品とは、新薬の独占販売期間が終了したあとに製造・販売される、新薬と同じ有効成分を持つ医薬品で、価格は新薬の半値以下になります。そのため、ジェネリック医薬品が普及すると、市場規模は縮小します。ジェネリック医薬品が医療用医薬品に占める割合は10%しかないので、市場への影響も小さいように感じるかもしれませんが、そうではありません。
なぜなら、ジェネリック医薬品は「金額ベースでは」10%ですが、「数量ベース」では77%にもなるからです。
しかも日本政府は、ジェネリック医薬品を使うよう、国民や医療機関に呼び掛けています。ジェネリック医薬品の増加は、ジェネリック医薬品が増えることによる市場へのマイナス効果だけでなく、新薬が減ることによるマイナス効果も生みます。
したがって、今後さらにジェネリック医薬品が市場に与えるマイナス効果は強まると考えることができます。
もちろん社会的には、そして国の財政としては、さらにいえば国民の負担という観点からも、ジェネリック医薬品が普及することはよいことといえます。それだけに、新薬を開発している製薬会社は、この逆風が止むと期待しないほうがよいでしょう。
縮小傾向が続く国内の医薬品市場で、業界の牽引役として期待されているのが新薬の抗がん剤です。
新しい抗がん剤は、従来の抗がん剤より高い効果が証明されないと承認されません。そのため、新薬の抗がん剤が発売されると、患者も医師も期待が一気に高まり販売数も一気に伸びます。しかも新薬の抗がん剤は薬価が高いので、医薬品市場全体に与える影響が大きくなります。
国内の医薬品市場は2015年10.6兆円、2016年10.4兆円、2017年10.0兆円、2018年9.9兆円と右肩下がりでしたが、2019年に突如11.8兆円に上昇します。
JETRO(日本貿易振興機構)はこの急上昇について「国内医薬品市場は縮小傾向にあったが、高齢化によるがん患者などが増加している背景を受けて、抗がん剤などの新薬の販売は拡大している。2019年度の医薬品市場は11.8兆円で前年度から大きくプラス成長になっている」と分析しています。
抗がん剤効果は今後も続くとみられ、抗がん剤を持っている製薬企業は好調な業績予想を打ち出しています。2022年3月期の連結決算で営業増益を予想する製薬企業は以下のとおりです。
| 企業名 | 保有している抗がん剤 |
| アステラス製薬 | 前立腺がん治療薬「イクスタンジ」、尿路上皮がん治療薬「パドセブ」 |
| 第一三共 | 新型の抗がん剤「エンハーツ」 |
| エーザイ | 抗がん剤「レンビマ」、胸腺がん治療薬「レンビマ」 |
| 小野薬品工業 | がん免疫治療薬「オプジーボ」 |
抗がん剤と並んで日本の医薬品市場の牽引役として期待されているのがバイオ医薬品です。世界のバイオ医薬品の売上高が急拡大するなか、日本のバイオ医薬品もそれに引っ張られる形で成長しています。
バイオ医薬品とは、バイオテクノロジーでつくられたタンパク質のことです。バイオテクノロジーとは、遺伝子組み換え技術や細胞培養技術などのことです。
従来の医薬品は化学合成でつくり、大半は作動薬、拮抗薬、酵素阻害薬として作用しますが、バイオ医薬品はこれとはまったく異なる概念の薬です。
例えば、インスリンは血糖値を調整し、エリスロポエチンは赤血球を増やします。インスリンやエリスロポエチンなどのことを生理活性タンパク質といい、体内の生理現象を起こすタンパク質です。したがって生理活性タンパク質が不足すると必要な生理現象が起きず、つまり病気の状態になります。
そこで、バイオテクノロジーを使って人工的に生理活性タンパク質をつくり、それを患者さんに投与するわけです。
世界を見渡すと、すべての医薬品の売上高の3割がバイオ医薬品で占められるようになりました。売上高の推移は2010年の12兆円から2018年には24兆円へと倍増し、2024年には38兆円に達するという予測もあります。
世界の売上高上位100位の医薬品に絞ってみるとバイオ医薬品の成長ぶりはさらに顕著で、バイオ医薬品の割合は2010年34%から2018年は53%へと半数以上を占めるまでになりました。
日本では、バイオ医薬品が占める割合は1割程度なので大きな伸びしろがあります。それでも国内のバイオ医薬品の売上高は年々増加傾向にあり、2016年は1.4兆円にまで成長しています。
バイオ医薬品では、後続品のバイオシミラーも注目されています。国内のバイオシミラーの売上高は184億円でしたが、2020年から続々とバイオ医薬品の特許が切れているので売上の拡大余地はあります。
抗がん剤やバイオ医薬品を含め、新薬開発に立ちはだかる壁は、期間、コスト、成功率の3つです。一般的に1つの新薬を完成させるのに9~17年の月日がかかり、500億円の投資が必要で、成功率は3万分の1といわれています。
新薬開発にかかるとされている、9~17年の内訳を紹介します。
臨床試験が終わっても【承認、発売】までに1、2年かかります。これだけ時間がかかるのは、有効性と安全性と品質について証明しなければ厚生労働省が承認しないからです。そのためには、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の審査を経なければ得られません。その審査をパスすると新薬として薬価基準に収載されるので、製造、発売することができます。
1つの新薬をつくるのに約500億円もの資金が必要になります。
日本製薬工業協会によると、1つの新薬の開発から発売までにかかる費用は89億円ほどです。89億円が5.6倍の500億円に膨れ上がるのは、中止した新薬開発のコストも上乗せされるからです。同協会の調査では、新薬の発売にこぎつけられるのは、5.6回に1回でした。つまり、89億円の新薬投資を5.6回行なわないと1つの新薬を誕生させられないので約500億円かかるわけです。
ここでは、実際に行われた製薬会社のM&A事例を紹介します。
アメリカの製薬会社ブリストル・マイヤーズ・スクイブ(Bristol Myers Squibb)は2019年1月、セルジーン(Celgene Corporation)を740億ドル(1ドル110円なら8兆1,400億円)で買収すると公表しました。
ブリストル・マイヤーズ・スクイブは、がん、炎症性疾患、免疫性疾患、心血管疾患の薬に強みを持ちます。一方のセルジーンは、革新的なバイオ医薬品開発で知られています。
ブリストル・マイヤーズ・スクイブはこの買収で、治験機会が増えて早期開発が可能になるので、この分野でのリーダーシップをさらに発揮できるとしています。現在開発中の6つの新薬が近く販売できれば、150億ドルの売上高になる、ともアナウンスしています。
さらに、買収シナジーとして、キャッシュフローが潤沢になり利益率が向上することから、EPS(1株当たり当期純利益)が40%増加すると見込んでいます。
日本では武田薬品工業が2019年1月に、アイルランドの製薬会社、Shire Pharmaceuticals(シャイアー)を約6.8兆円で買収しました。これは全産業を通じて、日本最大の買収であったため、マスコミで大きく報じられました。
武田薬品は、アリナミンなどで一般消費者によく知られた製薬会社であると同時に、売上高が3兆円を超える国内トップの製薬会社でもあります。武田薬品はシャイアー買収によって、グローバルな研究開発型のバイオ医薬品のリーディングカンパニーになる、としています。
その根拠として、1)オンコロジー(がん)、2)消化器系疾患、3)ニューロサイエンス(神経精神疾患)、4)希少疾患――の4分野でシナジーを生み出せるから、としています。
国内最大級のM&A支援サービスのバトンズは、日本の製薬会社が生き残るには、M&A戦略が欠かせないと考えています。そしてバトンズは、医薬品業界を始めとする医療業界でのM&A支援に実績があります。例えば、「医薬品製造、医薬品卸売、調剤薬局、ドラッグストア」の分野では、2021年8月現在70件の売り案件を保有しています。M&Aを検討している医薬品会社に、M&Aノウハウや価格相場のデータ、M&A業務ツール、支援専門家によるサポートを提供することができます。
医薬品業界の経営戦略においてM&Aが重要となるのは、企業規模が重要だからです。
これまで解説したとおり、医療費削減圧力から先細りが懸念される日本の医薬品業界にあって、抗がん剤やバイオ医薬品の新薬だけは拡大余地が大きく残っています。しかし新薬を1つ生み出すのに、10年以上の月日と500億円の資金が必要になり、そのためには会社の規模を拡大する必要があります。
製薬会社は生き残りをかけて規模拡大を狙う必要があり、M&Aはそれを最短距離で達成する手段として有効です。
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