M&Aは「経営者のステージを上げる」ための挑戦
ライブ配信の世界で日本一の称号を手に入れた後、そのノウハウを活かしてライバー事務所「like me」を設立した福岡みなみ氏。約2,000人のライバーを抱えるまでに事業を急成長させたのち、2026年1月に上場企業である株式会社AViCのグループ参画を果たしました。
事務所立ち上げからわずか2年で「譲渡価格15億円」でM&Aを決断した背景には、どのような想いや戦略があったのか。株式会社Spicaの代表取締役を務める福岡社長に独占インタビューしました。
株式会社Spica 代表取締役:福岡みなみ様
会社概要
Interviewee
福岡 みなみ(Minami Fukuoka) 東京理科大学卒業後、タレント活動を開始。コロナ禍でライブ配信アプリ「Pococha」でライバー活動を始め、半年弱で日本一に。ライバーの経験を生かし、2024年にライバー事務所「like me」を設立。2026年1月に、東証グロース上場企業である株式会社AViCにグループ参画。
トップライバーに上り詰め、私財を投じて事務所を創業
ーーコロナ禍を機にライブ配信の世界へ飛び込んだそうですね。当時の経緯を教えてください。
私は大学卒業後、2019年からタレント活動を始めたのですが、これからというタイミングでコロナ禍になってしまって。エンタメ業界全体がストップし、新人タレントが出演できる枠は完全に消滅してしまったんです。私は家賃の支払いさえ困難な崖っぷちの状態で、所属事務所の勧めで藁をも掴む思いで始めたのが「ライブ配信(Pococha)」でした。
始めから大きな志をもって始めたわけではありません。当時はまだタレントがライブ配信をやることが珍しい時代でしたので、負けず嫌いな性格の私は「やるからには、絶対にNo.1になりたい!」と思っていました。
私自身、演技やトークで他を凌駕するような才能はないと自覚しています。だからこそ、徹底的にライブ配信を分析し、勝てる戦略を日々追求。結果的に、半年足らずで累計1億円以上を稼ぎ出し、ライバー日本一の称号を手に入れることができました。
この経験は、「福岡みなみには価値がある」と周囲から認識してもらえるようになった、私の人生にとって大きな転換点となりました。
ーーその後、事務所を立ち上げて経営者へと転身した経緯を教えてください。
私の事業活動の根底には、一貫して「世の女の子たちを救う、時代のミューズになりたい」という想いがあります。きっかけは、ニュースで生活苦に喘ぐ女の子たちの実情を知ったことです。
貧困や事情を抱えて危険な道を選ばざるを得ない彼女たちを、ライブ配信の力で救えないか。ライブ配信であれば、自宅にいながら安全に、かつ自分の力で稼ぐことができます。
また、私自身が活動する中で搾取的な事務所の実態も見てきたので、「クリーンな事務所を作れば、多くの女性の助けになる」と思うようになり、純粋な社会貢献の思いからライバー事務所の立ち上げを決意しました。
カフェ代も惜しむ「どん底」スタート。好転のきっかけはSNS
ーー創業の資金は、ライバー時代の稼ぎで準備されたのでしょうか?
驚かれるかもしれませんが、立ち上げ当初は手元に全くお金がありませんでした。ライバー時代に稼いだお金は、美容整形など自分への投資にすべて使い果たしていたので。
そのため、日本政策金融公庫から400万円の融資を受けたのと、あとは自宅のブランド品を全部売って資金を工面しました。それでも当初はカフェ代すら惜しかったので、コンビニ前の石畳に座り、ライバー志望の方と打ち合わせをしてましたね。
ーーなぜTikTokライブを主軸に始められたのでしょうか?
ライバーとして活動してきた自身の経験から、これからはTikTokライブの時代だという確信がありました。TikTokのライバー事務所として活動をするために、ChatGPTを使いながら英語で事業計画書を書いてTikTokの運営に提出。2回目でなんとか審査を通過し、一次代理店の契約を勝ち取ることができましたが、最初は売上次第で契約を切られるかもしれないという不安を抱えながらスタートしました。
事業が大きく成長するきっかけになったのは、自身の美容整形をSNSで公表したことです。人を集めるには、まずは自分が有名になるしかないと考え、思い切って告白したところ、大きな反響を呼び、SNSのフォロワーが一気に増えました。
さらにその後、「ライブ配信で稼いだお金で美容整形し、会社を起業しました」というストーリーをSNSで発信したところ、自立した女性に憧れを抱く女の子たちの心に刺さり、応募が殺到するようになりました。
起業からわずか2年。15億円での譲渡を決めた舞台裏
ーー順調な事業をなぜ立ち上げから2年という早さで譲渡したのでしょうか?
M&Aはある日突然思い立ったわけではなく、事業を運営する中で「会社を売る可能性」もなんとなく意識していました。そのため、もし将来M&Aをするとなったときに問題が起きないよう、日頃からガバナンス面などをクリアにして経営をするよう気をつけていました。
M&Aを具体的に考え始めた理由はいくつかありますが、ひとつはワクワクする夢を優先したいと思ったことです。このまま一人で経営すればお金は稼げますが、それよりも大きな会社と手を組むことで「like meを社会的に価値のある集団にしたい」という夢を描くようになりました。
また、ライバーの数が2,000人近くになり、私1人の力でマネジメントすることに限界を感じ始めていたことも大きな理由です。経営者仲間からは「譲渡価格の規模が20〜30億円以上になると対象先が限定的になる」と聞いていたので、今が最良のタイミングだと判断しました。
ーーM&Aを具体的に検討し始めてからの流れを教えてください。
まずは、「会社を売りたいです」というメールを日本M&Aセンターに送りました。その後は、担当アドバイザーさんとお話をしながら条件を決めていきました。担当アドバイザーさんには「私自身、思ったことを素直にお伝えするので、気を使わずに正直にお話ししてほしい」と伝えていたので、信頼関係のもと進められたと思っています。
その後、複数社とトップ面談を実施しましたが、数社とお会いしたタイミングで担当アドバイザーさんから「最適な会社さんがあります」と強く推薦された会社がありました。それがAViCさんで、初回の面談で市原社長とお会いしてすぐ、誠実で丁寧なお人柄に強く惹きつけられました。M&A後の私のキャリアや会社のビジョンも真剣に考えてくださり、「この人たちと一緒に仕事ができたら、私も会社も大きく成長できる」と直感しました。
ーーその後は、ご成約までどのように進められたのでしょうか?
トップ面談が終わってすぐ、AViCさんから意向表明を受けました。私自身も直感でこの会社がいいと思っていたので、他社と比較することなく、その場で即決しました。9月ごろにAViCさんとお会いし、2ヶ月後には条件面もまとまっていたと思います。
最終的には、翌年1月に正式にM&Aが成立。自分が2年間情熱を注いできた事業が「15億円」という社会的な価値として認められたことは、何よりの自信に繋がりました。
M&Aの流れ
| 時期 | M&Aの流れ |
|---|---|
| 2025年7〜8月頃 | 日本M&Aセンターへ相談メールを送付し、M&Aの検討を始める。 |
| 2025年8〜9月頃 | 買い手先の募集を開始。 |
| 2025年9月頃 | 複数社(AViC社含む)とトップ面談を実施。AViC社から面談直後に意向表明を受ける。 |
| 2025年10〜11月頃 | 15億円(アーンアウト条項で最大18億)で合意。その他条件面の調整・合意。 |
| 2026年1月 | AViC社の取締役会を経て契約締結。 |
M&Aは「経営者のステージを上げる」ための挑戦
ーー上場企業グループの傘下に入ったことで感じている変化を教えてください。
一番の変化は「信頼の厚み」です。名刺に上場企業である証が刻まれることで、社会からの見られ方は劇的に変わります。
とくにライブ配信業界は、まだまだ色眼鏡で見られがちな業界です。上場企業グループに加わることは、このライバー事務所が「安心・安全な場所」としての説得力につながり、若い女の子たちが正々堂々と夢を追うための環境を整備するという面で、大きな意味があると思っています。
また、アドトラックの走行といった大規模な広告展開ができるようになりました。潤沢な資本基盤があってこその施策に次々とチャレンジしていて、これも上場会社の傘下に入ったメリットのひとつです。一人で戦っていた時とは違う、チームで大きな山を動かしていく喜びを強く感じられています。
それだけでなく、M&Aによって組織の雰囲気も大きく変わりました。最初は文化の違いから戸惑いも見られましたが、女子だけの「超真面目な集団」だった組織が、AViC側の男子チームの加入で良い化学反応が起きています。
私はこの雰囲気や個性の集まりが「ちびまる子ちゃんのクラスみたいだな」と感じていて、新しい変化を素直に楽しんでいます。
ーーM&Aを経験して、経営者としての価値観に変化はありましたか?
「M&Aをやるぞ」と決めてから、財務や税務、法務といった知識に関する学びが深まりました。自分一人で経営していると、どうしても曖昧にしてしまう部分が出てくるかと思いますが、第三者からの評価を意識したり、実際に受けることで、経営者としての視座が一段と引き上げられました。
自身の市場価値を知り、さらなる高みを目指すモチベーションを得られたことは、人生における大きな財産です。
ーー最後に、M&Aを検討する若手起業家へのメッセージをお願いします。
チャンスがあるなら、M&Aは絶対に経験すべきです。自分が作った事業が客観的にどう評価されるのか。その「価値」を知ることは、経営者としての自身の器を知ることに他なりません。
また、一人で先行きが不透明なまま経営を続けるよりも、新しい知識やチームの力を取り入れることで、事業の可能性は無限に広がっていきます。経営のプロフェッショナルから知恵を借りながら、より正しい道を選択する。その選択は、会社と従業員の幸福に繋がるはずです。社会により大きく貢献していくための手段として、M&Aは挑戦に値する選択だと思うので、ぜひ多くの方に挑戦してほしいです。
福岡様(右)と、interviewer:株式会社バトンズ 取締役COO 海山龍明(左)
Interviewer
海山 龍明 デロイトトーマツコンサルティングにて経営戦略立案を経験。その後、WebマーケティングやM&Aを支援する会社を起業。複数回の自社事業の売却を経て、IT系メガベンチャーのCSOに就任し事業開発を担当。2023年8月にバトンズへ執行役員として参画、2024年6月取締役に就任。