事業再生
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2021/04/09

【事業再生事例】掘削機製造販売

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【事業再生事例】掘削機製造販売
■事業概要  当社は鉱山開発や温泉開発向けの掘削機(ボーリング機器)の製造販売。  大手ゼネコンやその他建設会社、或いは民間のホテル・旅館、病院などから受注を受け、当社で掘削機を製造して、建設業者や掘削業者、温泉開発業者に販売している。  当社は顧客や社員を大事にする会社であり、従業員1人当り人件費は業界よりも高い。  社長は社員とコミュニケーションを積極的に取っており、社員も社長には忠実である。  近年、鉱山開発、温泉開発の国内需要は低迷しており、新規需要は減少している。  そのため、国内需要はメンテナンスや部品交換が中心となっている。  一方でアジア圏については、鉱山開発の需要は増加している。  そこで当社は、以下の戦略を実施している。  1つめは、成長するアジア圏に拠点を持ち、海外展開を実施している。  駐在している人材はいないが、各国の主要な業者と代理店契約を締結して事業拡大を図っている。  2つめは、低迷する国内需要について、メンテナンスの消耗品市場に注力することである。  掘削機の消耗品は「管」であり、形状は業界同一であるため参入は可能である。 ■財務状況  収益状況は長く低迷が続いており、営業利益はトントンか、赤字に陥る年度もある。  ただしCFはプラスを維持しているため、資金繰りで困ることはない。 ■問題点  まずは当社の経営の軸である経営理念である。  当社は元々、家族経営の温泉旅館の開発の支援をしていた。  そしてその家族経営の顧客に喜んでもらうことをモットーとしていたため、経営理念に「廉価で良質な製品を提供する」とうたっている。  これは、「強みを活かして高利益を狙う」というブランディングと相反する内容とも取れる。  そのため、会社全体が収益力への執着度がやや低い。  次に経営会議を実施していないことである。  そのため、試算表や決算書を振り返る場面がなく、経営幹部の収益状況の把握が不十分である。  続いて、海外展開が不十分なことである。  具体的には、海外に駐在員がいないため、海外で機動的な動きができず、かつ国内本社側でコントロールすることもできない。  そのため、海外需要が増加しているという機会を捉えきれていない。  さらに、国内需要についても、営業活動が限定的で、競合他社の製品が納入されている顧客を回り切れていない。  そのため、消耗品市場も十分に捉え切れていない。 ■強み  海外は、当社の掘削機は、他国のものと比べて品質が高い。  そのため、故障しにくく、気密性も高い。  また、故障しても修理を迅速に行う。  技術者が現地へ行って細かく指導も行っている。  つまり、製品面でもサービス面でも、大きな強みを持つ。  国内では、消耗品である掘削機の「管」について、特別の素材を活用することで軽量化を図り、長寿命化を実現している。  また、社長の統率力があり、社長の方針によって組織全体がその方針に向かって迅速に起動修正できる体制が構築されている。 ■改善策  改善策としては、まずは社長自身、および会社全体が、収益向上への意識を高めることである。  経営理念を見直すという提案は困難であるため、価格改定、見積作成時の利益率の基準を上げるなど、収益改善への取組みを開始する。  当社は社長が会社全体を統率できているため、社長自ら収益改善、利益率向上をうたうことで、個々の社員の意識も変わってくる。  ただし、当社の良さである「社員・顧客を大事にする」の軸はブレないように注意する。  次に経営会議を実施し、そこでPDCAを回す体制を構築することである。  月次で収益状況を把握し、それを踏まえて現場の状況を把握し、施策を講じることで、経営幹部の迅速な現状把握とタイムリーな施策を打ち出す経営体制を作り上げる。  続いて国内市場について、消耗品市場へ特化する戦略を打ち出すことである。  新規需要が見込めない現在、消耗品市場に舵を切って集中して営業活動を実施することが望ましい。  さらに、営業活動を国内から海外にシフトすることである。  現在海外市場へ展開するも、駐在人がいないという中途半端な施策のため、迅速な施策を打てておらず、市場機会を捉え切れていない。  そのため、まずは海外に技術者兼営業マンとして駐在させ、海外展開を強化する。  その際、国内で使用している仕様書、マニュアル、営業ツールやホームページなどは、各国に対応したものを用意する。
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