レポート

2019.05.24

【対談特集】会社を一生モノにする日本の経営者と、短期間でM&Aを繰り返す欧米の経営者は何が違う?

バトンズ(Batonz)代表の大山によるインタビュー特集2回目は、一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会(JMAA)代表理事の大原達朗氏との対談です。今回の対談では、正しい決算書に対する経営者の意識改革の必要性、欧米の小規模M&A事情、M&A仲介者に求められる資質と、多岐にわたるテーマで熱く議論していただきました。

決算書に対する意識が低い日本企業。特に中小企業は決算書が複数あるのは当たり前…?

大山インターネットのおかげでスモールM&Aの敷居が随分低くなりましたが、売主、買主、アドバイザー(仲介者)ともに、各々がお互いを十分に知らないままにM&Aを行おうとしてしまうケースが現れてきていますね。

大原氏はい。日本M&Aアドバイザー協会(以下:JMAA)の代表として、そうしたケースを回避するために我々M&Aアドバイザーの質も向上していかなければならないと最近よく感じています。

また同時に、適切な情報収集をされている買主さんが少ないと感じることもあります。良いM&Aをするためには、自ら人に会って積極的に勉強したり、専門家に相談したりと、頭よりもまず体を動かしていかなければいけません。実際にはそういう行動力のある買主さんは少ないなという印象です。

大山そこは買主の知識が、小規模M&A市場の成長に追いついていないのが要因かもしれませんね。

大原氏たとえ小規模な取引だとしても、リスクには十分に対策を練って、専門家を上手く利用してもらわなければ良いM&Aは実現できないですから。知識不足によるトラブルが積み重なっているのが懸念ですね。それを防ぐために我々アドバイザーは、買主さんに積極的に事例を共有していくことが大切だと考えます。

大山事例の共有は大切ですね。特に最近は失敗談を共有すると反響があります。昔は、M&Aの成功事例ばかりセミナーでお話ししていました。ですが今は、M&Aを進めるにあたって、どこに注意したらいいのかを分かりやすく伝えることのほうが求められている気がします。こうして時代が変わるとM&Aに対する意識も変わっていくのはいいことだと思います。

ただ、そもそもM&Aって何なのかをよくご存じでない経営者がまだ圧倒的に多いんです。それに中小企業の経営者は、おおよそ正しい決算書を用意できていないケースが多いのも問題ですね・・。

こうした風潮は、業界では例えばデューデリジェンスを行わずにM&Aを進めてしまうという傾向に繋がっています。小規模M&Aを行う最近の中小企業にありがちですね。3期分の正しい決算書がない日本の中小企業が圧倒的なため、デューデリジェンスの重要性も理解されないという負のサイクルになっている。

大原さんがおっしゃるように、買主さんは経営のノウハウを知らず、決算書も読めない方が多いとなると、適切なタイミングで専門家に相談することができません。小規模M&A市場が成熟していくためには、まずは当事者たちのM&Aへのリテラシーを高めていくための取り組みが急務ですね。

「会社はいつか人に譲るもの」という考えを経営者に持ってもらいたい

大原氏小規模M&Aってバランスが本当に難しいと思います。絶対的な方法論があるわけではなく、市場もまだ確立していない。こんな状況のなか成熟するのに時間がかかっているのは、商売の記録(決算書)を正しく文書に残していくという感覚を持てていない大多数の経営者がM&Aを行おうとしているからかもしれませんね。

大山そうですね。現在、我々バトンズがもっともコストをかけているのが、素人の方がM&Aに取り組むことを前提にしたサービス構築です。安全にバトンズを利用してもらえるように、売主案件化だけはきちんとしておかなければいけない。リスクをつまびらかにして案件を公開していかなければ、買主ユーザーのなかには見抜けない方もおられますから。

大原氏中小企業の経営者の方においては、「会社っていつかは人に譲ることもある」ということをもっと現実的に考えていただきたいと思います。その為には、会計事務所が顧客の財務状況をしっかりと記録しておくべき。

近年、会計事務所が以前にも増して税務会計に偏っていることと、単価が安くなっているために、会計士が適切に会社の財務記録を取ることができていないと考えます。顧客の店舗別、事業別の損益をつけているだけでも、M&Aで譲渡できる可能性が格段に上がりますから、売主さんは事業の正確な数字を財務諸表に残しておくべきです。

市場が成熟しているアメリカでは、自身のキャリアアップのためにM&Aが活用されている!

大山現在の日本は、後継者が不在で後がないから譲渡しなければならないという物理的な理由が、M&A市場拡大の後押しになっていますよね。ところが、残念なことにM&Aに対するネガティブな意識が昔とあまり変わっていません。ちゃんとした契約体系も整っていないため、整備されないまま小規模M&Aを行う時代に突入しました。業界の現状はカオスです。

一方で、すべて文書に記録しておくのがお国柄のアメリカでは、割とすぐに小規模M&A市場が根付きました。バトンズのようなプラットフォームが市場で確立されるのも早かった。日本の場合は、アメリカより5年遅れている印象です。

大原氏アメリカは人を雇う時にジョブディスクリプションがあるからでしょうか。個人に対して、あなたはこの仕事をしてもらい、いくら支払う、という契約が明確です。すべてを文書にレコードしていくという習慣の積み重ねがあるから、文化的にも小規模M&A市場が早期に成熟したんだと思います。

日本には、個人商店に職務権限規程や職務規程なんかあるわけがありません(笑)。日本の上場会社ですら、そうした文書があったとしても内容が粗い場合が多いです。

アメリカで小規模M&Aが進んだもうひとつの理由に、移民の国だということも背景にあると思います。移民の方たちは、会社を買ってビジネスを大きくし、売ってまた違うビジネスを行うことで人生をステップアップしているのです。

あるいは、M&A起業して基盤を築きながら、異国の生活にも慣れてきたら再び譲渡し、今度は普通の会社に就職するとか。自身のキャリアのステップアップのために、普通にM&Aが活用されてきました。

大山80年代末までは、アメリカでも会社を売るなんてとんでもないという意識はあったと思います、それが90年代になってからガラッと変わりましたよね。

大原氏おっしゃる通りです。またアメリカの場合は、昔から中古市場が日本よりも進んでいる。車にしても家にしても、中古には経済合理性があることが浸透しています。これは中古を買いたがらない日本との大きな違いです。不動産なんか特にそう。基本的にできるなら新築が好まれます。この習慣の違いが、M&Aの捉え方にも差を生んでいるのではと考えます。

マッチング感度を高めるには、アドバイザーは経営者よりも対象会社のことを知るべし!

大山昨年、120年以上続き、地元では誰でも知っているほど長年愛されてきた、ある老舗企業が廃業してしました。実はその会社は、廃業前に近隣の公的機関や仲介会社にも相談していたのですが、最後まで相手を見つけることはできなかったそうです。

廃業が決まった後、その情報を見る機会があったのですが、“食品加工業”という業種と売上高のみしか記載されていませんでした。これでは、その会社が老舗としてどのように地元に愛され、そこにどんな背景やストーリーを持っていたのか分からないため、見つかる相手も見つかりません。非常にもったいないと思います。

我々は、会社がどんなストーリーを持っているのか、良いところも悪いところも見極めて可能性のある買主に公開してあげられるよう、感度を磨いていかなければいけないと改めて思いました。

大原氏もったいないことですよね。そうしたストーリーのある小規模企業の事業承継ならば、売りに出しているということを隠す理由がありませんから、必要に応じて引き継ぎ相手を探しているということを広く発信して良いと思います。上場会社じゃないならば、業績の先行きが不明瞭で、社長が70歳になっても後継者のことを考えていないことのほうが、従業員にとっては不安なわけですから。

私は、このままでは廃業してしまうという会社を案件化した時、その会社の役員のマネージャークラスの社員も同席させて、候補にあがった買主との面談を行ったことがあります。通常はM&Aで社員を参加させるのは絶対にありえない。しかし、こういった状況の場合は、社員にも伝えておいたうえで面談を行った方が結果うまくいきました。

もし破談になってしまったとしても変な問題は起きないです。むしろ、自分たちに相談もされずに、従業員が嫌だと思う新オーナーが、M&A後にいきなり現れるほうが、状況が悪くなったでしょう。

世界と日本の小規模M&A市場の成熟度

大山最近思うのが、個人商売の経営者さんの事業承継をお手伝いしている我々にとって、この世界はM&Aという言葉で表現すべきではないのかもしれない、ということです。しかし、M&A以外の良い日本語がなかなかないんですよね…。

大原氏もうちょっといい言葉が欲しいですよね。

大山昔、アメリカのブティックや銀行を訪れた時、「あなたがしていることはM&Aなのか、Business Buyなのか、どっちだ?」と聞かれたことがあります。その時、アメリカは会社の規模によって言い方も違うことを知りました。

大原氏アメリカにはBusiness Brokers association(ビジネス ブローカーズ アソシエーション)というプラットフォームがあります。だいたい、収入が500万ドル以下(日本円で5億円以下)の会社だと、M&Aではなく、Business Brokerageと言われているようですね。

ビジネスブローカーはアドバイザリーとしてフィーをとるよりも、マッチングを主に担当しているのでフィーが安い。フィーを安くしても市場が成り立つということは、売主の担当アドバイザーのほうで的確な案件化の仕組みができているということです。そうすれば、マッチングサービスの提供者(プラットフォーム)は案件数を増やすことに集中できる。

大山そのようにテンプレートが決まれば、我々もやりやすくなるでしょうね。

大原氏海外の他の例ですと、ニュージーランドのスモールM&A市場も成熟しています。ニュージーランドの場合、税引き前の営業利益1年間分の業績をもとにM&Aをはじめられます。日本のM&A市場のように決算書3期分いらないのです。

日本では個人商店でも決算書2年分は必要ですが、なぜニュージーランドでは1年分で可能かというと、1年経って業績を維持できていればまた譲渡できるほどに市場が成熟しているから。マーケットが成熟できれば2回目でも譲渡金額は下がらないんです。これが現在の日本の市場となると、1回買ってしまうと次に譲渡できるかを見通せない部分があります。

大山ニュージーランドのように、会社を次世代にどんどん回していくということが日本でも自然にできるようになってくると、譲渡評価額がより収斂されていき相場も確立されるでしょうね。そうなってくると、日本もまったく変わってくると思います。

大原氏はい。そうなれば正しい決算書を残していく習慣も根付くはずです。言い値で決まることもなくなると思います。

新時代は「一生会社員としての人生」が大多数ではなくなる?

大原氏今後は、個人で事業をやっていく人が間違いなく増えるでしょう。人生100年時代ともいわれるなか、会社員として一生生きていくのがどんどん難しくなっていくと思います。

大山そうなるでしょうね。いままで4年くらい実験してきてマーケットがピクリとも動かなかったんですが、この1年弱くらいで急に動き始めました。バトンズをお使いの方は今2万6千人いますが、その全員が本人確認までしてユーザー登録をしているということは、何かしら理由があると思うんです。

大原氏期待値は大きいですよね。

大山みなさん何かしたいんでしょうね。すぐにマネタイズできるわけではないとしても、なにか、会社員から抜け出そうとしている人たちの波というか鼓動を感じます。

大原氏間違いなくあるのではないでしょうか。水戸さんの本を読んで行動している方が多いと思いますが、まだM&Aの知識に差のあるそういう人たちが参加できるような土壌を作っていかないといけませんね。

日本でフランチャイズが流行ったのも、比較的やりやすく、頑張ればそれなりに成果が出やすいというところがあったから。FCほどビジネスを定型化できないかもしれませんが、M&Aも近いものだと思います。第三者が買っても成果が出やすい、また、タイミングが来たら売却をしやすいというふうに、普通に売買ができる市場に成長しないといけない。でないと、マーケットが枯渇してしまいますから。

融資を受けるコツは1つの数字にだけ集中して頑張ること!今後のM&Aサイクルは短期間になっていくだろう

大山ある京大出身の買主さんで、開業1年で2つ事業を買われた方がおられます。

その方に銀行から融資を受けるコツを聞いてみたら、はじめに資金繰り表を作るとき、すべての数字は据え置きにし、ひとつだけ、自分が伸ばせると思う収益目標のみを変動させることに集中するそうです。銀行には、据え置いたほかの部分の収益予測は下がらないよう維持する努力のみ行い、一点だけを伸ばすと説得することで、融資を受けることができたと話していました。

人間、2つも3つも変えられません。「1個だけを頑張る」と語ったこの方は経営のセンスがあるなあと感じました。

大原氏それはセンスがありますね。それに今後は、あまり事業承継ばかりをやっても次の事業承継はまた次の20年か30年後ということになり、市場の成長が加速しません。小規模の案件は、2〜3年でまた譲渡するなど、サイクルが生まれる市場が理想です。

大山それは我々も望んでいるところです。それが自然にできるようにならないと、地方の事業承継はほぼ無理でしょうね。例えば、地方にM&Aを行なった若い人が来て、3年経営を行い面白ければもっとやれば良いし、東京に帰りたいと思ったら、譲渡して東京に帰れば良い。そういう仕組みができれば、高知でも島根でも、地域は関係なくなりますよね。

大原氏事業承継ってそういう形である程度は簡単にできる形にしていった方がいいと思います。会社を一生モノだけで終わらせないというか。そうすると横のネットワークも出てくるはずなので。あるひとつの会社の事業を経営していた人が何人も生まれるといいですね。

大山我々もそういう環境が整っていくように、発信していかなければいけないと思います。今日はありがとうございました。

 

大原達朗(おおはら・たつあき)

一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会(JMAA)代表理事 / 会長
アルテパートナーズ株式会社代表取締役
アルテ監査法人代表社員
ビジネス・ブレークスルー大学准教授
PT. SAKURA MITRA PERDANA Partner
nmsホールディングス株式会社監査役
日本マニュファクチャリングサービス株式会社監査役

中小M&Aの発展のため、専門家であるアドバイザーの養成、ネットワーキングを中心に、個人や自社でM&Aを実施する方々への情報提供、アドバイスなどのサービスをJMAAにて提供している。公認会計士、JMAA認定M&Aアドバイザー。